ネパール・デイ2005 公開セミナー
「新時代の流れと、コーヒーを通してみた国際協力・フェアトレード」

地球市民かながわプラザ(あ〜すぷらざ)で、毎年秋に開催されるネパール・デイは、全館挙げての催しとしてすっかり定着しました。2005年は、9月3日、4日の2日間で行われ、写真展やネパールダンス講習会、映画上映の他、レストランではネパリ・バザーロのスパイスを使った「なすのカレー」も特別メニューとして用意されました。

 ネパリ・バザーロ(以下ネパリ)は9月4日に公開セミナーを開催しました。会場には、小売店の方々や学生など、100名ほどの参加者がありました。ネパリについての簡単な紹介の後、まず長坂寿久さん(拓殖大学国際開発学部教授)による基調講演をお聴き頂きました。その後は、雰囲気を一転してファッションショー。カタログのモデルでおなじみの唐澤言さん、ネパリスタッフの杉澤佑美を始め、ネパリのボランティア18名がパタンナーの青木いみ子の解説と共に、秋冬の新作をご紹介しました。
 続いて、ネパリ・オリジナル映像の「自立への挑戦〜ネパールコーヒー物語〜」を上映しました。ネパリ副代表の丑久保完二が西ネパールのコーヒー生産者を訪問する様子を収めています。その後、映像のBGMを新たに作曲し提供してくださったパンチャ・ラマさんが、会場に駆けつけて、生演奏を特別に披露してくださいました。ネパールの村でコーヒー生産に取り組む人々の前向きな眼差しと、美しい竹笛の音色とが重なって、参加者の方々を魅了しました。最後は、生産現場レポート「ネパールのコーヒー活動から見たフェアトレード」と題して、ネパールからお招きしたディリー・バスコタさん(カンチャンジャンガ紅茶農園カトマンズ事務所長)とパルシュラム・アチャルヤさん(グルミ協同組合専務理事)のお話を、丑久保のコーディネートのもと、お聴き頂きました。
 3時間という限られた時間でしたが、ネパリの活動を様々な角度からご紹介する機会となりました。

基調講演
「CSR/SRIの最新事情と、フェアトレード界の動き」
長坂寿久さん(拓殖大学国際開発学部教授)

 開発途上国との関わりについて、生活レベルで私達に何ができるのでしょうか。マザー・テレサを描いた映画で、彼女の活動を「大海の一滴」として表しています。同様に、世界の流れの中でNGOの動きも、一滴一滴が集まって大海を成すような大きな影響力を持つ時代を迎えています。中でも重要なものにフェアトレードがあります。
 私達は、民主主義になれば平和で幸せな世になると思ってきましたが、民主主義にも限界があります。政治家の汚職もありますし、我々も正しい人に投票するとは限りません。少数派が見捨てられる多数決の問題もありますが、民主主義の最大の限界は、国民の選んだ議会にも拘らず、政府と企業で話し合った案が議会に提出されていることです。市民が話し合って議会に提出することはありえません。そこで、民主主義をより良く機能させるための仕組みが、多数決以外の合意システムとして、「政府・企業・NGO」三者が対等な立場で話し合い合意形成を図っていくパートナーシップ方式です。まず政府とNGOが協働関係を作るケースは、京都議定書に見られます。CAN(気候行動ネットワーク)というNGOが関わっていなければ、数値目標のない無意味な条約になったと言われています。CANは温暖化阻止を求める国々とチームを組んで国際会議に影響力を与えています。国際条約で署名権があるのは国家のみです。世界を変えていくためにNGOは、主張に賛成してくれる署名権のある国の政府と手をとる必要があります。そして、オブザーバーとして参加できれば、密室で行われていた会議も、その日の内にインターネットでどんどん世界に内容が公開されて、強い国が勝手に進めることができなくなります。
 三者が話し合って作り上げた歴史的ケースは、2000年のシドニーオリンピックです。地元の環境団体などが、最初から参加して、オリンピックに関わるすべての人はそれに沿って行動するという環境ガイドラインを作りました。以後、オリンピック開催の仕組みが変わり、最初からNGOが入って、環境に配慮して進めないと誘致できなくなりました。日本の万博は、環境万博にも拘らず、政府と企業だけで案を作り、後でNGOに説明して証拠作りをするという進め方をしました。新しい時代になっているのに、日本は残念ながら、こうしたシステムの変化も報道されていません。
 企業とNGOがパートナーシップを組んでいくケースがCSRです。企業は今まで収益さえ上げればよく、社会貢献はありましたが、収益を誰に分配するのかの問題でした。CSRは収益だけでなく、環境、社会問題も経営の全プロセスに組み入れることです。それはNGOを企業のコアビジネスに組み入れていくことが基本です。このCSRで、フェアトレードの重要性がわかります。フェアトレードはNGO活動であると同時にビジネスです。ビジネスに偏るとハートを忘れ、ハートのみに重きを置きすぎると経営が立ち行かなくなります。日本では、CSRをNGOと一緒に作り上げるという考え方がありません。そのため「CSRなんてやったってしょうがない」という考えが出てくるのではないかと心配しています。
 日本は、NGOについて、世界の動きを報道できるメディアが少なく、当然ながらフェアトレードの認識も低い状況です。それでも、少しずつ広まっています。欧米では自治体がまず関わっています。日本は政治家も自治体も理解がありません。イギリスではフェアトレードタウンが200箇所くらいに増え、世界にも広がっています。日本でも進めようとする動きはあるようですが、議会の理解を得るのが難しいのが実態です。
 フェアトレードは消費者運動でもあり、各家庭の問題でもあります。子どもは家庭環境から大きな影響を受けて育ちますが、家庭の中に「社会」が入っていないことが問題です。欧米では家に客を招いてパーティーをします。すると家庭に「社会」が入ってきて、子どもは社会人としての親を見て社会を知ります。食卓の上に何をおくか。日本ではせいぜい週刊誌でしょうか。子どもは週刊誌のグラビアを見てそれが親の関心事項だと思うのです。NGOの会報があれば、子も親を見直すでしょう。家庭で社会問題を話し合うことで子どもも変わっていきます。ここにきた皆さんは食卓にネパリのカタログがあるような家庭に。話してあげれば、感受性の強い子どもは深く覚えているものです。

生産現場レポート
「ネパールのコーヒー活動から見たフェアトレード」

コーディネーター
丑久保完二(ネパリ・バザーロ副代表)
ゲストスピーカー
パルシュラム・アチャルヤ (グルミ協同組合専務理事)
ディリー・バスコタ (カンチャンジャンガ紅茶農園カトマンズ事務所長)

丑久保:ネパリのコーヒーの中心的役割を担うディリーさんとパルシュラムさんをご紹介します。ディリーさんは紅茶農園の方ですが、彼なくして、コーヒーを今日の状態にまで持ってこられませんでした。10年前、ネパリはコーヒー取引をしていた生産者との信頼関係に悩み、輸入継続か否か選択を迫られていました。ネパールにとって貴重な換金作物であるコーヒーを何とか継続させたいと、ネパール全域のコーヒー生産について調査をしていましたが、どこに行っても情報がなく、非常に苦労をしていました。
ディリー:私は東ネパールで紅茶を栽培していますが、完二さんと出会った時、コーヒー生産者の情報がほしいと頼まれました。西ネパールのグルミでは、銀行からローンを組んで苗を買い、コーヒーを栽培していましたが、マーケットがなく木を切り倒していると聞いていたので、ネパリに紹介しました。ネパリが買ってくれて、ローンを返し、女性達の仕事もできました。この二人の橋渡しができたことを誇りに思っています。
ネパールは治安が悪くなり、反政府勢力のマオイストと内戦状態です。13の紅茶農園が操業停止に追い込まれました。私達はフェアトレードの成果が認められ、妨害を受けず続けられています。紅茶農園で働く人の7割は女性です。紅茶によって収入が女性の手に渡ると、子どもたちの教育や生活必需品に使われます。カンチャンジャンガ紅茶農園とグルミのコーヒー農園を合わせると、1400人が仕事を得ています。皆様の支援に心から感謝しています。
パルシュラム:皆さん、グルミの生産者を代表してお礼を申し上げます。グルミで最初にコーヒーを生産した頃は、売れなくて木を切ってしまいました。ネパリがコーヒーを買ってくれるようになって農民の生活が向上し満足しています。たくさんの子どもたちが学校に行けるようになりました。豆の選別はすべて女性達が行い、約1000人の女性が関わっています。オーガニックの証明も手続きの段階に入っています。
丑久保:お二人の一言一言が、実はかなり重い意味を含んでいます。ネパリのコーヒーは農園ではなく、広域の村々に散在する一軒一軒で作られています。そこは起伏が激しく、雨が降るとジープも危険なほど道がすべり動けなくなります。しかも反政府勢力のいる地域です。そうした中で多くの人を巻き込んでコーヒープログラムが動いています。オーガニック証明の取得も農園なら難しくないのですが、農家ごとに理解してもらい、書類を作成し、基準を守るのは難しいことです。パルシュラムさんほどのことをする人は他にいません。コーヒーの品質も、始めた頃より格段に向上しています。コーヒーだけでなく、たくさんの生産物があったほうが安定するのでスパイスのプロジェクトも進めています。
ディリー:ネパールでは、クミン、カルダモン、ジンジャー、コリアンダー、ベイリーフなど美味しいスパイスがたくさん採れます。どんなに貧しい人々でも、山に住んでいる人には多少の土地があります。狭い土地に数本のチリやにんにくを植えることができます。彼らにお金を寄付しても、それは一時的なものです。そのチリが継続的に売れれば安定した収入を得ることができます。スパイスは短期間で成長するので3ヶ月ほどで現金化できます。ネパールのスパイスはビタミンが多く、栄養価に富んでいます。皆さんの税金からたくさんの援助金がネパールに来ていますが、そのお金は本当に貧しい人の手に渡るのを見たことがありません。スパイスを買ってくだされば、確実にお金が貧しい人に届き、自分の収入で子どもを学校に通わせることができます。マオイスト問題も原因は貧しさにあります。コーヒー、紅茶、スパイスは貧しい人の収入になる希望の商品です。ネパリを応援することは我々を応援することです。
フェアトレード団体の特徴の一つに、いろんな意見をフィードバックしてくれるということがあります。皆さんのご意見を聞かせてください。良いことは周りの知り合いに話してください。良くないことは私に言ってください。自信を持って私達の商品を届けられるよう努力します。

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