生産者研修レポート 「スミットラさんとネパリの1ヶ月」

2004年5月にマヌシのアヌーさんをお呼びしたのに続き、生産者団体マハグティのデザイナー、スミットラ・バイジュさんを招いて研修をしました。スタッフと共に過ごした1ヶ月、お互いに理解を深め感じたことをお伝えしたいと思います。



2004年9月22日  織りの研修(福岡) 織りの専門家、大塚瑠美さんのもとで3日間織りの研修。

2004年9月26日 熊本・天草にてお店訪問 熊本で女性起業家からの打診を受け、新たな製品について打合わせ。デザイナーの方に出会い、強い刺激を受ける。熊本のフェアトレードショップも訪問、日本各地にフェアトレードの仲間がいることを実感。天草で初めて海に触れて感激!タコと遭遇、「かまれる!」と大はしゃぎ。

2004年9月28日 ネパール語は厳しい? スタッフとネパール語のレッスン開始。文法に厳しく、スタッフはタジタジ。でも1ヶ月でどれだけしゃべれるか、昼休みもネパール語が飛び交った。

2004年10月3日 国際協力フェスティバル(日比谷公園)に参加 ボランティアや他団体の方々との交流。たくさんのNGOが集まるフェスティバルで刺激を受けた。

2004年10月6日 入荷商品を自ら検品 ネパールから商品が入荷。開梱、カウント、検品と動くスタッフをサポート。楽器の梱包に問題があるとすぐ自ら写真をとって「すぐ改善します」と力強い。

2004年10月7日 タウンテレビ南横浜に出演 マハグティの説明と自分の想いを伝える。緊張すると言っていたが、とても堂々としていた。

2004年10月10日 鎌倉ハイキング ボランティア企画。20名近くで台風一過の鎌倉を散策。鎌倉はスミットラさんお気に入り。美しい観音様やそのストーリーに感激。

2004年10月11日 高校文化祭訪問 神奈川県立神奈川総合高校で国際交流。

2004年10月18日 仙台酒造メーカー訪問 メーカーオリジナル包装用品の共同開発の打合わせに同席。ニーズを直接知る機会となる。

2004年10月12〜15日 パターン研修 技術顧問の青木とパターンの研修。デザイナーとして今後の製品作りの大きな一歩となる。

2004年10月21日 カタログ撮影見学 準備のアイロンがけ、当日も、撮影の直前でアイロンをかける。一つ一つの服のために、本当に時間をかけて、大事に大事にしていることを感じる。そしてそれはネパリのためだけでなく、マハグティのため、ひいてはネパール全土につながることだということも。

2004年10月24日 ネパールデイでの講演 会場準備から活躍。展示の写真の飾り付けにもスミットラさんの感性が光る。当日、参加者の多さにびっくり。お話は、言葉は多くなくてもスミットラさんの強い意志が感じられ参加者の共感を呼んだ。交流会では丸一日ネパールのために行なわれたイベントに参加協力してくださった人々に感謝する。ネパールで見たグローバルジャーニーの旗と再会。

2004年10月26日 成田空港に見送って ゲートを入る時、私たちを何度も何度も振返り見つめる姿が強く心に残った。元気でね! また会おうね!

「研修の目的」 

土屋 スミットラさんはデザイナーですが、市場ニーズやデザインに関する研修からではなく、現場から入って頂きました。大変だったと思いますが、いかがでしたか。

スミットラ 一番驚いたことは、代表である春代さんが、私のためにたくさんの時間を割いて、詳しく説明してくれたことです。

土屋 ネパリがなぜ研修生を呼ぶのかというと、ネパールに何十回も行って、品質を上げるため、必死になって説明してもなかなか理解してもらえないからです。共通の認識を持つために日本にお呼びしています。品質を上げることが何より大事な目的なので、スミットラさんの研修が私にとって最優先でした。

スミットラ ネパールには「聞いたことは忘れ、見たことは覚え、実際にやったことは身につく」ということわざがあります。その通り、色々体験したことはとても貴重でした。スタッフがひとつひとつ検品し、直して出荷をする。大変な努力をしていることを知りました。帰ったら、製品を完璧な状態で日本に送るようにします。これは、経験しなければずっと理解出来なかったことです。

「すれ違いや誤解に気づいて」

入澤 たくさんのマハグティの洋服やアイピロー、雑貨の修理を、眉間にしわを寄せながらしていました。検品で、どこがまずい箇所なのか、またその数を記録して、日本の品質の厳しさを肌で感じてもらったと思います。

スミットラ 正直、ネパールにいるときにクレームを聞いても、少しのことで大げさだなあ、と思っていました。検針器に反応する商品も、自分たちは針もピンも使っていないし、もし入っていたとしても小さなゴミくらいだろうと思っていました。でも日本に来て、検針器にかけて「ピーピー」と音がすると、針が入っているんじゃないかと不安になります。たとえ入っていたものが小さなごみみたいなものでも、それを確かめるために全部開いて中を見なければならないのです。帰国後は、品質管理のセクションを強化して質の向上に努めます。

土屋 マーケットリサーチで鎌倉にお連れした時、アイディア一杯の手作りものがたくさんあって、日本人の細やかさ、完成度の高さに驚かれていましたね。

スミットラ どんな小さな商品でもすごく丁寧に手がかけられていて、ディスプレイもあれもこれも欲しくなってしまうように上手に飾られていて感心しました。日本は大国なので、全て高度な機械で作っていると思っていました。ネパールで手作りと言えば機械を買うお金がないから手で作るという発想です。

「スミットラさんが待ち望んだ研修」

土屋 3日間、パタンナーの青木さんに立体裁断のパターンの作り方を教えて頂きました。スミットラさんが日本で受ける研修の中で一番期待していた研修です。

スミットラ これまでネパリのパターンを預かり服を作りながら、これほどすごいパターンを、どうやって作るのだろうと思っていました。見た目の美しさ追求だけではなく、着心地の良さを追求したパターン。それには着る人のことはもちろん、縫う人のことまで考えた細やかな心遣いがあることを知りました。

長部 パターン研修を終えて帰ってきた顔は本当に情熱に満ち溢れているように感じました。

スミットラ 今回の研修にはとても感謝しています。理屈では分かりかけていたけれど、ボディに布をかけたとき、今までの考えが変わりました。布の性格、扱い方を知りました。形を強引に変えるのではなく自然に「布が服になる」のを肌で感じました。ここで学んだことを活かし、デザインの幅を広げられるように頑張ります。ネパリはオリジナルパターンを作っているので、私にパターンづくりの研修をする必要はないのに、かなりの時間を割いて教えてくださいました。本当にマハグティのこと、ネパールのことを考えてくださっているのだと感じました。

丑久保 ネパリ・バザーロとしてはパターンを提供するので、縫製技術を上げることは必要でも、新しいパターンの技術を教える必要はありません。ただ、これからの服作りの分野でマハグティが自立する道を考えたとき、ヨーロッパを含めた多くの団体がデザインとサイズのみ指定して発注するので、それに応え、質の高い衣類を作るには、立体裁断のような新しい技術を導入していくことが必要となります。私達は、過去、偉大な人々が女性の自立を願いマハグティを起こしたことを考え、その技術も伝えることにしました。

「小さな生産者のために」

丑久保 仙台のお客様の所にも伺い、共同開発の経緯、ニーズを直接知る機会になったと思いますが。

スミットラ その機会を得て大変嬉しく思います。価格や継続性など厳しさを感じていますが、奥地の村々にはほんとうに苦しい生活を余儀なくされている生産者がたくさんいて、仕事を切望しています。私たちはそれに応えることができず苦慮しているので、何とかネパリと協力して彼らの仕事が作れるようにあらゆる努力をしたいと思います。

長部 マハグティが支援する遠隔地の竹の生産者について語ったときの、真剣で前向きな気持ちに、私も一緒に頑張ろうと思いました。 

「印象に残ったこと」

長部 世界で起きていること、ネパールで起きていること、日本で過去に起こった広島・長崎のこと、スミットラさんは真剣に考え語ってくださいました。「私は家庭をもつのはまだ。やらなければならないことがある」という言葉が印象的でした。タウンテレビの収録では緊張していましたが、本番ではとても落ち着いていました。でも映像チェックの際、テレビに映る自分の顔を照れながら見ていたのが微笑ましかったですね。

スミットラ ハンガーバンケットで、「食べるものがなく飢えている貧しい人たちの横で、ご馳走を食べるのは気が引けた」という富裕層グループの感想に驚きました。ネパールでは金持ちはそんな感情を持ちません。(富を)持てるものが持って当然で、誰にも遠慮しません。
 帰国したら日本での経験やゲームの感想を一人でも多くの人に伝えたいと思います。そこから誰かが何かを感じてくれたらうれしいです。

高橋 スミットラさんがセミナーでカーストについて意見を聞かれ、「カーストは人間が作ったもの。それにとらわれたくはない。私はネパール人です」と、力強く答えたのが、とても心に残っています。一見クールですが、中に熱いものをもっていると思いました。台風や地震など、人間の力ではどうにもならない災害に対して、私たちは与えられた知恵を使って、協力して生きていかなければならないのに、なんでわざわざ人間は自分たちを苦しめるものを作ったのでしょうか。スミットラさんのような考えを持つ人が増えて欲しいと思いました。
 スミットラさんと話をしていて、本当にネパールには難しい問題がたくさんあって、どうしたらいいの…と、行き詰まりましたが、私たちにはフェアトレードという素晴らしい仕事がある。日本とネパールは遠いけれど、同じ目標に向かっているのだから、一緒に頑張ろう、と語り合いました。

「研修を終えて」

スミットラ 皆さんに本当に感謝します。一番の成果は今の自分、そしてマハグティの課題に気付いたこと。それは絶対に今後の製品作りに生かしていきます。
 最初は日本でどんなことがあるんだろう?と不安でしたが、皆が積極的に接してくれて安心しました。自分の今までの仕事やマハグティの仕事を外から見ることができ、たくさんのことに気付きました。ネパールではたいした問題ではないと思っていたことが、こちらではとても深刻な問題になっていることを知りました。デザイナーとしての自分の領域も思っていたよりもっと広く、製品になるまでの管理にも責任があると強く感じました。

杉澤 私にとって初めて出会ったネパールの人。ネパール語を丁寧に教えてくれました。一緒に作業をしてネパールを身近に感じました。

中島 スミットラさんは意欲的で仕事が頼みやすかったですね。得意料理を教えてもらったのも楽しい思い出です。

宮里 スミットラさんの今の気持ちを大切にしてほしいと思います。いつまでも忘れないでください。日本でネパールの人たちのために頑張っている私たちがいることを思い出して、お仕事を頑張ってください。これからも一緒に力を合わせて頑張りましょう!

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