商品開発物語 ネパリ・バザーロの商品ができるまで
手仕事がつなぐ飛騨高山とネパール セラピーバスケットとセージのほうき

2005年12月28日から2006年1月8日にかけて、高山の『森林たくみ塾』(注1)特別講師の佃真弓さんに、かご編みの技術指導のためネパールに行って頂きました。佃さんは、政情不安にも拘わらずネパールに行くことを迷わず決意され、現地でも精力的に指導をしてくださいました。
 その中で生まれたセラピーバスケットとセージのほうき。今回はこの2つの商品ができるまでの物語を、佃さんに語って頂きました。

人生意気に感じてネパールへ
 今から10年以上前、ネパリ・バザーロ代表の土屋春代さんがキャラバンを組んで、飛騨高山の「力車イン」という旅籠で展示販売会を行っていました。私の友人で、力車インのオーナーの瀬戸山えい子さんに、「とにかく来て」と誘われたので訳が分からず行き、そのまま搬出などの手伝いをしました。当時、春代さんの他にスタッフが一人しかいなかったので、とても忙しくて大変そうで、お互いゆっくり話す時間がありませんでした。しかし、一緒に仕事をしながら価値観や感性が似ているとは感じていました。
 そして2005年5月、瀬戸山さんを通して、約10年振りに再会をしました。すると、その場でネパールに技術指導に行ってもらえないかと頼まれました。話を聞くと春代さんは、ネパールに大勢いる、かご編みの生産者に何とか仕事を出したくて、いい商品のアイディアはないかとずっと考えていたそうです。まずは現地を見て欲しいと言われ、突然でしたが、その場で引き受けることにしました。

きっと想いは通じるはず・・・
 ネパールに着くやいなや、ノットクラフト(注2)という生産者団体での技術指導が始まりました。初日は、新しい商品のアイディアをどんどん要求してくる代表のシャムバダンさんと、控えめで、あまりやる気も見せず、なかなか私の言うことを聞いてくれない生産者達の狭間で、どうやって教えればいいのか正直戸惑いました。でも、「私は毎日食べていくことができるので、これ以上自分のために望むことは何もありません」というシャムバダンさんの言葉に、生産者のことを親身になって考えていることが分かり、私もできるだけのことはしようと思いました。
 そして工房で、ある糸玉を見付けた時、はっとしました。それはほんの5センチ程の糸をつなぎ合わせて、ぼつぼつになった糸を玉にしたものでした。それを見て、「これならできる!」と思いました。こんなに物を大切にする人達なら、きっと私の想いは通じると思いました。そして、私にできることは精一杯しなければと思いました。

手仕事の素晴らしさを伝えたい
 しかし、どうやったら生産者達のモチベーションを掻き立てることができるかと悩みました。彼女達は、教育を受けていないから自分達はかごを作るしかないんだ、どうせこれしかできないんだ、と思いながら作っていました。でも、何とか手仕事の素晴らしさを伝え、自分達の仕事や人生に誇りを持って欲しいと思いました。
 そこで、教えたばかりのセラピーバスケットを、身の回りにある素材で作ってくるように宿題を出し、いろいろな賞を作って表彰することにしました。今まで人から注目を浴びたことのない彼女達にとって、自分の作った物が人前で認められるのは、想像以上に大きな喜びで、自信になると思いました。

サリタさんが与えてくれたもの
 宿題は出したものの、本当にやってくるのか、実は不安でした。でも、たった一人ですが、サリタさんという女性がとても上手に作ってきました。彼女は、いつも私の話を全身を耳にして聴いてくれていました。彼女が宿題をやってきたことが、私にとっても自信となり、もっと頑張らなければと思いました。最初は歪なセラピーバスケットでどうなることかと思いましたが、彼女がきっかけとなって他の皆も頑張り、商品としてこうして完成させることができたと思います。たった一つの商品でも、完成させるのは、本当に大変なことです。

仕事を出し続けることの難しさ
 今回ネパリ・バザーロの現地での活動を見て、ずっと継続し、ネパールへこだわっていることは本当にすごいと思いました。たった一人の人にも、仕事を出すのはとても難しいことです。でもそのたった一人が積み重なって、少しずつ良くなっていくのです。そして、今回私も様々な人と関わり合いながら、自分が楽しくなれる場所で、少しでも人の役に立ててうれしく思います。頻繁にネパールに行くことはできなくても、例えば同じコーヒーを飲むなら、ネパールのコーヒーを飲んで、その想いを周りの人に伝えていこうと思います。 (佃真弓さん談)

佃真弓
かご作家、森林たくみ塾特別講師。立教大学の仲間で持続可能な社会の実現に向けて飛騨高山に移住。木の総合教育機関をめざす森林たくみ塾においても、その成果を活かしている。最近では、自ら、中米のベリーズなどでかご編みの海外技術指導も行う。国内では、生活文化に基底を求める「和の生活」展も仲間と開催している。


(注1)1991年4月に開設された、プロの家具職人と森づくりを担う人材を育てる日本で初めての「木の総合教育機関」
(注2)シャンバダンさんが、1984年に立ち上げた小さな工房。おがくずから作ったクリスマスのオーナメントやマクラメ編みのベルトなど、アイディア溢れるハンディクラフトを作っています。

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