ネパールの未来を導く草木染め

2005年10月9日、草木染めを仕事としているアニタさんとサルミラさんと、染色をされているネパリ・バザーロボランティアの宮内淑子さんに協力して頂き、草木染めの比較実験を行いました。そしてその一週間後、代表の土屋春代を交え、その時感じたことなどをお互いに話し合いました。

 ネパールの自然素材は素晴らしい

春代:草木染めの比較実験はいかがでしたか?

宮内:今回は、素材に着眼して比較実験を行いました。茜、ミロバラン、ラック、アムラの4種類の染料を、それぞれ5通りの媒染剤で染め分けました。染めたのは、日本の機械織りの綿布、ネパールの紙布と手織りの綿布2種類、ネパールのロクタペーパーと日本の和紙です。合計120種類のサンプルを短時間に染めるのは大変でしたが、貴重な資料になると思います。

アニタ:ネパールの綿布は、化学処理をされていないので色がしっかり入りました。糸の撚り具合や、布の織り具合によっても染まり方は変わります。強いほど、色は入りにくくなります。

宮内:そうですね。中でも紙布は色の入りがよく、たて糸の綿糸とよこ糸の紙糸の染まり具合の違いが絶妙で、とても美しかったです。もし日本の素材で紙布を織っていたら、化学処理されているものがほとんどなのでこんなにきれいに色は入らなかったでしょう。

春代:実験結果を見ると、ネパールの素材の良さがよく分かりましたね。和紙は、染める時に高温のお湯に浸けると溶けそうでしたが、ロクタペーパーは繊維がしっかりと絡まり合い、丈夫でした。乾かすと、和紙は色があまり入っていないのに比べ、ロクタペーパーはきれいな色に染まっていて、感動しました。また、同じ染料でも日本産とネパール産は、染めのパワーが格段に違います。ネパールの染料は、短時間で鮮やかな色に染まります。日本の素材では、紙布の草木染めは実現しなかったでしょう。

 質の高い手作り品を目指して

宮内:日本で草木染めの商品を作ると大変な手間と時間がかかり、とても高価なものになってしまうため、マーケットに草木染めの商品は多くありません。しかし、ネパールのパワーある染料と技術、そしてフェアにして手頃な価格は、日本のマーケットに十分入っていけます。紙布も含め、これは大きなチャンスです。

春代:これから中国などの安い商品と闘っていくには、ネパールの品質レベルを今より一層高めていかなければなりません。

サルミラ:なんであんなに安く作れるのですか?

春代:人件費が安く、ほとんどが機械で大量生産をしています。海があるので船で輸出でき、輸送費は安くすみます。しかし、手作りのネパール品は、品質をもっと上げることができれば、機械製の安い中国品とは比べられない、別の土俵で闘うことができます。まだ、今の商品はどっちつかずです。

宮内:中国は色々な意味で「早く、多く、安く」の変化がめまぐるしいですね。

春代:行き過ぎた振り子は、必ず逆に戻る時がきます。中国は早技ですが、私達は正反対の、手がかかることを強味にしていきましょう。

サルミラ:ネパールはスピードが遅いので、どんな製品がいいか考えてマーケットに入るまでに一年、その後お客様から注文をもらって、フィードバックをもらうのにまた時間がかかります。でも、毎日食べていかなければ生きていけません。ネパールにも技術がある人は大勢いますが、マーケットがありません。それが一番の問題です。

春代:それは私達も同じです。たくさんの質の良い商品が安く手に入る日本で、商品を売るのは本当に難しいことです。サルミラさんと本格的に仕事を始めて、一年少しが経ちましたね。最初、「なんてネパリ・バザーロは細かいことをうるさく言うの?」と思ったでしょ?

サルミラ:・・・。昨日貿易ゲームを見学し、私達はネパリ・バザーロが要求する品質をなぜ満たさなければならないのか、ということにようやく気が付きました。

春代:ヨーロッパやアメリカは以前からチャリティー活動が盛んで、その延長からフェアトレードが始まった部分もあり、多少質が悪くても売れたようです。しかし日本のマーケットは最初から、質の高い物でなければ売れませんでした。そのため、品質は高くなっています。これからは、ヨーロッパもアメリカも、フェアトレードといってもそれだけでは売れず、質の高い、魅力ある商品を作っていかなければ売れない時代です。日本のマーケットと付き合うのは難しいけれど、ここで頑張れば世界に通用し、ネパールの財産になります。

 自立を目指して

アニタ:マヌシは、10年以上ネパリ・バザーロと付き合ってやっとここまで来ましたが、まだ納得のいく商品を作れていません。最初はマヌシも試行錯誤で、ネパリ・バザーロもマーケットを探すのがとても大変でした。草木染めは、知識があっても実践がなければ上手くなりません。本当に、マヌシはネパリ・バザーロが買い支えてくれなかったらやめていたと思います。

サルミラ:「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」と、春代さんは研修の初日に言っていましたが、最初はその意味が分かりませんでした。でも、ようやく分かりました。魚は食べたら終わりです。明日の分がないので、また魚をくれる人を探さないといけません。でも、釣り方を教えてもらったら、その先も自分の力で生きていくことができます。

春代:これからもネパールの未来のために、一緒に頑張っていきましょうね!

戻り