活動報告 紅茶生産者とモニタリング 丑久保完二


町から遠く離れた紅茶農園、澄んだ水と空気。そこで働く人々の子どもたちに奨学金を出しています。神奈川県立神奈川総合高校の生徒たちの自主活動、ワンコインコンサートの委員の方々と、カンチャンジャンガ紅茶農園と共に協力して実施しています。この3月のモニタリングの様子を報告します。

  山の中に広がるフェアトレードの世界
ネパールの首都カトマンズから国内便の小さな飛行機で東へ約1時間、左手に8000メートル級のヒマラヤの山々を上に見ながら飛ぶと、平野部に位置する飛行場、バドワプルに着きます。3月中旬とはいえ、とても暑く、カトマンズでは長袖のシャツが適温でしたが、ここでは、半袖が適温。4月になればもう夏の暑さ到来です。
 ここから北へ約100キロ走ると目的地フィディムに着きます。幾つもの山を越え、紅茶で知られるお茶畑がつづく田舎風景のイラムまでは、舗装された良好な道を飛ばして行きます。そこを過ぎると、道路は舗装されていないゴツゴツした石の道であったり、土がえぐられて輪だちになったガタガタ道に変わります。
 初めてこの地を訪れたのは9月で、まだ道がぬかっていて車が泥んこ道を滑りながら、ハンドルを右、左にと忙しく操作しながらゆっくりと進みましたが、今回はそれよりはまし。それでも、長時間のドライブで疲れ、周りも暗くなった頃に紅茶農園に到着しました。途中、幾つかの検問があり、銃を持った軍隊の人が反政府勢力か否か、調べます。日本人ということで、好意的に扱われます。それでも、紅茶農園の直前での検問はヒヤリ。夜7時の数分前。7時以後は通行禁止。夜遅くに移動する車は怪しいとみなされ銃口が向けられるからです。車をやや距離を置いて停止するよう指示が出ます。そして、まず、説明に来いと。「ばか、走るな!撃たれるぞ!」と誰かが叫び、緊張感が走りました。

  カンチャンジャンガ紅茶農園
ここは、パンチタールという地域にあり、近くの山の上にフィディムの町が一望できます。紅茶だけでなく、コーヒーも最近では採れるようになりました。カルダモン、シナモン、ジンジャー、ベイリーフなどのスパイスも栽培し、JAS認定も2001年10月に受けています。この時は、私たちもがんばり、IFOAM(国際有機運動連盟)に加盟しているオーストラリアの有機農業証明機関NASAAと様々なやり取りをしました。又、FLO(フェアトレードのラベル表示を通じて、その活動を促進する組織)の認定を2000年2月に受けていますし、USDA(米国で有機表示をするために必要な認定基準)も得ています。
 ここの特長は、海抜2000メートル前後の山間部で、空気と水が新鮮なこと、山の斜面が険しく不毛であった土地を活用して、紅茶農園を作ったことです。

  地域貢献とパートナーシップ
 町から遠く離れたところにある、この紅茶農園は、その地域の生活水準向上に大きく貢献しています。紅茶工場では約50人、紅茶農園では約200人の人々が働き、茶摘みの季節には更に多くの人々が働いています。幾つかの福祉プログラムも実施しています。最近では、家族計画に対する人々の意識の向上も図りたいと考えています。ここで働く人々は、以前より暮らしが楽になったと言います。毎日仕事があるのは、とてもありがたいそうです。生活はまだまだ厳しいですが、地道な努力を積み重ね、人々の意識も変わり始めています。

  福祉プログラムと奨学金
 仕事の機会が増えても、一世帯の子どもの数が多く、まだ、学校へ行けない子どもたちがいます。より多くの子どもたちにその機会を与えるには、収入向上と親の意識改善が必要です。
 そこで、フェアトレードを側面から応援する仕組みとして、奨学金を出しています。この1年間に支給した子ども達は157人。できるだけ近くの学校に行けるように配慮しました。このプログラムを始めて丸2年が経過します。今回のモニタリングでは、この奨学金のシステム作りから加わって頂いた高校生、勝俣さん、谷村さんも参加しました。2人とも、カトマンズで体調を崩してしまい、一時は行けないと思ったことも。でも、谷村さんは元気を取り戻し、紅茶農園まで私たちとともに足を運ぶことができました。
 この地も、ここ最近、政情は悪化していますが、この奨学金制度がこの地にもたらす効果は大きく、反政府勢力からも歓迎され、妨害を受けることがありません。彼らは、静かに私たちの活動の動向を伺っています。

   歓迎と子ども達の踊り
 3月24日夜遅くに紅茶農園に入り、1年間の活動結果のフォローをしました。翌日と翌々日は、各2校ずつ訪問。子どもたち、ご両親、先生方から歓迎を受けましたが、予想をしていなかったので、とてもビックリ。沢山の手作りの花輪、歓迎のティカ、そして、踊りまで見せて頂きました。高校生(この4月から大学生になっています)のお姉さんがはるばる来るというので、とても楽しみにしていたそうです。
 その翌日は、現地の世話役の人たちとの会議(ジョイントコミッティー)をしました。その前の夜2日間は、停電の中で夜遅くまで、現在の問題点、今後の展望も話合いました。
 又、現地の政府機関(District Education Office)にも伺い、教育の現状について情報交換をしました。特に現在のハイテク偏重がもたらす弊害、ネパールの目指すべき道など、お互いに熱が入りました。

紅茶農園を訪ねて   谷村夏美

   ネパールでのモニタリングは私にとって非常に良い経験となりました。初めて踏んだアジアの地は今まで私が行ったところとは雰囲気が似ても似つかず、驚きました。カンチャンジャンガ紅茶農園は、カトマンズとはまた別世界で、空気はとてもよく、大自然に囲まれながら、教育支援プロジェクトに関わっている人たちと何回も話しあい、とても貴重な体験でした。今回、紅茶農園に行って思ったことは、いろんな人と話したり、直接モニタリングすることによって分かることがたくさんあるということ。例えば、それは現地の人たちの考え方や状況、環境、そして私たちの仲間であるジョイントコミッティーの人々の考え方。私はこの仲間との話し合いが一番印象に残っています。同じ立場でものを考えているはずなのに、意見がわれて激しくぶつかり合うこともありました。あるとき、ジョイントコミッティーの代表であるポーデルさんがみんなとは違う意見を言ってくれました。教育の質の高い私立へ行かせたいとの意見が多い中で、公立の学校の生徒には私立の生徒にはない実践力がある。公立の学校の質も私たちが向上させないといけない、という発言でした。この奨学金の財源や将来の村のことを考えていたからです。それにより、視野も広がり、また会議の流れが変わったことに感動しました。
 今回、ここに来るまでは、私はこのプロジェクトのことについてきちんと理解していると思っていました。けれど、紅茶農園に行って、いろんなものを学んで、そこで新たな疑問が生まれ、それを解決したことによってよりいっそう理解を深めることができたと思います。3月に総合高校を卒業してしまい、またネパールに行ける機会は早々ないと思います。ワンコインスタッフとして直接関わることはできませんが、機会があれば是非関わっていきたいと思います。私が見てきたものを日本でがんばっているスタッフに伝えていきたいと思います。

 この3年間の想いを込めて    勝俣あや

 今回のネパール滞在では体調を崩し、私の一番のミッションである紅茶農園の訪問・奨学金のモニタリングが実現できず、悔しさが残る滞在となってしまいました。しかし、今回の滞在が無意味だったとは全く思いません。いくつもの生産者を訪問できたこと、特に3年前奨学金の送り先を選ぶときに最後まで悩んだスタンプ職人のシディマンさんやビシュヌホームの子ども達に会えた事は、今まで日本で何度も話を聞いていただけに、とても嬉しく感じています。また、今まではぼんやりと概念でしか捉えられなかった「フェアトレード」というものが、現地での活動を自分の目で見ることによって、どのようにこの活動が動いているかということを改めて認識することができました。ネパリ・バザーロの皆さんの活動は思った以上に地道でハードでスローでした。しかし現地の生産者との信頼関係や、その他いろんな関係者との繋がりがあってこそ成り立つこの活動は、活力にあふれていてとても魅力的でした。10日間のカトマンズ滞在の中でのこれらの収穫は、今後の私の大学生活や国際協力活動に、非常に大きな意味をなすと確信しています。

全員が学校へ行けるチャンス
 昨年よりも、村人も、又、農園で働くスタッフの意識も、それを支える委員会の人々も変わりはじめていることを強く感じた訪問でした。
 このプログラムが、周辺の地域へ良い刺激となり、より多くの子どもたちが学校へ行けることを願っています。


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