生産者レポート 

シャラダさんと過ごした1ヶ月


 ミランガーメント代表 シャラダ・リジャル

ネパールの生産者団体「ミランガーメント」の代表。小学校の教師をしていたが、創造的な仕事をしたいと強く思うようになり、15年前に起業した。女性の起業支援、仕事場創りという新鮮な考え方に共感し、1994年WEANコープ(※)のメンバーになった。数年前からWEANコープ理事会の副理事長を務め、運営に手腕を発揮し、女性の就業の場の拡大に貢献している。ネパールの経済雑誌「BOSS」の2003年度女性起業家部門で最優秀賞の栄冠を手にした。 
 将来は、事業の収益で、行き場のないお年寄りと子どもが住むホームを作り運営し、ソーシャルワークとビジネスをつなげて、皆が幸せになる社会を築きたいと考えている。

(※)WEANコープ…ネパール女性起業家協会WEANの姉妹組織。WEANのトレーニングを受けた約150名のメンバーが、共同の店舗を経営するなど、販路拡大の役割を果たしている。

 マヌシのアヌーさん、マハグティのスミットラさんに続き、2005年3月末より1ヶ月間、ミランガーメントの代表、シャラダ・リジャルさんを招いて研修を行いました。お互いに学び合うことが多く、充実した1ヶ月間でした。その中で私達が感じたことをお伝えします。


「品質管理の厳しさを知って」

土屋春代(以下春代):1ヶ月間の研修が終わりましたが、いかがでしたか?

シャラダ:ネパールでは、商品を作って日本に送ったら、それで自分の責任は果たしたと思っていました。しかし、それから日本では一つ一つ検品し、時には修理して、タグをつけ、丁寧に梱包をし、手書きのメッセージを添えてお客様に送ります。お客様の手元に商品が届くまで、本当にたくさんの仕事があることを知りました。
また、ミランの商品の修理もしました。日本では表はもちろん、裏までよく検品し、ボタンも全部引っ張って確認し、少しでも糸が飛び出ていたらカットして、それでようやく出荷をします。ネパールでは、これほど日本のお客様が厳しいとは知らなかったので、私達の商品は問題ないと思っていました。今後は、もっと注意して作るようにします。日本の品質のレベルに見合う技術を身につけることができたら、それはミランの財産になります。

「ネパリ・バザーロとの服作り」

長部:ネパールの女性は、大体サリーなどを着ていますが、シャラダさんはいつも洋服を着ていたのが印象的でした。ネパリの服も着ていましたよね?

シャラダ:実は、ネパリの服は一度も着たことがなかったのですが、不良品で日本に送れない服が出て、スタッフに相談されたので、日本に行くのにちょうどいいと思って初めて着てみました。すると、あまりにも着心地が良かったので、感動しました。その上、自分のような太った人にも似合い、細い人にも似合います。誰にとっても着心地の良い、素晴らしい服だということに初めて気づきました。

春代:これまで服の生産者に、どうやって洋服の着心地の良さや、細かい不具合を理解してもらおうかと苦心してきました。皆さん伝統衣装か、自己流で作った服を着ています。やっと自分自身で着て理解してくれる人が現れました。見た目だけでは分からない、着て初めて理解できることがたくさんあります。ミランガーメントのこれからが楽しみになりました。

青木:私達が今後ネパールで作りたい服は、より着心地の良いデザインや素材のもの。それをミランで実現するためには、シャラダさんにその感覚を分かってもらうことが必要でした。
 シャラダさんには、今回の研修で洋服の企画からパターン製作まで関わってもらいました。今後、細かいことを言わなくても、サンプルやパターンを見て、大切なことを察知して、それをスタッフに伝えて欲しいと思います。

シャラダ:ネパールにいる時は、その服のコンセプトなど分かりませんでしたが、些細な箇所でもみんなで相談し、改良した結果だということが、よく分かりました。

「経営者の視点から」

シャラダ:ネパリのマネージメントはとても素晴らしいと思いました。経営者である春代さん、完二さんとスタッフの関係がとても親密で、スタッフ同士も協力し合って仕事をしているのが分かりました。一人一人のスタッフも、みんなどうしたらネパリをもっと良くすることができるか考えていました。自分も経営者なので、そこから多くのことを学びました。

高橋:シャラダさんは経営者というだけあって、常に全体を見て、何かミランに活かせることはないかを考えていたのが印象的でした。

春代:経営者という立場で、1ヶ月もミランを空けることはリスクが高く、難しいことでしたよね。

シャラダ:昔から付き合っているスイスのバイヤーがいるのですが、毎年2月か3月にふらっと来ては、大量のオーダーをくれます。この仕事は、自分が事務所にいても大変な仕事です。最初は、そんな時期に日本での研修に来て事務所を空けてしまって、とても不安でした。ネパリの事務所で商品の修理をしながら、大きな商談を人に任せてしまって、自分はここにいていいのだろうかと思った時もありました。なぜなら、もしこの仕事が失敗してしまったら、ミランの存続の危機だからです。

宮里:ネパールでミランが商品を出荷する日は、1日に何度もメールを見たりして、心配していましたね。
シャラダ:とても心配だったのですが、昨日、現場責任者のソシナから、うれしいメールが届きました。それは、「今まではシャラダさんが全部仕切っていたので、どんなに近くにいても、その大変さを理解することはできませんでした。しかし1ヶ月離れてみて、シャラダさんの責任がどれだけ大きく、大変な仕事をしているのかが、よく分かりました」という内容でした。自分が事務所を空けることはリスクもありますが、新しいものを見てデザインに取り入れたり、自分がいないことによってスタッフが成長したりと、利益も大きいものです。

入澤:シャラダさんは、常にアンテナを張っていて、新しいことはすぐにメモしていましたね。帰ったら、一番初めに何をスタッフに話しますか?

シャラダ:研修中は、とにかく貪欲にたくさんのことを学ぼうと必死でした。帰国が近づくにつれて、こんなにたくさんの大事なことを、どうやったらスタッフに伝えることができるのかと悩んでいます。まずは、ネパリがミランにどのように向上して欲しいと思っているか、そのためにどれだけの努力をしているのかを伝えます。ミランには、1年後のプランはありませんでしたが、ネパリには1年後、ミランでどのような洋服を作るかのプランがあります。今後は、自ら計画をしていきたいと思います。トレーニングの成果を一人でみんなに伝えることはできないので、まずはミランのリーダー達に伝え、彼らからみんなに伝えてもらいたいと思います。

「商品開発の現場で」

長部:一緒に話した時、春代さんのことを、とても高度な考え方を持った方だとおっしゃっていましたね。

シャラダ:商品を開発する時、みんなはデザインのことばかり考えていますが、春代さんは、どうやったらより多くの人の手をかけることができるのかを考えています。フェルトのスリッパの開発会議をしていた時、他のみんなはデザインのことしか考えていませんでしたが、春代さんは、作る人にとっては難しくないか、コストはどうか、時間はかかるかなど、常にいろいろなことを予測して考えてくださいました。

春代:それは、私がネパリを始めたときから、できるだけたくさんの人に仕事を創ることを目的にしていたからです。

「シャラダさんの人柄に触れて」

村井:シャラダさんは、私にとって、初めて一緒に仕事をしたネパールの人。最初はネパール語を口に出すのが恥ずかしかったのですが、一緒に帰った時に、勇気を持つようにと、背中を押してくれました。その後、気持ちが楽になって、自分から話せるようになりました。すごくうれしかったです。

一条:私はネパール語を全く話せませんが、なぜか、シャラダさんには通じました。とても理解が早いので、すぐに言いたいことを分かってもらえて、とてもうれしかったです。

佐藤:シャラダさんの存在自体が明るくて、魅力的で、生き方も尊敬できました。自分もそうやって生きてみたいと思いました。シャラダさんが作ってくれたご飯もとてもおいしくて、その味は絶対に忘れることはありません。

丸田:ネパール語を勉強して、ネパールにも行きたくなりました。

杉澤:ネパール語は分からなくても、なぜかシャラダさんには伝わるものがありました。シャラダさんは話したくて仕方がない気持ちを受けとめてくれて、一緒にいる時間がとても楽しかったです。

栗田:オーラがあって、惹きつけられます。もっともっと話したくなります。うまく話をすることができませんでしたが、シャラダさんはすぐに人の気持ちを察してくれました。

中島:シャラダさんは、毎日必ずスタッフと一緒に帰っていましたね。実は、寂しがりやなんですよね。

シャラダ:みんな私と一緒に帰ったから、ネパール語も上手くなったのよ!一人で帰っていたら、私も楽しくないし、みんなもネパール語は上達しなかったと思います。おかげでホームシックにも全くなりませんでした。みんなが家にも来てくれて、とても仲良くなりました。

「ネパリ・バザーロとミランガーメントの今後」

丑久保完二:私達スタッフと、とてもいい関係を作ってくれて、本当に感謝しています。今後の私達の関係に、大変役に立ちます。また、自分の考えもたくさん話してくれたので、お互いのことをよく知ることができました。これからも、私達の社会を良くするために頑張って、努力していきましょう。

春代:シャラダさんのようなリーダー的な存在の方から、事業を始めたときの苦労話や、いろいろな経験を聞き、また私の想いも理解していただけたのが、とてもうれしかったです。シャラダさんは、どんな時でも絶対にあきらめない。それが本当にすごいと思いました。ネパリが、単なる営利目的のビジネスではないことが、日本に来てさらに深く理解してもらえたと思います。今後、私達の信頼関係は、ますます強くなっていくでしょう。

シャラダ:ネパリが、ミランのためにトレーニングをしてくださったことに、心から感謝致します。私が学んだことは、ミランで、ベストを尽くして全て伝えます。ネパリが私のために使って下さった費用は決して無駄にはしません。ミランガーメントとネパリ・バザーロは、単なる仕事の関係だけではなく、本当に強い絆で結ばれたと信じています。本当に、ありがとうございました。

シャラダさんと過ごした1ヶ月

2005年4月1日 検品ワークショップ
ネパールでは全く問題ないと思っていたミランの商品。しかし、日本の品質の厳しさを知る。自ら直し、気付いたことは、すぐにネパールへメールを出して、次回の商品の出荷までに改善するよう指示をする。

2005年4月2日 江ノ島観光
スタッフ、ボランティアと一緒に江ノ島へ。屋台では、魚貝類にも初挑戦!!何にでも果敢に挑戦する姿が印象的。

2005年4月7日 ネパールからの商品が入荷
ミランの商品を自ら開梱、カウントする。ミランで作られた商品が、どのように届き、検品されているかを知る。「これからは、ネパリがやりやすいようにパッキングします!」と頼もしい。

2005年4月9日 温泉へ
念願の温泉初体験!最初は不安そうだったが、大のお気に入りに。リフレッシュ!

2005年4月10日 料理教室
毎回大人気のネパール料理教室に参加。参加者の方々に、「女性であっても、自分の人生は、自分で切り開きましょう!」と、力強く訴える。

2005年4月15日 静岡のお店訪問
静岡のフェアトレードショップ、「ア・テ・スエ!」さん、「オーガニックコットン」さんを訪問。どちらのお店も、ディスプレイがすてきで感激。オーガニックコットンさんのお話会では、シャラダさんの気さくな人柄に、皆が惹きつけられる。

2005年4月17日 フェルトのワークショップ
待ちに待ったワークショップ。総勢28名で、フェルト作りに挑戦。思った以上に大変で、みんなヘトヘト。

2005年4月22日 カタログ撮影
秋冬カタログの撮影に同行。前日は、衣類のアイロン掛けをして準備も手伝う。私達が、一着一着大切に、愛情を込めて撮影をしていることを知る。ミランの服は、自らしわを直して、セッティング。

2005年4月23日 パターン研修
技術顧問の青木宅にて、一着の服が、どのように企画され、パターンが作られていくかを知る。今後の服作りに貴重な経験となる。

2005年4月25日 シャラダさんの送別会
涙が抑えきれず、皆で1ヶ月を振り返る。その後、遅くまで女性の生き方について熱く語り合う。強く生きる女性は、国境を越えて存在することを知る。

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