特集 心を織る 自然をまとう

手織りの布には表情がある。光に透かしてみると力の入っているところ、やや甘くなっているところが横縞を織り成している。織りながらふと他のことに気をとられていたのかと織り手の気持ちまでつい想像してしまう。草木で染めると縞がなお一層はっきりする。高速の自動織機で織り、化学染料で染めたものはどこを見ても均質で、このような味わいは見られない。自然の計りがたさ、おもしろさがそこにある。

天然繊維の手織り布からつくられた服を着ると、やさしく包まれる感じがして、心地よく、とても楽です。布の目の中に空気が含まれるので夏は涼しく、冬は暖かく、布に味わいがあるのでいつまでも飽きず、着るごとに愛着がわきます。

同じ糸でも織り手によって布の質感が違うのも不思議です。工房で見ていると、皆リズミカルにシャトルを左右に動かしていますが、人によってわずかな力の強弱があり、織りあがった布が微妙に違います。しっかり打ち込んでやや固めに仕上げるのはあの人。スカートやパンツにはぴったり。少し甘く、ショールにしたら素敵なのはあの人の織る布・・・・・

織り上がった布はマヌシ(注1)で受けて染めをします。「草木染めならマヌシ」と言われるために5、6年前から研究を続けてきました。まだ草木染めの注文はネパリ・バザーロからしかきませんが、頑張ればマーケットはきっと広がると努力を続けています。染めたい色に確実に染め、長くその色を留めることなら化学染料に敵いませんが、草木染めには想像を超えたものに出会う楽しさがあります。2度と出会えないその時だけの色に出会う楽しさ、そして月日と共に色が移ろいます。それは自然から分けてもらった命がこもっているから、生きているから変わります。生きている証として時間と共に変化します。永遠ではない限りある美しさだからこそ愛おしく、色が薄くなっても染め直し、重ねる美しさをもまた愛しみたくなります。

化学染料が作られ広まるまで、人は自然界から色をいただき生活を彩ってきました。ただ色を楽しむだけではなく、多くは虫を防いだり、からだを守る目的もあったようです。マヌシでも草木染めの染料を薬種問屋から買っていますが、それはからだのための漢方薬として売られているものが美しい色を出す働きもあることを裏付けています。人を守ってくれるものが同時に美しい色も与えてくれるとは、自然は何と大きな恵みを私たちに与え、守ってくれているのでしょう。古来から生活を彩ってきた自然の色に対する日本人の繊細な感覚は、これからも引き継ぎたい大切な財産です。自然からとった美しい名前の数々。瑠璃色(るり)、桜色、琥珀色(こはく)、亜麻色(あま)、萌黄色(もえぎ)、青磁色(せいじ)、浅葱色(あさぎ)・・・。赤だけをとっても、紅色、蘇芳色(すおう)、唐紅花(からくれない)、緋色(ひ)、茜色(あかね)・・・。自然が見せる微妙な色の違いに、美しい名前をつけて大切にしてきました。
ネパールでも見直されている伝統的な草木染め。私たちも共に守っていきたいと思います。  

注1 草木染めと絞りを中心とした生産者団体。

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