基調講演 「企業の存在意義」 岡田贊三

 ネパリ・バザーロとの出会いは10年前の力車インでの展示会。活動を知り、感動しました。フェアトレードが発展途上国でニーズがあることは容易に理解できます。では、日本国内ではどうか。大都市と地方、大企業と零細企業とでフェアなやりとりがあるのか。日本各地と同様、ここ飛騨高山でも、地場産業が疲弊し、活力がなくなってきています。創業から86年の飛騨産業も、飛騨の経済を支える代表的企業ですが、バブルの崩壊と共に、その役割を果たすことが厳しくなり、存在さえ危ぶまれる状態になりました。
 もともと環境問題には関心があり、環境を守ることにもつながる仕事をしたいと思ってきました。飛騨産業を引き受けたのは6年前。まず工場を見て回り、不良品が多いことに疑問を持ちました。製作途中で節が現れると、それだけで不良として処分されます。森林資源が枯渇している中で、こんな無駄があっていいのか。節を活かした家具が作れないのかと尋ねても、素人が何を、と相手にされませんでした。高級家具は節がないという観念を変えようと、デザイン開発に取り組みました。出来上がった家具は大変素晴らしく、ちょうど自然志向、エコロジーが浸透し始めた時でもあり、ヒット商品になりました。業界の常識を疑ってかかってもやっていけるという強い自信となりました。
 
 飛騨高山は、貧しい村でした。奈良時代、平安時代に労役として、都で神社仏閣を作ってきました。飛騨の匠といわれるのは、当時から蓄えてきた技術です。創業時の飛騨産業は、飛騨の山に大量にあったブナに独自の加工を施し、それまでなかった西洋家具を作りあげ、海外にまで売り込みました。今、日本のブナやナラは切られてしまい、木材は海外からの輸入に頼っています。日本の山にあるのは、戦後大量に植えられた杉。杉というと杉花粉などマイナスイメージが強いのですが、その木目は美しく、軽い木材。良い性質ですが、軽いということは軟らかく、傷つきやすいということで家具作りには欠点となります。そこで、加湿熱処理によって圧縮し、表層を硬くするという80年以上前から培ってきた曲木(まげき)という技術を使い生まれたのが「WAVOK」という商品です。
 
 デザインの向上のためにイタリアから有名デザイナー、エンツォ・マーリ氏を招いたことが、次の大きな転機となりました。彼は「なぜ欧米の真似をしているのか。日本には桂離宮や高山の街並みに代表される高い技術と美意識があるのに」と言ってくれました。私自身も、デザインといえばイタリアと思われているのが不満でしたので、ぜひ彼と組みたいと思いました。日本人の手によるデザインもよいのですが、外国人だからこそわかる日本特有のデザインを彼に依頼し、生まれたのが「HIDA」というブランド。新しい企画は中小企業にとっては大変なリスクでもありますが、とことんやってやろう、と進めてきました。海外でも発表し、日本の文化がちゃんと認められていることを心強く感じました。東京での発表、表参道ヒルズのショップ開設と、不思議な縁のつながりで、やり始めたらあれよあれよと進んでいます。
 インドネシアでまた大地震があったように、世界では様々なことが起こっています。しかし、一人の人間にあれもこれもできるわけではありません。視点はグローバルに持ちながら、自分自身は今立っている場で、今出会ったことをしっかりと行っていこうと思っています。今後はよりいっそう、フェアトレードにも協力をしていきたいと思います。


飛騨産業株式会社/飛騨の家具館
代表取締役社長:岡田贊三
〒506-8686岐阜県高山市名田町1-82-1
Tel:0577-36-1110 Fax:0577-32-6630
Open:9:00〜18:00
http://kitutuki.co.jp
 飛騨産業株式会社は1920年創業。「気持ちのいい家具」を原点に、すぐれた品質とデザインで評判を集め、これまで数々のロングセラーを生み出しています。節のある木材を利用した「森のことば」シリーズ、イタリアのデザイナーと共同開発し、日本の杉を活かした「HIDA」シリーズなど、新しい試みに挑戦しながら飛騨の匠の技術や素材のよさを活かし、環境に配慮した本物の家具作りに取り組んでいます。
 飛騨の家具館では作り手の心が伝わってくるような魅力的な家具をゆっくりご覧いただけます。家具を見た後は併設されたカフェで、ネパリ・バザーロのおいしいネパールコーヒーを味わってみてはいかがでしょうか?

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