素材は想像への翼 染織のための自然素材展 in沖縄



おじぃやおばぁに伝授された手仕事が今なお暮らしの中に残っている沖縄。
大自然の生命力溢れる沖縄。
しかし、現実には厳しい問題にも直面している沖縄。
この地で、一本の細く美しい紙の糸が新たな人々との繋がりをもたらしてくれました。

 2005年10月28日。もうじき11月になるというのに、太陽の日差しはまだ強く、夏の暑さが残る沖縄県南風原町。京都で染織を行っている「青土」さんが中心となって開催される素材展のため、全国各地から厳選された自然素材が集まりました。
 自然の恵みを享受して、その土地に伝わる伝統を継承し、先人の知恵を活かし、今なお手仕事にこだわり続ける人々が手間暇かけて生み出した、美しい糸や布の数々。
 綿、絹、大麻、葛、楮、芭蕉、しな、ウール、アロー・・・。そして、紙。
私達ネパリ・バザーロは、ネパールのロクタ紙から作った紙の糸と布を、全国に先駆けてこの素材展で発表しました。
 ヒマラヤの山麓に自生するロクタから作る、混じりけのない自然素材100%のロクタ紙。今となっては世界を見渡してもなかなか見つからない純度の高い紙を、山深い村々で今なお作り続けている人々がいます。彼らの貴重な収入源となっているロクタ紙の販路を広げ、より多くの人に仕事の機会を創り出すことを目的に始まった「紙布プロジェクト」。長い時間をかけて、強い想いがようやく形になったこのプロジェクト。発表の時を目前にし、緊張が募ります。
 開場と同時に、素材展には全国から、たくさんのお客様が訪れました。その中でも多くの方が、初めて見る紙の糸と布に心を奪われ、興味津々の様子で足を止められました。そこで、糸になるまでの気が遠くなるほど長い工程を説明すると、まるで子どもが宝物を見つけた時のように、目をまん丸にして、興奮を隠しきれない様子で手に取られます。この美しく繊細な糸と布が、まさか本当に紙からできているとは信じられないといった様子です。紡がれた紙糸の細さには、多くの方が感動のため息をつかれていました。染織を実際にされている方が多かったので、その大変さは身をもってご存知で、自分だったらとてもここまでできないとおっしゃられていました。また、織った時点では平らな紙布が、水に濡らすことによって縒りが少し戻り、独特のしわが自然に生まれることに、他にはない魅力を感じられていたようでした。「この素材に出会えて感動しました。本当に来て良かったです」涙ぐんでそうおっしゃる方もいました。
 この素材展には、全国から染織に携わる方々が3日間で2000人も来場され、素材の展示以外にも、著名な講師を招いての貴重なレクチャーやワークショップも行われました。訪れた方の中で「フェアトレード」を知っている方はごくわずかでしたが、私達がなぜ紙布を開発しようと思ったのか、なぜ直接ロクタの樹皮から繊維を採らずに、一度紙にしてから紡ぐなんて、わざわざ仕事が増えることをしているのか、そのような疑問に答えていると自然に私達の活動の目的や想いをお客様に伝えることができた気がします。そして、実際に現地に行って、自分の目で見て、直接話を聞いたことは、説得力があります。フェアトレードは現地を知るということが何よりも大切です。文献に書かれていても、全ての土地にその内容が当てはまるとは限らないので、その地に一番必要なことを見極めるためには、現地に行くしかありません。「ネパリ・バザーロは現地をよく知っているからこそ、ここまでのことができるんですね!」という感想が印象的でした。
 他に出展された方々も、時には厳しい自然と共生しながら、数々の困難を乗り越え、手仕事にこだわって自然素材から糸や布を作られています。昔から伝わる伝統を、今の時代に柔軟に対応させ、変化させながら、新しい世代に伝わる風を起こそうと努力されています。素材展では、「フェアトレード」という言葉は使っていなくても、根っこの部分では私達と同じ考えを持っているたくさんの方々と繋がることができました。

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