商品開発物語 vol.6 
ネパリ・バザーロの商品ができるまで

サヌ・バイさんの食器


今仕事を取り仕切っている、息子のゴパールさん


写真左上から、ネパリ・バザーロ代表土屋春代、サヌ・バイさん

ネパリ・バザーロ(以下ネパリ)がサヌ・バイさんに出会い、仕事をお願いするようになってから、もうすぐ10年になります。おなじみのふくろうや象の食器は、柄のデザインや大きさなどを、こちらの要望に応じて何度も試作を繰り返し、ようやくできあがったものです。それ以来約10年間、人気商品として、継続的に注文をしてきました。
 2007年1月、デザインを一新しようと、図案を持って、サヌ・バイさんの工房を訪ねました。明るい光が差し込む6畳くらいのスペースに、必要最小限の仕事道具がきちんと整理された、職人気質を感じる気持ちのいい工房です。サヌ・バイさんたちは、いつもと変わらぬ笑顔で私たちを迎えてくれました。

お父さんも、そのまたお父さんも鋳物職人で、15歳のときから仕事を学び始め、もう40年以上になるサヌ・バイさん。20歳の時に父親を亡くし、若くして家計を支えなければならなくなりました。洋銀細工はとても難しく、一人前になるには時間がかかります。今、工房を取り仕切っている息子のゴパールさんは、仕事を始めて17年たちますが、サヌ・バイさんに聞かなければ分からないことが、まだまだあるそうです。サヌ・バイさんは、息子や甥たちに仕事を教えながら、貴重なこの技術を残していきたいと考えています。
 工房では、いつもフォークを作る工程を一通り見せてくれます。まず火をおこし、洋銀を溶かします。その間に、フォークを土に押しあてて鋳型を取り、そこに溶けた洋銀を流し込みます。型を開けると、見事なフォークができあがっています。その後やすりで何度も削り、表面をなめらかにします。最後の仕上げは、いつも必ずサヌ・バイさんがしています。窓辺の席に座り、ただ黙々と細部まで磨き上げ、ようやく一本のフォークが完成します。サヌ・バイさんが、磨きたてのフォークを手のひらにのせてくれました。ホカホカで、手作りの温かみがじわーっと伝わってきました。




 「一本作るたびに鋳型を取り直すのはとても手間がかかりますが、これがずっと私たちのやってきた方法なので、これからもずっとこの方法で作り続けます」と、サヌ・バイさんは静かに言います。
 作業の中で一番難しいのは、型取りと流し込みだそうです。型が細部まできちんと取れたか確かめられるよう、強い光が差し込む朝8時から12時くらいが仕事がしやすい時間帯です。雨の日は暗いので、型取りや流し込みはできません。毎日のように停電もあり、仕事が思うように進まない時もあります。それでもサヌ・バイさんは、「とにかく、仕事があることがうれしい」と、スプーンを磨く手を休めることなく、ゆったりとした物腰で言います。「ネパリは継続的に注文をくれるので、とても助かります。他の仕事がない時は、ネパリの商品を少しずつ作っておきます。また注文が来るのが分かっているので」と、作りためたものを、そっと見せてくれました。
 サヌ・バイさんたちに、ドキドキしながら新しいデザインを見せました。言葉数は少ないですが、皆、目を輝かせて身を乗り出し、「いいものを作ろう!」という職人の心意気がひしひしと伝わってきました。細かい指示をすると、「フンツァ、フンツァ!(分かりました!)」と、皆で声を揃えて快く応え、早速サンプルを作ろうと行動を開始しました。こちらも、「絶対にいいものを作って、日本で売らなければ!」と、さらにやる気がわいてきます。
 後日再び工房を訪ねると、みごとな試作品ができあがっていました。私たちは、「これならいける!」と気持ちが高まりました。サヌ・バイさんたちも満足そうです。「かなりの数になりますが、たった6人で作れますか?」と尋ねると、「もちろんです!たくさん注文してください!」と、嬉しそうに応えてくれました。その後、試作品を日本に持ち帰り、日本とネパールで細かい仕様の調整を繰り返し、ようやく商品が完成しました。
 洋銀細工に誇りを持って、誠実に、丁寧な仕事をしているサヌ・バイさんたち。ネパールの小さな工房から届く食器は、あなたの暮らしに、ささやかな幸せを運んでくれることでしょう。

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