座談会 2006年4月23日

フェアな社会に向けて コーヒーのお菓子ができるまで




話し手

小笠原靖
(社会福祉法人県央福祉会 かたくりの里所長)
以前は農業関係の出版社、農業関係の仕事に携わっていた。現在藤沢市にある「かたくりの里」所長を務める。

土屋春代 (ネパリ・バザーロ代表)
中学時代に知ったネパールの子どもたちの厳しい状況と、その20数年後に聞いた状況がほとんど変わっていないことに強い衝撃を受け、教育支援活動を始める。しかし横たわる深刻な貧困問題に直面し、仕事の機会創出のため1992年ネパリ・バザーロを設立した。

丑久保完二
(ネパリ・バザーロ副代表)
コンピューターの開発を経て現職。国際語エスペラント&アマチュア無線の太平洋州エスペラントクラブ技術相談員。(社)日本ネパール協会前理事。神奈川県NGOかながわ国際協力会議委員。代表と協力してネパリ・バザーロを設立。

聞き手

魚谷早苗
(ネパリ・バザーロボランティアスタッフ)
ネパリ・バザーロの母体となるNGOベルダレルネーヨの創立当初からのボランティアメンバー。本業は障害者施設職員を経て、現在は障害者支援ケースワーカー。


コーヒーのお菓子の開発経緯

魚谷早苗(以下魚谷):なぜ福祉作業所と協力してお菓子作りを始めたのですか?

土屋春代(以下土屋):鎌倉にある福祉ショップ「朋」の遠藤さんとお話したのがきっかけです。当時作業所に依頼していたのはヘナ詰めなどの作業でした。他にも自分に何かできることがあるのではないかと思っていた頃に、遠藤さんが「福祉作業所も、今後はより付加価値のある、もっと売れるものを作っていかなければならない。ネパールの生産者に日本に売れる商品を作ってもらうことと、福祉作業所や授産所で商品を作ることとは似ているのではないか」と言われました。ネパールの紅茶を使ったクッキーのヒントになりました。新商品のコーヒーのお菓子は、紅茶のようにコーヒーもお菓子の材料として使い、よりマーケットを広げていきたい、そして作業所と一緒にできる仕事をもっと増やしていきたいという想いから取り組みました。

ネパリ・バザーロとのコラボレーション

魚谷:紅茶クッキーを始めて5年経ちましたが、いかがですか?

小笠原靖(以下小笠原):作業所では仕事を探すのは大変です。私たちの法人の施設では、パンやお菓子などの自主製品に力を入れてきました。利用者により多くお金を還元しようという想いからです。自主製品のお菓子以外に軽作業を行っていますが、なかなか収入には結びつきません。自主製品は注文、委託、バザーなど、主に3つの販売方法がありますが、販路を得るのは本当に難しい。そんな時、紅茶を使ったクッキーを考えてほしいという依頼を受け、たくさんの本を読み、いろんなレシピで試行錯誤を繰り返しました。ストレートティークッキーは、味も歯ざわりも良いものがスムーズにできましたが、レモンティークッキーは苦労しました。いろいろな情報を組み合わせて作ったので、とても思い入れがあります。

土屋:レモンティーを煮つめて作っているのは、すごいアイディアですね。

小笠原:実は結構難しいんです。最初の頃は、失敗も多かったのですが、今は利用者も職員も慣れてきて、効率よくスムーズに作れるようになりました。

土屋:サンプルのやりとりをした際、2回目まではスムーズでしたが、3回目をお願いした時は困った顔をされたことを覚えています。でも、美味しくていいものでなければ商品にならないことを正直に伝えました。価格の面でもなかなか折り合わなかったですね。より販路を広げるにはたくさんの量が出る卸販売をしなければならず、卸価格にする必要がありました。バザーなどで売るのか、流通にのせて売るのかを迫った時、即答で「流通にのせたい、販路を広げたい」と言ってくださり、決まりました。その後開発したマサラティークッキーは、スムーズに商品化できました。何度もサンプルを作ってくださるその熱心さがうれしかったです。

小笠原:ネパリ・バザーロ(以下ネパリ)からの継続した注文が増えたおかげで、経営はだいぶ安定してきました。全体的にみて、お菓子の売上が着実に上がっています。ネパリの紅茶クッキーは2001年から生産し始めましたが、最初、予想をはるかに超えた注文がきて本当に驚きました。もしかしてネパリが無理して買って、近くの川に捨てているんじゃないかと思ったほどです。以前は職員が夜中に焼いていたこともありましたが、今は効率もあがり、量もこなせるようになりました。利用者も注文がきていることが分かり、モチベーションアップにつながっています。

土屋:当初、たくさん量が作れるのかと心配していましたが、それを聞いて本当にうれしい!多くのお客様からの支持をいただき、本当にありがたいです。働く利用者の方々の待遇も良くなりましたか?

小笠原:売上が伸びているので、利用者への賃金も少しずつではありますが、増えています。これからもできるだけ多くを賃金で還元していきたいと思っています。

土屋:新作のコーヒークッキーは、こちらからお願いしていないのに、かたくりの里さんから積極的にご提案してくださいましたね。

小笠原:コーヒーを使ったお菓子を考えていると聞いて、ぜひやりたいと、思いきってサンプルを作り、提案することにしました。もし実現すれば、利用者の収入向上につながります。コーヒーの味をクッキーに出すのは難しいと聞きましたが、今までの積み重ねで紅茶クッキーの作り方を応用したところ、うまくできました。

丑久保完二(以下丑久保):紅茶クッキーは美味しく、とても人気があり、各地の大学生協でも急速に広がっています。コーヒークッキーも楽しみですね。

こだわりを持った商品を販売していくこと

魚谷:ここまで広まってきた要因は何だと思いますか?

土屋:そうですね、私たちの商品がお客様からご好評いただいているのは、こだわりを持って作っているからだと思います。また、マーケット側からの声をいただき、それを受け止め商品化していく、お客様のニーズに合わせて作っていくことも大事だと思います。原材料にこだわり、手間もかけて、本当にいいものを作っているのだから、自信を持ってやっていきたいですよね。こだわりを持つことはすごく大切。でもある程度売れなくては困りますね。

丑久保:一般的にいえば、質より量という方向に行きがちです。消費者個人個人は美味しくて安全なものをほしいと言いつつも、実際は安いものを求めがちになってしまっています。

土屋:いいものを望むなら、それだけの対価を出す必要があると思います。

丑久保:質が高く、社会にも還元でき、福祉にも直接つながる商品があることを知っている消費者もいますが、そういう意見は少数で市場に反映されにくい状況があります。しかし、食の安全を守るには、生産者と顔の見える関係を創っていくことが大切だという考えが、EUなどでも注目されてきています。

土屋:大量生産、大量廃棄ではなく、本当に分かってくれる人に、美味しく安全という点に配慮しながら無駄を出さずに提供していきたいです。最初時間はかかるかもしれませんが、じっくり進めていきましょう。マーケットによってもアプローチの方法は異なります。私たち自身も規模を拡大せず、小さなマーケットを守っていくというのも大切ですよね。

小笠原:価格面では、納得のいく適正な価格で、妥協しないでやっていくのが大切ではないでしょうか。

土屋:作業所の利用者の方が、働いても一ヶ月に数千円しかもらえていないのが一般的という状況は、おそらく知られていないでしょう。作っている人がやる気をなくしてしまうような報酬は悲しいですよね。売る側の姿勢も重要。商品に自信があれば、お客様に伝わり、反応も違ってくると思います。

フェアな社会に向けて

魚谷:これからの展望をお聞かせください。

丑久保:長年おつきあいしてきたコーヒーの生産者とは強い信頼関係ができてきました。生産者は品質が高いものが売れると知り、品質向上に努力しています。自発性も出てきて、地域の改善をしたり、より仕事が必要な人々に手をさしのべようとしています。さらにはコーヒーからスパイスへと広がり、前向きに取り組んでいます。自然と共生できる、本来の流れに戻すような、価値のある食品作りをしていると思っています。今後ネパールの生産者とも、日本の福祉作業所とも、安全で美味しいという点にこだわったものを作っていきたいですね。

小笠原:私たちが作った商品を通して、障害者を理解してくれる人を一人でも多く増やすこと、それが私たちの仕事かなと思います。

土屋:そうですね。私たちのフェアトレードの活動にも、ただネパールのことだけではなく、社会の仕組みによって、弱者がさらに弱者にされているということなど、いろいろなことに関心をもってほしいという想いがあります。問題に気付いた人々が社会を変えていけるのです。そういう仲間を増やしていきたいですね。

小笠原:ネパリは本当に流通のプロです。私たちの期待をはるかに上回っていました。私たちだけでは努力してもなかなか販路が開けませんでしたが、ネパリと一緒に仕事をするようになってから、仕事の質も、みんなのやる気も大きく変わりました。

土屋:生産する側と流通に携わる側。私たちそれぞれの力を発揮して、よりよい社会につながる仕事をしていきたいですね。お互いにいいものを作って、消費者の方々と共にフェアな社会を創っていきましょう!

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