世界フェアトレード・デイ 公開セミナー報告


5月8日は、世界フェアトレード・デイ(WFTD)でした。国際フェアトレード連盟IFATに所属する世界約60ヶ国200団体を中心に、各地でフェアトレードへの理解を深めるためのイベントが開催されました。ネパリ・バザーロも5月9日に横浜で、そして15日には沖縄で公開セミナーを行ないました。今年のテーマは「小さなことが世界を変える」。現在、世界中が不穏な空気に包まれ、紛争地域だけでなく、欧米にも日本にも不安を掻き立てるニュースがあふれています。大国が力で抑えつける「支援」の行く手に平和があるのでしょうか。憎悪や暴力のない世界は何によってもたらされるのでしょうか。私たちは、日頃の活動からフェアトレードにその効果を実感し、今年の公開セミナーの中心課題としました。


WFTD IN 横浜
「今、フェアトレードに求められていること」
 
 5月9日、横浜での公開セミナーは、ネパリ・バザーロの直営店「ベルダ」がある神奈川県の「あ〜すぷらざ」で行われました。70名を越す方が参加され、会場は熱気に包まれました。

 パネルディスカッションでは、パレスチナ・オリーブの皆川万葉さん、ジャストレード(JUSTRADE)の須子はるかさん、ネパリ・バザーロ副代表丑久保完二をパネラーに、ネパリ代表の土屋春代の進行で、紛争地での民族間の融和を図るフェアトレードの役割について話し合いました。また、ネパールの草木染め生産団体マヌシからお招きしたアヌー・サキャさんから現場の様子も伺いました。
 ジャストレードの須子さんは、フェアトレードを手がけて半年。パワフルに活動を展開しています。ブラジルでボランティアをしていた時に出会ったストリートチルドレン、社会起業家へのインタビューで得た体験をきっかけに、自分がいかに社会の問題を他人事としてみていたかを痛感。今、社会の問題に関心のない人も、体験する機会があれば必ず興味をもつようになり、関心を持てば一人一人の行動が少しずつ変化し、社会の土壌が変わっていくと確信し、情報発信に努めています。
 
 パレスチナ・オリーブの皆川さんは、パレスチナ北部ガリラヤ地方に住むパレスチナ人の農業団体からオリーブオイルや石鹸を輸入しています。本来美しく豊かなイスラエルで、パレスチナ人は二級市民として不平等に扱われ、経済的にも厳しい状況に置かれています。土地の没収、不平等な水の分配、市場からの締め出しなど様々な制約を受けるなか、少ない水でも栽培可能な伝統作物オリーブの生産を通して農業の再生とパレスチナ人の生活向上を目指しています。

 ネパリ・バザーロは、ネパールを活動の拠点として、フェアトレード商品の輸入販売だけでなく、専門家を派遣しての技術指導、奨学金などのソーシャルワーク、生産者のモニタリング、オーガニック証明の協力など、現地生産者に密着した活動を続けています。

 情報社会といわれる世の中でも、山深い小さな村で働く生産者や、暴動が続く街で生きていかねばならない市民の日々の暮らしは、マスメディアからは伝えられません。それぞれのフェアトレードの活動を通して、これまで知らずに来たそれら多くのことが見えてきました。各地の紛争の根源は、表面的に見られる宗教や民族、政治思想の対立ではなく、貧困・不平等にあります。今台頭している反政府勢力やテロリストを根絶しても、世界の不平等、貧困問題が解決されなければ、また別の暴力行為が生まれてきます。経済的に最も厳しい地域が、テロリストの活動地域の中心でもあります。また最もフェアトレードを必要としている地域でもあります。

 フェアトレード団体は、小規模生産者の状況と商品開発の可能性を知るために、危険を伴う地域へ実際に足を運び、現場の生産者との話し合いを重ねていきます。精一杯作った製品が遠い外国で喜ばれている、状況を知ろうと危険を犯して訪ねてきてくれる、一時の同情ではなく将来まで考えて真剣に悩んでくれる・・・紛争の地で暮らす小規模生産者にとって、それは「自分達は見捨てられてはいない」と思える心の支えなのでしょう。大国の力を誇示した一方的な「支援活動」では起こりえない「変化」が、ゆっくりながらも着実にフェアトレードの現場には起こっていることを確信するセミナーでした。

WFTD IN 沖縄
「映画を通してみる国際協力とフェアトレード」

 ネパリ・バザーロは、毎年1回研修ツアーとして各地を訪れ、フェアトレード店の方との情報交換やイベントのお手伝いを通して、互いに親睦を深め、元気を分け合う機会としています。今年は沖縄ツアーを企画し、ネパリのスタッフ、ボランティアに加え神奈川や名古屋のフェアトレード店の方も参加して、25名という大人数となりました。

 ちょうどフェアトレード月間ということもあり、沖縄大学土曜教養講座の場を借りて公開セミナーを行ないました。内容は、「with・・・若き女性美術作家の生涯」という映画の上映と、マヌシのアヌー・サキャさんとネパリ代表土屋春代の講演です。沖縄での準備は、那覇にフェアトレード店LOHASオープン間近の大城あけみさんが何ヶ月も前から奔走してくださり、彼女の声かけで、沖縄大学のボランティアサークルの学生達も、準備から片づけまで運営に協力をしてくれました。通常50名ほどの参加という土曜講座ですが、桜井学長のご尽力や地元フェアトレード店の情報発信力のおかげで、会場は予想を大きく上回り、老若男女問わず170名もの参加で席が埋め尽くされました。
 「with…若き女性美術作家の生涯」はボランティアとして1年間ネパールで美術を教えた佐野由美さんが、貧困下で生きる人々とのふれあいを通して、社会の矛盾に悩み、一時的な寄付に疑問を抱き、技術を身に付け仕事を得ることの重要性を感じ取っていく過程を描いたドキュメンタリーです。現地の言葉を懸命に覚え、共に長い時間を過ごして初めて見えてくる人々の苦悩。佐野由美さんの想いはフェアトレードにも共通する想いです。この映画が一番初めに上映されたのはこの沖縄の地でした。今回の上映で、主人公由美さんのお母様、佐野京子さんも多大な広報協力をしてくださいました。
 その後の講演では、土屋春代が識字率などネパールの現状や、ネパリが行なっているフェアトレードを具体的に報告しました。日本でのフェアトレードの認知度は5%を割るといわれていますが、フェアトレードは生産者の生活向上に効果的なだけでなく、オーガニック、安全、新鮮、自然素材など消費者にもメリットが多く、今後さらに広がることが期待されます。
 アヌーさんからは現地でのマヌシの活動について報告がありました。厳しい地域の女性たちのために技術指導を行なったものの、市場が見つからず生活向上につながらなかった頃の悩み。ネパールにある素材を活かしたユニークで美しい草木染めの開発。ネパリ・バザーロは、頻繁に生産現場を訪れ、生産者の状況や生産条件もよく把握しているので、的確な指導、フィードバック、現実的なデザイン提供ができ、技術の向上や商品開発につながった、とネパリと消費者への感謝が述べられました。

 会場には沖縄各地のフェアトレード店の方や開発教育に関わる方も参加され、終了後の懇親会まで意見交換・情報交換が盛んに行われました。
 沖縄ツアーの残り2日間も、フェアトレード店の訪問、藍染め工房の見学などで様々な方と交流を持つことができました。沖縄で生まれ育った方も、思いあって沖縄に移り住んだ方も、魅力にあふれ、自然体の笑顔の裏に強い意志を感じさせる方ばかりでした。

 最終日には、風の里の高江洲さんに糸数アブチラガマを案内していただきました。ここは、沖縄本島南部にある自然洞窟で台風時の避難場所にもされてきましたが、沖縄戦時は住民の避難壕でした。戦場の南下につれて日本軍の陣地壕、病院となり、負傷兵、日本兵、住民の雑居状態で多くの命が失われました。今は平和学習の場として観光客や修学旅行生に公開されていますが、いつまた「違う目的」で使われるようになるか・・・。
 ゆっくりでも、小さくても、着実に社会を変えていくために、今、自分がすべきことは何なのか・・・。それぞれが手にした懐中電灯を消し、冷たく張り詰めた漆黒の闇に身を沈めながら、フェアトレードの果たすべき責任を強く胸に刻み付ける、そんな旅の締めくくりとなりました。

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