特集
援助から貿易へ自立への挑戦 後編


ネパール発展に向けた施策

 ネパリ・バザーロは、女性、遠隔地、環境という3つをキーワードとしてコーヒーに取り組んでいます。コーヒー豆の良し悪しを選別するのは、村でも町でも女性の仕事です。家庭状況の厳しい女性達の収入手段として大切な役割を担っています。特に、5年前、この地域で電気が来ている最奥地であったグルミ郡ジョハン村にコーヒーの皮むき機を設置し、そこで、豆の品質選別作業のため女性達を雇い、更に、女性の生産者の指導を行うため女性のグループリーダーを育てる等、様々な施策が始まりました。また、ネパリ・バザーロとしてもコーヒー豆の品質をより向上させるために、カトマンズで豆の選別作業を行う女性を雇っています。生活が大変なうえに仕事が無かった女性達です。その一人であるチャンパさんも、この仕事で子ども2人の面倒をみながら生計を立てています。
 遠隔地と付き合うということは、流通費用もかかるので、その遠いということが却って長所となるような付加価値のある施策を考える必要があります。元々自然農法で環境にやさしい農業をしてきたので、その伝統を活かして有機農業を促進するように働きかけてきました。更に環境にも優しい再生産植物(NTFP※)の促進です。再生産植物としては、スパイスやヘナ、ロクタ(紙の原料)をベースに新しいプログラムを進めています。ここ、グルミとアルガカンチは、様々なスパイスの栽培にも適しています。私達が訪問した2005年の3月は、ちょうど、シナモンとベイリーフが出荷されるところでした。新鮮なシナモンの匂いを嗅いでいたら、その明るい将来がみえてくるかのようでした。コーヒーのみならず、他の産物でも収入を得ることは、収入安定の面からもメリットがあります。
 この再生産植物の構想は、ネパリ・バザーロ独自に必要性に迫られながら進めてきたものですが、気がつくと、世界各国の国際協力機関、アメリカ、ドイツ、スイスの国際協力NGOとその協力関係にある国際NGOが同様の構想を作っていました。世界は、正にこの方向へ動いていることを強く感じた瞬間でもあります。また、その背景に、ハーブとスパイスの国際市場が急成長をしているという事情があります。ネパールは起伏に富んだ自然と気候の宝庫です。その自然が小さな生産者の自立に役立つ生産手段になるのであれば、なんと嬉しいことでしょう。
 各国の国際協力機関や国際NGOと情報交換はしていますが、心配なこともあります。彼らの弱点、つまり、市場と繋がっていないことから失敗するケースが多いことです。取り扱う品目の中にコーヒーも含まれていますが、その唯一の市場の可能性は、現在のところアメリカです。しかし、継続的農業、つまり農民のことや有機農業のことは気にしていません。気にするのは価格と必要量の確保です。欧州の国際協力機関はこのことをとても心配していますが、市場がなければ仕方がありません。ネパールのコーヒーは、ネパリ・バザーロが関わる西ネパールの有機(自然)農業と、アメリカが関わろうとしている東ネパールの農業に二分される危機に立っています。一度化学肥料を投入すれば、それを自然に戻すことはとても時間と労力がかかることになります。一時的には生産量が上がっても、やがて土地が疲弊し、生産量が減っていきます。狭い土地で行う農業は、他の農産物にも影響を与えます。
 現地でも、その将来を心配し、有機農業を守ろうと活動する意識ある人々がいます。その人々と情報交換をしながら、活動を続けています。市場と繋がっている私達の活動は、従来の技術開発協力と違い、具体的な要求をすることができます。それは、「消費が生産を決める」という関係です。私達の考えが、どのようにして農業に影響を与え、環境に負荷をかけるか、知る、知らざるに拘わらず、それが遠い外国の遠隔の地まで影響を与えます。環境に負荷をかけない農業というロードマップを実現するために、意識ある人々は闘っています。一人一人の想いは、時代の声となり、遠くネパールの遠隔の地に届き始めています。       

※)NTFP(Non Timber Forest Product)
環境にやさしい、負荷をかけない育成の早い植物を意味する。
紙では、ケナフ、ネパールの紙の原料ロクタがこれに該当する。


グルミ協同組合長 ハリー・ゴータムさんのメッセージ
 
「ネパールのコーヒーの歴史は約60年前に遡ります。西ネパールのグルミで植えられたアラビカ・コーヒーが最初です。農民達は、使われていない土地を使用し、徐々に換金作物としてコーヒー栽培が広がってきたのです。大変奥地なので、化学肥料は使用していません。農民は、牛糞を肥料として使用しています。また、政府もコーヒー生産を推奨したので、今では質の高いコーヒーが採れるようになっています。約10年前に、ネパリ・バザーロがグルミを訪れ、3年間の購入協定を結んでくれました。その頃は、市場がなく、農民は木を切らねばなりませんでしたが、今では継続的にコーヒーを売り、収入を得ることができ、大変感謝しています。そのお陰で、隣のアルガカンチでもコーヒーの木を植えています」

グルミ協同組合専務理事 パルシュラム・アチャルヤさんのメッセージ

「ネパリ・バザーロは、今日まで大変良い仕事をして、この地域社会に貢献しています。その結果、貧しい農民達も満足のいく生活ができるようになりました。子どもたちの学校への支払いや本の購入もできるようになりました。このように生活が向上し、ネパリ・バザーロと付き合っていることを大変誇りに思っています。農家の人々の生活向上に向けて、私達協同組合も注意を払ってきました。協同組合で働く人々にも女性を雇用するなど新しい試みもしながら、生産者にとって必要な支援をしてきたと思います。今後も、ネパリ・バザーロは、私達と協力して生産者の継続的な支援、開発の仕事をしてくれると確信しています。ネパリ・バザーロがいるからこそ、私達もこの僻地で人々のために仕事ができます。共に、この社会を良くしていくこと、それが、私の夢であり、願いです」


ネパリ・バザーロ コーヒーの取り組み

1994年9月 ネパールのカブレよりコーヒーを正式に輸入

1996年5月 コーヒー調査に各地域を訪問

1997年2月 グルミのバラタクサルを状況調査で訪問1998年6月 グルミのモジュワを訪問、今後の協力 関係を話し合う。合わせてパルパ、モダ ンポカラも調査訪問オーストラリアのオーガニック証明機関(NASAA)、グルミを調査

1998年8月 青年海外協力隊ネパール会と事務局へ情報収集の協力を依頼する

1999年3月 グルミとの直接取引協定を結ぶ

2000年1月 ビラトナガール、ジャパ、イラム調査、共同組織を作る打合せコーヒー皮むき機設置

2000年4月 ジョハン村訪問(コーヒー状況確認)

2000年8月 有機証明、国内市場の創造、国際市場に通用する価格への取り組み体制討議

2001年4月 2001年度の取り組み協議

2002年12月 3年間協定の更新

2003年3月 国際NGOを通じてのスイス国際協力団体と情報交換

2003年6月 世界生協デーにて、ネパール全国協同組合(NCF※)から表彰を受ける

2004年3月 コーヒー選別にかかわる女性の生活調査2004年4月 グルミ、アルガカンチへオーガニック証明の再調査実施(グルミ郡庁所在地タムガス訪問)

2004年8月 ドリップバッグ・コーヒー発売

2005年3月 グルミ、アルガカンチの生活状況調査(アルガカンチ郡庁所在地サンディクハルカ訪問)

※)NCF (National Cooperative Federation)
ネパール国内に於ける協同組合の全国組織

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