震災を経験して
文:土屋春代

2004年、新潟は台風による水害、地震と相次ぐ大きな災害に見舞われました。上越市でのセミナーのお話を頂き、それを機に被災された三条市の「みずすまし」さん、十日町市の「わらべ村」さん、長岡市の「ら・なぷう」さんに伺いました。2月末、特に十日町市や長岡市は記録的な大雪で復興にも影響が出ていました。物理的にも経済的にも厳しい中で、皆さんは被害の大きかった方のことを常に気にされ、何とか元気になってほしいと、お店の仕事と同時に様々な努力を重ねていらっしゃいました。損得で考えたらできない事を地域の中の役割と認識し、こつこつとされていました。お店がある地域の雪の量のように、それぞれ特徴は違っていましたが、厳しい環境の中でも負けない熱い心は変わらず、改めてその強さにうたれ、学ぶことの多い旅となりました。
災害に遭うという大変な状況の中でそれを乗り越え、生活を続けることと、フェアトレードには重なる部分がたくさんあると思います。どの国に生まれるかを自分で選べないことと、災害に遭遇すること。金品の寄付と経済復興。緊急支援と自立支援。情報の量と質、メディアの関わり、等など、キーワードがとても似ています。途上国と云われる国々のことを自分とは無縁と思いがちな私達に、被災された3店の方からメッセージを頂きました。



「自然=イキタクナル処」 みずすまし

店長 神田初枝
〒955-0844 
新潟県三条市桜木町1-26
Tel:0256-33-7793
Fax:0256-33-7810 

 2004年7月の水害の際には多くの皆様からあたたかい励ましとお見舞いをいただき、本当にありがとうございました。三条の町の半分が被災し、みずすましも商品の大半がなくなりました。自分の暮らしそのものだった場が失われた時、ネパールの「仕事のない人たち」と同じ位置に立った、といっとき強く思ったものです。お金は出て行くのに、お店そのものがなくなり、お客さんも被災していて買物どころではない、という状況。幸いにも私は多くの友人知人に助けられて、現在は水害などまったくなかったかのごとくお店を続けることができています。
 ネパリ・バザーロさんからは、スタッフの皆さんの寄せ書きと共にたくさんのコーヒー・紅茶やクッキーなどをいただきました。ひとつひとつにメッセージがつけられていて、こまやかな気づかいを感じ、ほのぼのとうれしかったものです。毎日そうじを続けながら、いただいたコーヒーやクッキーを、やってこられる被災した方々に配っておりました。ある時「支援物資ですから、どうぞ、どうぞ」といつものやりとりをしながら、自分の気持ちの中に「物をあげる」というゴーマンさが顔を出していることに気づいてギョッとしました。と同時に、自分の側にも「もらって当たり前」という気分もしっかりと居すわっていたのです。背筋が凍るような気がしました。最初は、手伝いも、励ましも、お見舞いも、すべてがただ感謝の気持ちだけだったのに。この時はっきりと「ただモノやおカネをあげる」だけの関係性のアヤウさを実感しました。そして、フェアトレードの真の目的のひとつである「対等の立場」を保ちつづけることの重要さを知りました。
 

食を考えることからフェアトレードへ わらべ村

主宰 安藤ゆり
〒948-0067 新潟県十日町市
千歳町1-2沖ハイデンス2A

 大雪で地震の被害は増幅されました。春が来て雪どけの中から現れた地震の爪あと。中越の地震は建物も道路も破壊しましたが、何より人々が暮らす田畑や山や川を大きく変えてしまいました。その分、自然に守られてきた人々の悲しみは深く、心身に深い傷を与えました。
 2004年10月23日の夕方、突然大きな地震が何度も襲い、店の中はめちゃくちゃになりました。恐怖で震えが止まりませんでした。もう再開は無理だと思いましたが、数多くの方々のお陰で復旧できました。有難かったです。ネパリ・バザーロから届いた寄せ書きや、一つ一つ応援メッセージの入ったコーヒー、紅茶やクッキーの小さな袋は、細やかな心配りで心が温まりました。差し上げた方達も皆喜ばれました。
 わらべ村はお陰様でいち早く復旧できたので、今度は救援物資を運んだり、十日町や川口町にボランティアに来た方々への支援も始めました。活動するうち分かってきたことは、ライフラインが復旧し、道路が通じるようになったら、地域の復興のためには自分達の力で必要な物を買ったり売ったりして経済的に自立するのが早道だということです。限りはあっても、もらうよりも自分で買うという行為が復興につながると思いました。支援物資は見極めとコントロールが必要で、いつまでも外からの品物に頼っていては地元の商店は立ち直れません。例えば、飲食店は食器が割れ、相次ぐ余震で休業し、東京から食器を満載して救援に駆けつけてくださった方がいますが、地元の瀬戸物屋さんを利用できなかったのかしら、と思いました。
 ネパリ・バザーロの活動は、ネパールの人達への細やかな心配りが一番素晴らしいと思います。何度もネパールに足を運び、現地の言葉で、社会的立場の弱い女性ができる糸紡ぎや手織りから始めて徐々に活動の幅を広げてきました。震災復興にもこの細やかさが必要でした。人々が何を必要としていて、どうすれば復興できるか、遠くを見る目と、現実の問題一つ一つに対応していく力、善意で来てくださるボランティアの人達への適切な対応などなど。ネパリ・バザーロは、皆が助け合う未来の心豊かな社会を遠くに見すえながら、堅実な活動をしているのが、私も震災の体験を通してよく分かり、できるだけの応援がしたいなと思っています。


うれしい 楽しい Happyなお買い物しましょう〜♪ ら・なぷう

店長 若井由佳子
〒940-0066 新潟県長岡市
東坂之上町3-1-7
Tel&Fax:0258-32-4711

 長岡市のチャレンジショップでお店を始めて、1ヶ月で中越地震を体験しました。あまりの大きな揺れで「地震?まさか!」という感じ。水道復旧工事のために1週間の閉店。お店を再開してわかったことですが、1週間で再開できたことは、本当に幸運なことでした。「もし、商品を失っていたら・・?お店を続けられていたかしら?」今ごろになって思うのです。今は、いくつかのラッキーが重なって、なんとか半年経過というところです。地震は、被害も然る事ながら、特に「支援」という側面で、そのバランスの難しさを感じています。たとえば被災直後、出来うる限りの工夫と智恵で、十分自立していても、時間の経過とともに支援物資と情報量が増えてくると、急に意識的被害者になってしまう場面がありました。このことは、人間の輝きの源になるであろう(と、私は思う)「自立」を妨げて、やがて、争いに発展していくことだと感じました。この時、「フェアトレードは、本当に平和的だなあ」とうれしくなったのです。
 そもそも、私がフェアトレードを仕事として取り組みたいと思い始めたのは、フェアトレードは「わかちあいなんだ!」と気づいた時、「わかちあいは世界の平和につながる」って感動したのがきっかけです。実際に仕事として取り組んでみると、地震後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)のお客様がいらっしゃる事もあって、「私は商品に癒されてる」と感じ始めました。商品全体がかもし出すやさしさ、着心地、手触り…この安全で、安心な品物に「助けられているなぁ」としみじみ思うのです。「支援」なんて、ちょっとでも考えていた自分が恥ずかしい感じです。「携わる人すべてが、幸せを感じるフェアトレード」このことを多くの人に知ってもらいたいです。7月にチャレンジショップを卒業、新規開店しました。壁にはネパリ・バザーロの手漉き紙を自分達で貼りました。すごくいい雰囲気になり、気に入っています。フェアトレードショップ1年生です。どうぞよろしくお願いします。 


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