ネパール訪問記 「生産者を訪ねて」

ネパールの首都、カトマンズ。ここに、私たちの製品の担い手である生産者団体があります。2004年9月にスタッフ2名が生産者を訪問した時の様子をご紹介します。



やっぱりフェアトレードがいいな
中島 由利

空港からカトマンズ市街までの車から見たネパールの風景は「うわー全然フェアトレード行き届いてないのでは?ほんとにフェアトレードは役に立っているんだろうか?」という感想でした。ぼろぼろの家、がたがたの道、この国には街ってあるんだろうか?と思いました。ホテルの近くに来たらちゃんと街らしくなっていて、ちょっとほっとしたくらいでした。観光客の多いタメルの街中では普通に日常社会が動いているように見えます。
一番会ってみたかった木彫りスタンプのシディマンさんのお家も、カトマンズの喧噪から離れてのほほんとしているようでした。でもお話を聞くと娘のサンギータさんは学年で1、2を争う優秀な成績だったにもかかわらず、コネ社会のネパールでは就職口が全然ないそうです。また、一家7人の家計を支えるマヌシ(注1)のカンチさんは、お母さんの面倒を見るために結婚しないでいるようです。イラクで12人のネパール人の人質が殺されたようなひどいことが日々、村々でも起こっていることが分かり衝撃でした。街中の燃やされたビルやお寺の階段で死んだように寝ている人や、ごみの中の豚を見て、たくさんの暗い話を聞けば聞く程、この国の抱える問題は底なしのように思えました。
以前ネパールへ行ったスタッフのネパール報告で「会ってしまった」と言っていたのが印象的でしたが、その感じがつかめませんでした。それが「これの事かー」と段々とはっきり分かりました。いろんな人と会えば会う程「会ってしまった」と思いました。「見てしまった。聞いてしまった。もう逃れられないな」と思いました。だからこそ、何ができるんだろうと考えたときに色々ある支援の仕方の中で「やっぱりフェアトレードがいいな」と思うことができました。ネパールでネパリの生産者の人たちがみんな生き生きと働いているのを見ることができて、その団体のマネージャーの人たちの熱意を感じることができて本当によかったです。私たちはフェアトレードを通してネパールの人たちを支援しているけれど、日本の私たちもネパールの人たちに支えられていると思えたこと、繋がっていることを再認識できたことがとてもよかったです。

フェアトレードの現場を見て
 高橋 百合香

 前回のネパール訪問から10ヶ月。ネパールのことを常に頭に浮かべながら仕事をしてきましたが、ついにまたそのネパールに到着。空港に降り立ち、そこから見渡すカトマンズの美しい景色に緊張と興奮を感じたのも束の間、ホテルに着くやいなや準備をして、生産者の元に飛び出しました。ネパールでは、仕事ができる時間は限られているうえに、いつバンダ(注2)になって仕事ができなくなるか分からないので大急ぎであちこちまわります。伝えなければならないことが山ほどあるのに、どの生産者のところでも、私たちのことをとても歓迎してくれて、お茶や卵をふるまってくれます。ネパールでは卵は大変貴重で、貧しい生活をしている人にとっては病気の時にしか食べることができません。彼らの心のこもったおもてなしを受けつつ、最近の話をして、困ったことはないかを聞いて、ようやく仕事の話に入ることができました。ここまで辿りつくのも一苦労ですが、こういった生産者とのコミュニケーションの時間を大切にしてきたからこそ、生産者との今の信頼関係が築かれてきたのだと思いました。生産者の中には、ネパリ・バザーロのオーダーだけで一家の生活が成り立っているところもあります。私たちがしている仕事の責任の重さをずっしりと感じました。
 この5月に1ヶ月間日本で研修を受け、事務所で出荷や検品などの作業を一緒にしたマヌシのアヌーさんにも再会しました。最近は日本からのオーダーが増え、終わらないときはみんなで7時くらいまで残ったり、お休みの日にも出てきて仕事をするそうです。ネパールで女性がここまで仕事に打ち込むということは、本当にすごいことです。日本の製品の品質の高さや、日本のスタッフが夜遅くまで頑張っていることを知って、マヌシでも、もっといい製品を日本へ送ろうと張り切っているそうです。仕事場もとてもいい雰囲気で、私たちの仕事や気持ちがネパールの人々と繋がっているなあと、とてもうれしく思いました。ネパールにある素材で物作りをしているネパールの人たちと、日本で仕事をしている私たちと、その商品を並べるお店の方々と、気に入って買ってくださるお客様と、一人一人がフェアトレードの輪の中の大切な存在で、役割があることを感じました。実際に自分の目で見て、話を聞いた責任はとても重く感じられ、日本で頑張って仕事をして、そしてまたネパールで出会った人々の忘れられない笑顔に会いに、早く戻って来たいと思いました。

(注1)マヌシ 草木染めの生産者団体。
(注2)バンダ 政治がらみで強制的に営業停止させられる日。交通機関も全て止まり、リキシャやバイクや自転車以外は動くことはできません。


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