商品開発物語 vol.3  ネパリ・バザーロの商品ができるまで
トゥリさんバスケット

トゥリ・バハドゥールさん
 2005年も暮れる頃、かご作家の佃真弓さんをお連れして、私たちはネパールを訪れました。かご編みを生業とするネパールの生産者に、新しい編み方やデザインを教えてもらうためです。
 中でも私たちが心待ちにしていたのは、トゥリさんとのトレーニングです。彼は竹細工が盛んな村に生まれ、父親から教わり竹かごを作り始めました。一本の竹をなたであやつり、素敵なかごに生まれ変わらせるその過程は、まさに職人技です。竹を取りに行くのに丸一日、作るのに丸一日かかります。私たちは、竹かご作りで5人の家族を支えなければならないトゥリさんのマーケットを広げたいと、以前から強く思っていました。

村から歩いて・・・
 いよいよトレーニング初日。しかし、待ち合わせの場所でいくら待ってもトゥリさんは姿を見せません。連絡をとろうにも電話はないし…。約束の時間から1時間以上たって、ようやくトゥリさんが現れました。途中でバスが故障したので、仕方なくここまで歩いて来たと言うトゥリさん。その日は大幅にスタートが遅れてしまいました。

新しいかたち
 そのような状況なので、私たちがトゥリさんの家に行くことにしました。首都カトマンズから、でこぼこ道を車で走ること約1時間。車から降り、急な斜面を歩いて登ると、ようやくトゥリさんの家が見えてきます。4人のかわいい子どもたちが、恥ずかしそうに迎えてくれました。
 庭にござを敷き、早速トレーニングを始めました。佃さんが、新しい編み方を少しずつ教えながら進めていきます。ところがトゥリさんは、佃さんの話をほとんど聞こうとせず、自分でどんどん編んでいってしまいます。基本が大事なのに、言うことを聞いてくれません。圧倒的に男性優位のネパール社会では、男性が女性に従うことはまだ多くはありません。トゥリさんも、家族を支えるかご職人として、小さい頃から父と働き、身につけた技術にプライドがあります。
 しかし、日本で売れる商品を作らなければ、トゥリさんと家族の生活が成り立ちません。どうしたら聞いてくれるのか・・・。佃さんは戸惑いながらも編み続けました。そして、新しい形がようやく見え始めたとき、トゥリさんの態度が急に変わりました。初めて見る形に、トゥリさんは身を乗り出し、佃さんの手元を真剣に覗いています。そして、同じように編み始めました。佃さんの確かな技術に納得したトゥリさんは、少し編んでは無言で佃さんに見せ、そしてまた編み続け、ついに新しいかごが誕生しました。口数が少なく、いつも無表情のトゥリさんですが、その顔はとても満足そうでした。佃さんも、緊張とプレッシャーからようやく解き放たれたのか、やわらかな表情になりました。


佃真弓
かご作家。プロの家具職人と森づくりを担う人材を育てる木の総合教育機関「森林たくみ塾」特別講師。         
「トゥリさんよりも厳しい生活をしている人々が、ネパールにはたくさんいると聞いて、無力感を感じました。でも、何もしなければ、たった1人の人にも仕事を創ることはできません。こぼれた米粒を拾うようですが、自分にできることをしていきたいと思います」



 安定感のある底面からゆるやかにカーブしている側面と、正面のあわじ結びが特長の「トゥリさんバスケット」。かご作家の佃真弓さんが伝統的な編み方をアレンジし、ネパールと日本の良い関係が末永く続くようにという願いを込めて、あわじ結びを組み合わせました。
 今回のトレーニングは短期間でしたが、大切な家族の生活が自分の腕にかかっているトゥリさんは真剣でした。帰国後、日本とネパールでサンプル製作を重ね、ようやく完成した「トゥリさんバスケット」。トゥリさんが、竹を深みのあるダークブラウンに草木染めし、確かな技術で一つひとつ丁寧に編んでいます。
 サイズは大と小の2種類。大きい方は、中にタオルなどの生活用品を入れたり、野菜や果物などを盛ったりできる実用的な大きさです。小さい方は、観葉植物を入れたり、身の回りの小物を入れたり、お菓子を入れたりして、アイディア次第で幅広く使えます。
 使い込むほどに味わい深くなる、手仕事の道具。日常に温もりを与えてくれることでしょう。

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