草木染めと絞りの生産者
「アヌーさんのネパリ研修を振返って」


ネパールの首都、カトマンズに、私たちの服作りの担い手、女性の自立を目指し活動する生産者団体マヌシがあります。始めた頃も私たちと同じ頃。ともに成長して今日に至っています。
 現地の技術研修もひと段落。今度は日本の市場、そして私たちの活動や働き方も知ってもらい、お互いに信頼を深めるために現地の製作現場のマネージャー、アヌー・サキャさんをお呼びすることになりました。時も良く、世界フェアトレード月間でした。それからの1ヶ月間を通してお互いが得たもの、その過程と私たちの実感をお伝えします。

【アヌーさんの印象】
高橋 アヌーさんの人間性が大好きです。彼女と毎日本当によく笑いました。生産者とかネパール人ということではなく、一人の人間として身近に感じ、一緒に過ごせたことが嬉しい。最も印象に残ったのは、染めのワークショップです。自分自身で染めたことで、染めむらなど、なぜそうなるかを実感しました。自然の良さとして、染めむら一つにしても、これからはお客様に自信を持ってお話ができます。一つ一つの商品のストーリーを伝えていきたいと思います。

中島 急ぎの仕事でかなりの量のアイロンがけをお願いした時、とにかく仕事が早いのです。そして、細やかな気配り。言葉が通じなくてもこちらの要求を汲み取ってくれる。その先を見て仕事をする姿勢はさすが!

長部 アヌーさんはいつも前向きで、おおらかで、一人の女性として本当に魅力があります。一緒に仕事をし、話をしたことで、よりネパールを身近に感じました。マヌシの女性たちの様子、ネパールの様子を直接聞くことができてよかったと思います。染めのワークショップを通して、本当に手間をかけて作業をしていることが分かり、以前にも増して商品に愛着がわきました。検品の際、なぜ起こるか不明だった染めの原因もわかりました。

宮里 アヌーさんの団体、マヌシのレースブラウスがネパールから到着。検品している時、「どれもよくできているわ!」と、自分が作った商品がきちんとできていることが嬉しそうでした。それでも、まだ改良の余地があると感じたそうです。

アヌー ネパールであれだけしっかり検品してもはじかれてしまう商品があるので、戻ったらもっと検品を強化しようと思いました。ネパールでは小さな問題でも、ここでは大きな問題になるのだと実感しました。

 マヌシの製品であるこぶろしきの検品を一緒にやって、更に草木染めに親しみを感じました。

完二 フェアトレードを続けていく上で、心の交流、ヒューマンリレーションシップは非常に大切だと思っています。アヌーさんは自ら現場に入り、スタッフと積極的にコミュニケーションを図ってくれました。現場の働き方が見え、コミュニケーションも成立したと思います。そのアヌーさんの積極的な姿勢は本当にすばらしかったと思います。こちらがお願いしたからではなく、自分から現場に入ってくれたことが本当にうれしかった。品質をあげるのは技術だけではなく、人間関係を作っていくことが大切だと感じました。

【現場で働く人の意識とマヌシの役割】
菅野 アヌーさんと直接お話してから、ネパールに行き、現場の方たちがどのくらいフェアトレードを意識して仕事をしているのか知りたくなりました。

アヌー IFATのメンバーになってから一年に一回、5月に紙芝居などを使ってフェアトレードの説明をしています。生活の厳しい家庭の女性たちはそれぞれの事情をかかえながら一所懸命、本当によく働いています。

春代 彼女たちは、その日を生きていくのに精一杯。現場で働く女性たち一人一人がどれくらいフェアトレードの意識を持っているかはあまり問題ではありません。私がいつも現場へ行くのは、直接話し合うことで少しでも刺激になり、何か仕事以上のものを得てほしいから。マヌシで働くことでお金以外にも自らの力で道を切り開く原動力を掴んでほしいからです。

アヌー 生産者のところに直接来てくれるのは、ネパリだけです。オーダーも状況や能力に合わせてペースを配慮してくれたからこそ、無理なく力をつけてこられたのだと思います。現場の女性のこともよく考えてくれます。他の団体は、問題があっても知ろうとしません。フィードバックも全くなく、送った商品がいいのか、悪いのか、反応が分かりません。

春代 現場に入っていくということは、それだけ覚悟が要ります。事情を知ってしまった者の責任、生産者からネパリへの期待も高まります。覚悟がないとできません。

アヌー マヌシを始めたきっかけは、仕事のない女性たちに仕事を、ということでした。それまで一度も針を持ったことがないカンチさんは、トレーニングを続けて、とても上手になりました。今、ネパリからオーダーされる縫製の中の難しい洋服はカンチさんに任せています。それに対して、縫製ができると言っていた女性はトレーニングをしてもそれほど上達しません。その人には簡単なものを任せています。同じように教えても、人によって上達のスピードは異なります。でも、遅いからといって、やめさせることはできません。なぜなら、マヌシの目的は自分で仕事を見つけられない人に仕事の機会を作っていくことだからです。

中島 マヌシのワーカーが家族や親類から何かにつけて頼られている、それも経済的というより子どもを医者に連れていくとか、その存在がとても頼りにされていると知り、立場の弱いネパールの女性が、働くことによって自信をつけ凛としている様子が目に浮かんだのと同時に、そんなにも世界が違うネパールという国に愕然としました。今回アヌーさんの来日によってスタッフは自分の背負っているものの重さに気付き、志がよりいっそう高くなったと思います。

アヌー マヌシを辞めて給料の高いプライベート企業に行った女性がいます。その人は一年後、もう一度働かせてほしいと泣きついてきました。プライベート企業は、男性が多く働いていて、女性蔑視、セクハラも多い。それが本当につらくて戻ってきました。一度はマヌシをやめた彼女を戻すかどうか相談した時、代表のパドマサナさんは「なぜその人を受け入れないのか。マヌシは困難な女性の仕事を作るための場所なのだから」と言いました。マヌシは2年前から2回のボーナスも出せるようになりました。縫製部門の6人は、注文が多い時自宅でも縫い、歩合を給料にプラスしています。。週末、家で2、3着縫ってくる人もいて良い収入になっています。



【草木染めのこと】
アヌー 染めはとてもデリケートで自然に左右されます。その布の質、染める水の質、天候にも。でも人によるミスはなるべく減らそうと努力してきました。染めでトラブルが発生したときそれが何故起こったのか原因がわからないので、皆に怒らないからと、どうしたか正直に言ってもらいます。そして原因を突き止めてその後に生かします。

入澤 淡いピンクの染めをしている鍋上に気がつかず、別の染めで使った鉄媒染の付いているスプーンを持ってきたら、鉄が反応し淡いピンクにパッと紺色の斑点がたくさんできてしまいました。スプーンでかき混ぜたわけではないのに、なんてデリケートなんだ!とびっくりしました。染めの大変さは話には聞いていましたが実際にやってみると、想像以上でした。

一条 油しみだと思っていたものが、布を干している庭に咲く花の花粉のためだという話は印象的でした。大家さんの飼い犬が入ってこないよう注意し、野鳥が飛んでくると追い払うという苦労話は日本では想像もしないことです。

アヌー マヌシの草木染めを愛してくれるたくさんのお客様がいることをこの目で見て、本当に勇気づけられました。特に木綿の草木染めは難しく、何度も止めたいと思い挫けそうになりましたが、続けてきて良かった!これからもっともっと研究して良い製品を作りたいと思います。今回、みんなの意見が聞けてどんなことを感じているのか分かってよかった。日本での一ヶ月間のトレーニング、たくさんの経験は自分にとって本当にプラスになりました。心から感謝しています。ありがとうございました。
2003年
9月23日 受入準備、研修計画からビザ申請
 更なる製品の品質向上を図り、現場で指導的立場にある人を招くことにした。日本の市場、仕事の仕方を自ら経験し、問題に気付いてもらわなければならない。人選も終わり、ビザ申請準備に入る。


研修日記

2004年
3月21日 セミナーに合わせて沖縄旅行計画
 だんだん暖かい日が多くなり、過ごしやすくなってきた。もうすぐ桜の季節。今回は、沖縄大学と共催でセミナーを開くため、打合わせ準備に入る。日頃お世話になっているフェアトレードのお店も訪問したい。

5月7日 日本での研修1日目
 今日は、アヌーさんがネパリの事務所に来た第1日目。アヌーさんとこれから約1ケ月一緒に働くことができる。久しぶりにお昼ご飯を大勢で囲んで賑やか。

5月9日 横浜で世界フェアトレード・デイ
 予想以上にたくさんの参加者が集まり、会場に熱気があった。アヌーさん、少し緊張はしていたが、とても刺激があり楽しそうだった。来日後3日経ち、今夜からアパートに移り、自炊もでき、明日から落ち着いて仕事に取り組むことができる。

5月10日 初めての一人暮らし
 男尊女卑の強いネパールで、女性が一人暮らしをすることはほとんどない。アヌーさん、日本では、一人で買い物をしながら家に帰る。家に着いたのは夜10時近くになっていたが、野菜とオイルとマサラを手に入れたので、『今から料理するわよ!』と、とても嬉しそう。一人で夜道を歩いたことも、きっと良い経験となるだろう。

5月11日 入荷商品を自ら検品
 
 検品していて、これは何だろう?と疑問に思ったとき、直接その問題を伝え、話し合うことができ、学ぶことがたくさんある。アヌーさんと直接会ってから、マヌシがより身近に感じられる。

5月15日 沖縄大学共催セミナーの開催

 たくさんの方と出会い、沖縄の地でいろいろなことを感じた。現在の世界をより良くしていくのに、フェアトレードは本当に有効な手段であり、それに関わっていける喜び、そして責任の重さを感じた。
*この後、横浜に戻り、近隣のフェアトレードのお店を訪ねたり、日本の市場の動きなどを学んだ。

5月22、26、27日パッチワーク・ワークショップ

 茅ヶ崎の手芸作家、守谷純子さんの指導を受ける。昔からどんな小さな布も大切に活かしてきた日本の様々な技法を習う。端切れでコサージュを作り、ネパールのトゥリさんが作った竹篭にあしらうと、まったく違う味わいの素敵なバッグができた。マヌシでも、毎日苦労して作る絞りの草木染めが、服などを作ったあとに端切れとして残るが、手をかけて染めた布はどんなに小さな布でも捨てるのは心が痛む。小物に再生できれば、有効利用にもなり、商品のバリエーションも広がる。何よりも、家を空けづらい女性たちが自宅で仕事ができる。アヌーさんの真剣さはお稽古に来ていた他の人たちにもよく伝わり交流もできた。

5月30日 草木染めワークショップ

 スタッフ、ボランティア総勢20名が参加し草木染めワークショップを行った。マヌシが普段使っている染料、ミロバラン、ザクロ、ラック、藍などを使ってなるべく同じ方法で染めた。


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