生産者紹介 スプーン&フォーク職人 サヌ・バイ・スナルさん 文:中島由利


いい顔のおじいちゃん。それがサヌ・バイさんの第一印象でした。実年齢はおじいちゃんとお呼びするには失礼な位お若いのですが、おじいちゃんおばあちゃん子だった私がそう呼びたくなってしまうような、なつかしい感じを覚える風貌の方でした。お父さんもそのお父さんも鍛冶屋の職人で15歳のときからお父さんに付いて作業を学び始め、もう40年になります。洋銀細工はとても難しく一人前になるには時間がかかります。とりあえず一連の作業が出来るようになるまでに2、3年ですが、いま作業を取り仕切っている息子さんは15年たってもお父さんのサヌ・バイさんに聞かなければ出来ないことがあるそうです。
 スプーンを作る工程を一通り見せていただきました。まず、火をおこします。火の中に洋銀を入れ、洋銀が充分暖まるまでの間に型を取ります。丁寧に丁寧に枠に土を入れていき、スプーンを1つ入れます。その上にさらに枠を置き、また丁寧に土を入れていきます。最後にぎゅっと押して開くと、きれいにスプーン型が取れていました。もう1度型を合わせて溶けた洋銀を流し込みます。型を開くと今度は見事なスプーンができています。洋銀を流し込んだ時の流し口がスプーンの先に付いているので、それを取り除き削っていきます。削る作業は3段階もあり、細部までぴかぴかに磨き上げていきます。慣れた手つきであっという間にできてしまいましたが、一番難しいのは型取りと流し込みだそうです。型が細部までしっかり取れたか確かめられるよう、光が強い朝8時から12時くらいまでが仕事がしやすい時間です。雨の日は型取り、流し込みは出来ません。型を取る土は真っ黒ですが、はじめは白かった土が使っているうちに焦げて黒くなったそうです。材料の洋銀は大きい板を切った端材を使っています。カタログを読んで知っていましたが、本当に1本ずつ型を取って洋銀を流し込んで、きれいに削って作られていくのを目の当たりにすると「すごい!」の一言です。ちょっとのゆがみもいとおしくなってしまいます。
サヌ・バイさんがネパリ・バザーロと仕事を始めたのは6、7年前。そのころ親子2人でやっていたのが、今ではもう1人の息子さんと親戚の子ども3人が増えて6人です。人も増えたので1日に50本作れるようになりました(以前のカタログでは1日に25本と紹介していました)。2004年の世界フェアトレード・デイにサナ・ハスタカラが開催したハンディクラフトコンテストでは、サヌ・バイさんの作ったスワヤンブー(仏塔)が1位になったそうです。「仕事をしていて今までで一番うれしかったことは何ですか?」と聞いたところ「こうやって仕事があることが一番うれしい」と答えてくれました。今までなかった電話を持つことが出来たりと生活が向上してよかったことはたくさんあると思いますが、静かにそう答えてくれたサヌ・バイさんの素朴さにぐっときました。そして「もっとスプーンとフォークを売らなければ!」と思いました。決して表には出さないけれど、自分の仕事に本当に誇りを持っている姿が素敵なサヌ・バイさん。その工房から生まれたスプーンやフォークが使えるなんて、とっても幸せで、贅沢な事です。みなさんもぜひこのスプーンやフォークを手にして、じっくり眺めてネパールのサヌ・バイさんの工房に想いを馳せてみてください。

サナ・ハスタカラ

 個人や数人規模で製品作りをしている100を超える小さな生産者たちを抱えて、マーケティングや輸出業務を行っています。その生産者と私たちネパリ・バザーロの橋渡しをしてくれています。
 サヌ・バイさんは、昔アーミーバッジやベルトのバックルを細々と作っていました。以前から面識のあったサナのマネージャー、チャンドラさんが声をかけ、サヌ・バイさんは伝統技術を生かしながらも新しいタイプの製品作りができるようになりました。

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