紙と織り、沖縄を訪ねて。
   
沖縄で

 2004年も暮れる頃、ウシャさん達の懸命の努力でロクタ紙から細い糸ができ、服が何着も作れる長い布が織れてきました。でも本当にこれで商品を作って売れるのかと日夜悩み続けました。プロジェクトを推し進める自信がもてず、価格も何を基準にどうつけたらよいか迷いが多く、途方にくれていました。その時、沖縄のフェアトレードのお店「風の里」の高江洲あやのさんに上原美智子さん(注1)をご紹介いただきました。
 上原さんは、目を凝らさなければ見えないほど繊細な絹の糸で、とんぼの羽のように透き通る美しい布、「あけずば織り」を開発され、高い評価を受ける染織作家です。
 2004年12月初めてお訪ねし、ロクタ紙の糸と布を見ていただくと、「美しい糸ですね。良いお仕事をしていますね。きっと売れますよ。私は帯を織るから糸でいただきますね」と糸の予約までしてくださいました。ずっと重苦しくまとわりついていた空気が急に軽くなり、開放されて身動きが楽になったように感じました。体を包む温かく心地よい微風さえ感じられました。
 悩んでいた価格についても「先ず生産者の暮らしがたつように考えてください。よほど高くない限りは日本のお客様は良いものなら買ってくださいますよ」と言われ、目的だったネパールの生産者の生活改善につなげられる目処が立ち、前に進めるという確信がようやくもてました。
 2006年2月の紙布発表にはウシャさんを日本に招待し、沖縄にお連れして上原さんに会っていただこうと固く心に決めました。

出会い

 ふたりの直接の出会いは今後の紙布の運命を決めたかのようでした。どのような糸を紡ぐか、布を織るか、ずっと先まで目指す道が見えました。人と自然を愛し、信じる道をひたすら進む人同士、心を交わし、ネパールでの再会を約束しました。
 素材の大切さを知り尽くされている上原さんは、「芭蕉紙」を製作し、保存に尽くされている安慶名清さん(注2)の工房にも案内してくださいました。沖縄で織られている貴重な芭蕉布。布には使えない芭蕉の繊維から漉いた紙「芭蕉紙」を復活された方の仕事を引継いでいらっしゃいます。その豊富な実践から得た貴重な知識を惜しげなく与えてくださり、今後の糸作りに必要な紙の要素を具体的に示してくださいました。
 人も心も知恵も自然も、沖縄は何と豊かな所でしょう。紛争が続くネパールに帰るウシャさんとマンマヤさん。でも心は滞在で育まれたたくさんの友情に温かく満たされ、笑顔で帰国されました。戻ってからたくさんの課題が待ち受けていますが、どんな困難もきっと乗り越えて、私達に夢と勇気を与えてくれると信じます。 

(注1)まゆ工房主宰。世界一細い絹糸(3.7デニール)で織る「あけずば織り」は、5メートルの布が僅か5g、天女の羽衣はかくやと思う美しさ。「あけずば」とは沖縄の言葉でとんぼの羽のこと。
(注2)手漉琉球紙工房「蕉紙菴」主宰。琉球王朝時代から作られた沖縄独特の紙、芭蕉紙を漉き続ける。 

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