ネパール訪問記 「生産者を訪ねて」

ネパールの首都カトマンズには、私達の製品の担い手である生産者団体があります。2004年、ネパールを初めて訪れ、生産者を訪問した2名のそれぞれ感じたこと、印象をご紹介します。



 初めてネパールを訪問して  カフェレストラン&フェアトレードショップ「風の里」高江洲あやの

自分は何をしたいのか?何をどうすべきか。どう生きればよいのか?と思い悩める事は、恵まれている事だと思い知らされた旅でもありました。
 昼間から街のいたるところで、男たちが集まりゲームに興じている。一見和やかそうに見える光景。でも、そうせざるを得ないほどに仕事がない。路上や窓辺に虚ろな表情で座り込んでいる人々、どう食いつなぎ明日もまた生き延びられるか、それ以外考えられない状況で生きている人々にとって、自分の生き方に選択の余地などないのです。
 ましてや、多くの女性たちが男性の所有物のごとく、自分の意思で自由に生きる事などありえないと思いこむほどに、いまだ古い因習に縛られている現状に唖然としてしまいました。果たして、豊かな社会で教育を受け、自分の生き方を自分で決定できる状況にある私たちは、古い因習から自由になっていると言えるでしょうか?ネパールの人々からすると比較にならないほど経済的、物質的に豊かで成熟した平和な社会で暮らしているように見える私たちも、実はいまだ古い因習から解放されず苦悩の内に暮らしていると言えるのではないでしょうか。経済の豊かさと精神の自由、幸せが必ずしも一致していないことは周知の事実で、すべての人が幸せに生きられるような社会の実現を願う事は、桃源郷を夢見るに等しい事なのかと思ったりもしています。
 それにしても、ネパリ・バザーロの製品を作って下さっている方々の、自信に満ちた表情と、いきいきと働いている姿には勇気づけられるものがありました。言葉は通じなくても、自分の仕事に誇りをもって生きているという事がしっかりと伝わって来て、仕事を得て自立する事の重みをひしひしと感じました。しかしながら、そのような人々がまだまだ稀な存在である事が残念でたまりませんでした。
 個人の利益追求や単なるビジネスではない、利害関係を超えた顔の見える信頼関係がなによりも重要になりますが、今回、ネパールで土屋春代さんのお仕事に同行させていただいて、まさにそのようにして仕事をし続けてこられたからこそ、今があるのだという事を見せていただき敬服しごくでした。今後さらに無理なく持続して取り組んでいけるような仲間作りが大切だと痛感しています。
 さて、貧困の問題、環境や平和の問題などを解決する方向に一歩踏み出すためには、「私たち一人一人が自分の暮らしを見つめなおし、自分の生き方を変えていく」事から始まるのだということを、より多くの人に理解してもらう事が必要です。
 フェアトレードには、特別な問題意識が無くても、魅力的な商品を通して実感、共感しやすく解りやすいので、経済最優先でここまで病んでしまった現代社会の経済のあり方を変える力と、途上国の小さな生産者の自立の可能性と、さらに私たちの世界観を変える力が秘められていると私は思っています。


ネパールで感じたこと、伝えたい想い  ネパリ・バザーロ スタッフ 長部愛
 
「どんな人が、どんなふうに作っているのだろう?」ネパリ・バザーロで働き始めて1年が経った頃、ネパールへ行きたい、と強く思うようになりました。現地の映像や写真、他の人から聞いた話だけでは感じられない何かを、自分自身で感じたいと思ったからです。
 2004年11月、ついにその機会が訪れました。カトマンズに吹く風、町のざわめき、人々の様子、そしておつきあいしている生産者のこと・・・それまで自分のやっている仕事が、ネパールとどんなふうにつながっているのか、なかなか想像することができませんでしたが、実際に行ってみて初めて分かったこと、得られたものがたくさんありました。
 約10日間の滞在中、代表の土屋春代に同行し、各生産者団体を訪ねました。実際に製品を作っている現場では、何人もの女性達がいきいきと仕事をしていました。そこで感じたのは、日本で想像していた以上に、一つ一つの製品がとても丁寧に、手間をかけて作られているということです。一着の服を作るのに、糸を紡ぐ人、織る人、染める人、裁断する人、縫う人、アイロンをかける人、商品の出来上がりをチェックする人、本当にたくさんの人が関わっていて、贅沢に、まるでオートクチュールのように仕立てられていることを知りました。そんなふうに作られた洋服を日本のお客様にご紹介できることをとてもうれしく思いました。
 訪問した中で特に印象に残っているのは、ウシャさんという女性が代表を務める「Young Wow Craft」という工房です。3畳くらいの狭いスペースで、3人の女性達が真剣な眼差しで糸を紡いでいました。「糸を紡ぐ」というのは想像以上に難しい仕事です。実際にやるとなると根気も要り、技術もないとできません。私なら数時間やっただけで音を上げてしまいそうなことを、彼女達は本当に一生懸命、いきいきと誇りに満ちた顔で仕事をしていました。糸を紡ぐ仕事は、彼女達の貴重な収入源となっています。この糸は、生きる力に満ち溢れた人が紡いだ、平和につながる糸。どこからきたのか、どのように作られたのか、糸を紡ぐ彼女達の存在を、日本で多くの方に伝えたいと強く思いました。
 世界には豊かな国と貧しい国が存在するという厳しい現実を知り、衝撃を受け、その解決策の一つである「フェアトレード」に出会ってから数年。今回ネパールへ行き、生産者の織りや染めの技術などがどんなにすばらしくても、マーケットにつながらないということが大きな問題だということを知りました。また、「フェアトレード」を通じて日本とネパールの橋渡しをしているネパリ・バザーロの存在の大きさと責任の重さを感じました。それと同時に、いきいきと働くネパールの人々から元気と勇気をもらい、ネパリ・バザーロの活動が生産者の生きる支えとなっていることを知り、この活動に関われることを本当にうれしく思いました。フェアトレードは、ゆっくりでも着実に、ひとりひとりが平和な世界へと変えていける有効な方法のひとつです。ネパールで感じたこと、ネパールで会った方々を思い出しながら、これからもぬくもりのこもった魅力ある商品を、メッセージや想いと共に、もっと多くの方に伝えていきたいと思っています。

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