World Today −フェアトレードニュース−
企業の社会的責任(CSR)/社会責任投資(SRI)
「フェアトレード最前線!!!」

主催:パッチワーク、フェアトレード学生ネットワーク
協力:ぐらするーつ、フェアトレードカンパニー、ネパリ・バザーロ

2004年10月16日(土)に東京ウィメンズプラザでフェアトレードをテーマとしたイベントが開かれました。5回目になる今回は、プラザ内のフェアトレード専門店「パッチワーク」とフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)との共催です。CSRの研究をされている拓殖大学国際学部教授長坂寿久氏を迎えて、IFAT3団体、ぐらするーつ、フェアトレードカンパニー、ネパリ・バザーロから現場の情報を交えて、内容の深い充実したセミナーとなりました。
(CSR=企業の社会的責任、IFAT=国際フェアトレード連盟)

 始めに、「フェアトレードの現状」と題して、日・米・欧の比較と日本フェアトレード界への提案がFTSNからされました。行政も支援して売り上げを着実に伸ばしている欧米では、学生たちも企業や議員への働きかけ、共同キャンペーンなど盛んに行っています。日本では、フェアトレードの歴史は浅く、売上額や店舗数のデータも正確なものがありません。行政の取組みも皆無で、散発的にメディアに取り上げられているのが現状です。FTSNからは全国規模のネットワーク化による、インパクトのある大規模キャンペーン、全国規模の市場調査、ノウハウの共有、企業・メディア・行政への働きかけを行っていくことが提案されました。
 プレゼンテーションのあとは、雰囲気も一転してのファッションショーです。フェアトレードの服を素敵にコーディネートして次々に登場するモデルたちに会場は拍手が鳴り響きました。
 後半のパネルディスカッションは「フェアトレード、これからのビジネスモデル」というテーマで行われました。鈴木隆二氏(ぐらするーつ代表)、胤森なお子氏(フェアトレードカンパニー広報ディレクター)、長坂寿久氏(前書き参照)と丑久保完二(ネパリ・バザーロ副代表)をパネリストに、CSRの動きを紹介しながらフェアトレード認証マークにみる世界の動きを説明し、21世紀に求められる世界のニーズを語り合いました。

【フェアトレード基準】
胤森:IFATはフェアトレードの基準として9項目を提示しています。勝手な解釈を企業等が使い、フェアトレードが間違って一人歩きしないよう基準を明文化して、それを守っている団体がマークを取得しています。

長坂:フェアトレードのやり方は国ごと、団体ごとで多様にありますが、その理念は共通のはずです。フェアトレードラベルなどいろいろな基準が作られていますが、IFATの基準はもっとも配慮されたものといえるでしょう。

丑久保:9つの基準は特別なことではありませんが、その基準を守っていることを審査し証明するのは容易ではありません。IFATでは国際会議でも盛んに話し合いをして来ました。その結果出た結論が自己評価システムです。その延長線上に、相互評価、外部評価を用意しています。

【生産者への効果】
丑久保:フェアトレードの特長は、ただ生産者の賃金を引き上げるのではなく、生産者の自立やその地域全体に目を向けていることにあります。ネパリ・バザーロはネパールの多くの生産団体と関わり、様々な技術の指導をしたり、新しい素材を活かした物作りなどに努めています。しかし、フェアトレードによる生活改善には時間がかかります。日々子どもは成長しています。そこで、奨学金などを支援する活動も行っています。日本の学生、紅茶農園、ネパリの三者が出資し、農園で働くすべての子どもたちが学校へ行けるよう支援を続けてきたケースでは、対象となる子どもたちだけでなく、周りの大人たちが変わっていくという大きな効果が見られます。自分たちで暮らしを良くしていけることを、言葉だけでなく実際に経験することで、村人たちは着実に変わっています。これもフェアトレードのパイプがあるからこそ成り立つ効果です。

【環境への配慮】
胤森:フェアトレードの9つの基準の中に環境への配慮が明記されていますが、オーガニックだけを指しているわけではありません。ただ、生産者と責任を持って関わっていくためにはその生産が持続可能なものでなければなりません。農薬を使っていては土地が痩せ、生産者にも負荷がかかります。フェアトレード団体が継続的に購入する契約をしてくれることで、農民自身も長期的視野を持って有機農業を行っていくことができるのです。

丑久保:特に、遠隔地の小さな農民はどんなに良い作物を作っても流通で不利になります。それを克服する手段として、有機認証機関を国内向け、海外向けに作ることが出来たらと思います。国内、及び世界に通用する認証を受けることで、その村が有機農業の発信拠点となることができるのです。ネパールでは、コーヒー、紅茶、スパイスでこの取り組みをしています。この成功は条件の厳しい土地でも「やればできる」という効果をもたらすでしょう。

【消費者への働きかけ】
胤森:日本の消費者は、フェアトレードだからというより、その商品が気に入ったから買っているという人が多くを占めます。

鈴木:品質に厳しいのも日本の消費者の特徴で、私たちは安いものを安く売るのではなく、良い品を適正な価格で販売するよう努力してきました。

丑久保:品質が向上すれば、低価格でなくても消費は伸びます。それでも、いまだに低品質・低価格のイメージをぬぐいきれない人がいるのも事実です。

鈴木:消費者については、IFATの基準で語られていません。しかし消費者と共に視野を広げ、共に成長していくために、現地で行っている藍染めを日本の消費者にも体験してもらうワークショップを開いています。

胤森:フェアトレードを意識せず、ただかわいいから、美味しいからと購入してくれた人にも、フェアトレードを知るきっかけになるよう、カタログの記事や商品のタグでできる限り情報を伝えるようにしています。

【スタッフについて】
胤森:フェアトレード団体のスタッフは、どこでも少ない人数で長時間忙しく働いています。スタッフ自身も「持続可能」であるためにスタッフの労働条件についてもオープンに話し合う姿勢が大切だと思います。

丑久保:フェアトレード業界で働く人々はパイオニアであり、ボランティア精神なくしては成り立ちません。野球選手が時間を気にして練習を短縮すれば第一線から退く結果になるのと同様に、フェアトレードのスタッフも勤務時間以外も自主的にフェアトレードに取り組む意識がないようでは、フェアトレードを推進していくことは難しいでしょう。

【行政の果たす役割】
長坂:欧米ではフェアトレードが急成長していますが、そこでは自治体や公共機関が当然のように役割を果たしています。議員がフェアトレードの重要性を市民に語ったり、自治体がフェアトレードコーヒーを取り入れるといった動きは、まだ、日本には見られません。

【CSR‐企業との連携】
長坂:CSRは最近頻繁に目にするようになって来ました。企業は利益を上げることが第一で、利益の一部を寄付などで社会に還元することが「企業の社会貢献」とこれまで考えられてきました。しかし、CSRという新しい経営論は、経営のすべてのプロセスに、経済(収益)のみならず、環境と社会問題をも組み入れていくというものです。それは具体的には企業とNGOがパートナーシップ(協働)を組んで社会を変えていくという考え方から生まれてきたものです。日本の企業は環境への対応は行ってきましたが社会的側面には疎く、NGOと組もうという時に注目されるのがフェアトレードです。フェアトレードは、環境にも人権にも配慮し、CSRと共通する理念を持っているからです。日本でも、企業とNPOとの協働関係が増えてきています。これは、フェアトレードにとってチャンスでもあり、しかし他方では危機でもあります。フェアトレードは商品を介して広がっていくので、企業とパートナーシップを組み、大手流通で扱われることはメリットですが、企業からの提案にうっかり乗ると、今年は大量に扱うが来年はまったく扱わないという恐れもあります。生産者への配慮に欠くやり方はフェアトレードに反します。企業と協働関係を組む機会があったら、企業の今までのやり方のまま販売を協同するのではなく、企業を教育・啓蒙する意識で取り組みたいものです。

【小売店との関係】
丑久保:フェアトレードを支えてきたのは、各地の小さなお店です。フェアトレード団体も、小売店との座談会を開くなど交流を大切にしています。

鈴木:一般流通も重要ですが、フェアトレードの小売店が増えていくことが何より大事です。専門性を持った小売店は、フェアトレードの最前線です。

【ネットワーク化について】
丑久保:FTSNが提案したフェアトレード団体のネットワークは大変重要ですが、弱い団体のもたれ合いではなく、各団体が独自性と力を持った上でネットワークを組むことが必要です。フェアトレードという言葉が知られるようになり、CSRなども通して注目されていますが、フェアトレード団体の数は増えているわけではなく、物価高に悩む生産者や経営に苦しむ小売店との板ばさみ状態の面もあります。ネットワーク化を進める前に様々な課題があります。

胤森:IFAT加盟3団体は、世界フェアトレード・デイの企画などで意見交換をしています。ネットワークについても話題に挙がっています。

丑久保:今が重要なターニングポイントとも言えそうです。フェアトレードを必要としている生産者は大勢います。フェアトレードが広がり、企業とフェアトレードのパートナシップが進めば、生産者の自立、小売店や私達の自立した活動を阻害される危険性もあります。それに対抗するためにも、他には真似のできない付加価値のある商品を生産し、小売店もユニークな専門店を目指していかねばならないでしょう。小売店同士のネットワークも大切ですね。

長坂:一ヶ所だけが力を持って大キャンペーンを展開するネットワークは、危険といえます。キャンペーンで一時的に流行っても、すぐに廃れるのはフェアトレード精神に反します。大企業がフェアトレードコーヒーを扱えば全国に一気に広まりますが、従来の大量生産のコーヒーの一部分でフェアトレードコーヒーを扱う大企業にとって、フェアトレードのリスクは痛くもありません。他で補うことのできない小さなフェアトレード団体が地道に努力しているのとは異なります。フェアトレード商品が普及するのは素晴らしいことですが、望ましいのは中央ではなく日本各地でキャンペーンが行われ、それぞれの地域がネットワークでつながることです。その時には、地方自治体や地域に根ざす小売店が重要な役割を果たすことでしょう。
 ヨーロッパにおいて、特にここ数年フェアトレードが興隆しているのは、このCSRの流れの中で起きています。今後、日本でも増えてくると思います。その意味で、フェアトレード運動は新しい局面を迎えているといえそうです。

会場からの感想
 実際、大企業でも既にフェアトレードコーヒーが販売されていますが、今後もっと多くの企業に広がっていったとき、逆にフェアトレードの業態、理念の首を締めることになるのではないか、ということを最近考えていました。フェアトレードの目指す発展や拡大とは、一般企業とは異なり、「拡大」という言葉より「浸透」という言葉が合うのかと思います。この違いを抱えた両者が組んでいくのは、ともすると足の引っ張りあいにもなるのでは、と思ってしまいます。
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 地域レベルで独自性を出してフェアトレードを進めるには、地域のアンテナショップの機能を果たせるフェアトレードショップの役割が重要になってくるのではないでしょうか。これからも、共に力をあわせてフェアトレードを進めていきたいと痛感しました。
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 私は、フェアトレード商品をいちブランドとして扱うことができるのではないかと考えているので、その手段として、企業との連携も考えていけたらいいのではないかと思いました。これには様々な問題が生じることは分かりますが、その解決策を含め考えていきたいと思います。


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