特集 SPECIAL ISSUE
コーヒーのお菓子作りと国際協力

 西ネパールの貴重な現金収入であるコーヒー。遠隔の地の利を活かし、自然農法と有機農業を組み合わせ、安全な食を提供しています。ネパールで初めての輸出となったのは1994年、日本とオランダに向けて。それ以来、今日まで買い支えてきたのはネパリ・バザーロだけ。有機証明検査官をオーストラリアから招き、村へ伴うなどの努力を重ね、2006年、ネパールで初めてコーヒーの有機証明を取得しました。これまで買い支えてきた効果がここにあります。2005年秋、韓国への輸出にも協力しました。韓国でも、いよいよフェアトレードが始まろうとしています。同じアジアの同胞として、情報を密に共有しながら力を合わせ、社会貢献を進められたら、どんなに素晴らしいことでしょう。
 2006年4月、ネパールでは民衆が起ち上がり、国王に独占された政治から議会を取り戻す大きな抗議行動が起こりました。1990年の民主化闘争の数倍は集まったと言われる群衆。一人ひとりが権利に目覚めたことを示すものとして注目されています。腐敗した政治を心配する声は絶えず、今後も波乱が予想されますが、だからこそ一層仕事創り、収入向上策が必要です。
 コーヒーのお菓子作りは、現地生産者の生活向上を目指すだけでなく、私たちの住む日本で働く障害のある人々の仕事創りとしても注目されています。お互いの努力があって初めて成しえたものです。その橋渡しにフェアトレードがあります。

ネパールのこだわりのコーヒー

 コーヒーがネパールで初めて植えられたのは、約60年前の1944年のこと。今でも、その木は老木ながら西ネパールのグルミ地区アプツォール村で大事に守られています。首都カトマンズから300キロメートル離れたところに位置しています。ネパール政府からも村人の収入向上策として注目されましたが市場がなく、徐々に他の作物に切替えを余儀無くされました。1990年代に入り、私たちネパリ・バザーロが取引を始め、今日に至っています。
 コーヒーを生産している地域は、標高1000メートルから1800メートルのところで、気候は、亜熱帯からそれより暖かい気候に属しています。農民は、さまざまな民族やカースト(身分制度)、ブラーマン、チェトリ、マガールから、アウトカースト(*)の人々、そして、モスリム(イスラム教徒)の人々も含まれています。
 ここ数年、私たちは有機証明検査官を伴い現地を訪れていますが、特に印象的な光景は、コーヒーと共に多くの農産物が植えられていることです。いわゆる単一栽培ではないということです。時には、良い場所を使っていることもあれば、一般作物には不向きな部分に植えられていることもあります。コーヒー1に対し、4倍から5倍の他の作物が植えられています。コーヒーの木は、他の飼い葉となる植物や果樹により、良い日陰も得られ、バランスの良い植林がされています。
 農民と、市場の橋渡しをしているグルミ協同組合は、この遠隔の地でコーヒーの生産を始めてから、実に多くのことを学び、技術を蓄えてきました。ネパールの中でも奥地に属するこの地で、農民にその技術を伝えていくことは彼らにとって大変な作業でした。更に、政治的にも多くの問題を抱える中で、協同組合を支えるネパリ・バザーロがこの地を訪れるということは、農民の願いでもありました。外部から人が入りにくいこのような状況下では、有機農業の実践は、そこに住む人々の努力の結果です。野菜、果実、そして、私たちが取引を始めたスパイスも含めて、このコーヒーの有機農法の生産方式をベースにしています。その新鮮な香りと味は、消費者の皆様を魅了することでしょう。今まで知っている味との違いにも驚かれることでしょう。
 食の安全でも違いがあります。欧州連合(EU)の有機委員会では、食の安全確保には生産者と顔の見える関係構築が重要とされ、それを如何に作っていくかが課題となっています。まさに、私たちがフェアトレードで実践している形なのです。遠方の地に住む人々の収入向上、生活向上に寄与し、環境にやさしく、私たちにとっても安全な食の提供は、これからの時代の要求であり流れです。ネパリ・バザーロのコーヒーやお菓子を味わいながら、新しい時代創りに加わるひとときをお楽しみください。

(*)アウトカースト:カーストという身分制度の枠にも入らない程、蔑まれる人々を指す。

ネパリ・バザーロの紅茶クッキーを作っている障害者地域作業所「かたくりの里」で、新たにコーヒークッキーを作ることになりました。

 駅近くのビルの2階にある「かたくりの里」のドアを開けると、クッキーを焼くいい匂いが立ち込めています。ネパールのオーガニックコーヒー、オーガニック紅茶、オーガニックスパイス、南部地粉、洗双糖、よつ葉バターなどのこだわりの材料を使い、4種類のクッキーをそれぞれの特長を活かして作っています。機械でバターと砂糖を混ぜたところへ粉を足し、紅茶を足し、あっという間に生地ができあがります。生地を量り分け、手で棒状にして冷蔵庫で寝かせた後、端から輪切りにして天板の上に並べていきます。
 ビーという音を合図に、オーブンから何枚もの天板があわただしく取り出され、焼きたてのクッキーがざらざらとボウルに落とされていきます。1分、2分の違いで焦げてしまうので、オーブンの係の方は、つきっきりでとても忙しそうです。パタパタとうちわで扇いで冷ましたクッキーは、一つひとつ丁寧に袋に詰められていきます。
 レモンティークッキーは、レモンティーと砂糖を煮つめてジャム状にしたものとレモンの皮を生地に練りこみ、さわやかな風味と歯ごたえを出しています。オリジナル色が強く、所長の小笠原さんにとっても、思い入れの強いクッキーです。その経験を活かして、とびっきりおいしいコーヒークッキーができあがりました。鍋いっぱいのコーヒーに砂糖を溶かし、少量になるまで煮詰めたものを生地に練りこみます。作業場の片隅のガスコンロでコトコトと火にかけられていますが、ちょっと目を離すと噴いてしまうので、油断できません。
 大量のオーダーをこなすために、時には休憩時間を削って作業することもあるそうです。障碍により、疲れやすいことがあっても作業に専念できるのは、やればやっただけ得るものがあるのはもちろんですが、仕事をやりきった充実感と、それがまた次のオーダーへとつながり、自分たちの製品が売れているという実感もわくからでしょう。皆さん黙々と作業されていましたが、沈黙の中にも作業をこなす熱心さが満ちていて、そこは作業所というよりは、本当にクッキー工場そのものでした。
 真面目に製品を作るとコストばかりかかってしまい、とても一般には市場が開けないことも多い時代にあって、かたくりの里のクッキーは、こだわりの材料とこだわりの理念を持って、事業として十分成り立ち、作る人のやる気にもつながっています。そしてそれは、ネパールのコーヒー、紅茶生産者へもつながっていくのです。

 「かたくりの里」は1988年に開設されました。精神障碍者15名ほどが、製菓事業に携わっています。母体である社会福祉法人県央福祉会はノーマライゼーションの理念のもと、すべての障碍者や高齢者が社会を構成する一員として、社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されることを目的として活動しています。

社会福祉法人県央福祉会 
かたくりの里
所長:小笠原靖
〒252-0804 神奈川県藤沢市湘南台2-18-1サンウエイ湘南ビル2F-D
Tel&Fax:0466-45-8512 katakuri.office@tomoni.or.jp

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