柿渋染めの小さな村



柿は、遠い昔から私たちの身近にありました。食用としてだけでなく、汁を発酵させた柿渋は防水、防腐剤として暮らしの用具や建材に塗られ、なくてはならないものでした。安価で手軽なプラスチックやビニール製品などにすっかり市場を奪われてしまいましたが、やさしい自然な茶の色合いは染料としても優れています。しかも、その染色法は熱を加えず、水もあまり使いません。燃料代がとても高く、水が貴重なネパールで、柿渋はうれしい染料です。更にその色合いは日光を浴びるごと、歳月とともに深まります。

 ネパールで柿を見つけた時から、いつか実現したかった柿渋染め。柿は食用としてはあまり好まれず、カラスのえさになっていると知った時「もったいない!これを染料として活かせばどんなにいいだろう」と思いました。でも、柿の汁で染めると言っても誰も知らず、関心を示してくれず、そのまま何年も過ぎてしまいました。2006年1月、変化織りの指導をお願いし、カトマンズに同行した染織作家の中畑さんにそのことを話すと、直ぐに農業試験場で働く青年海外協力隊の知り合いに渋づくりを依頼してくれました。その後、どうなったかと気になっていましたが、後続の隊員の人にしっかりと引継がれていることを知りました。心踊る想いで、隊員の岩田恵さんと渋づくりをしている村を訪ねました。



渋づくりグループのリーダーシバ・マーガルさん
私の着ていた渋染めのブラウスを見て、うれしそうに顔がほころびました。


7月の暑い夏、まだ青い実をたたいてつぶして汁をとり出します。
毎年売れるようになれば貴重な現金収入になり、助かります。


絞った柿の汁はタンクで半年以上熟成します。
毎日、グループのメンバーが交替で液をかき回したり、温度管理などをしています。


柿渋の村で。
柿渋の服を作ることになったコットンクラフトの代表サラダ・ラジカルニカルさん(写真右)と
ネパリ・バザーロ代表土屋春代(写真左)



隊員の岩田恵さんと、シバさん。


渡辺洋傘店
柿渋の布が傘になるまで。
文:土屋春代


8枚の布をはぎ合わせるミシンは45年も使っているもの。
ふちを縫ったり、傘の袋を縫ったりするのは60年も使用している足踏みミシン。
道具を大切にし、丁寧なお仕事をされていることが分かります。


 東北新幹線の郡山駅で降り、西口を出ると商店街の中を真直ぐに広い道路が伸びています。そのさくら通りを10分ほど歩くと、右側にわたなべ洋傘店が現れます。市販されている日傘とはひと味もふた味も違った、小粋で珍しい傘がたくさんウインドーに飾られています。さらに傘の下をよく見ると、鈍い光を放つ、小ぶりでがっしりとした機械があり、独特の存在感が目を引きます。8枚の傘の布をはぎ合わせる、洋傘専門のミシンだそうです。90年近く前のもので創業から活躍し、役目を終えた今はウインドーの主としてどっかと座っています。
 店主の渡辺健次さん(70歳)は2代目です。1930年に洋傘店を創業されたのはお母様で、和裁で身を立てつつ、洋傘の技術を取得され、専門店を始められました。当時、傘は手軽に買えるものではなく、注文して作るものでした。そのため貴重品で、一度作った傘はどうにもだめになるまで、何度も修理して使うものでした。健次さんは子どもの頃、傘屋でありながらも自分専用の傘は持たせてもらえなかったそうです。やがて、どんどん忙しくなり、ほとんど手仕事でとても根気のいる仕事の上、手回しミシンで腕や肩が痛み、からだの辛そうな母親を手助けする内、健次さんは自然に技術を覚え後を継がれました。この仕事が本当に好きだからできるだけ長く続けたい、難しいものほど楽しく、気合が入ると笑う健次さんです。
 この柿渋の日傘の骨組みの柄は天然木の樫です。柄はいつまでも真直ぐであるよう、よく乾かさねばなりません。準備に相当な日数がかかります。持ち手は楓です。掴むところは握りやすいようにやさしく削られています。露先も木製です。主要な部分は国産の天然木で手作りです。そのため、一つひとつ色や形、太さが違います。柿渋染めも全て同じ色にはならないので、どの傘も“世界にたったひとつの傘”となります。
 手作りのオーダー傘の需要が減ったため、部品を作る業者も減り、今では必要な部品を集めるのが一苦労だそうです。以前なら一箇所で全て揃ったものが、最近では何箇所も探してやっと整うそうです。ネパリ・バザーロの特注傘も早くから部品を確保する努力をしてくださったおかげでお願いした数の日傘ができました。布や部品もですが、何より生産量に限りがあります。ご夫婦で一日に4本作るのが限度だそうです。しかも、そのペースを毎日はとても続けられないと言われます。大量には作れないため限定販売です。


布を一枚一枚慈しみ、布の心、使い手の心を想い、楽しみながら傘に仕上げる健次さん。



外国で大量生産された、安いけれど耐久性の悪い傘が市場を占め、
使い捨てされている最近の風潮をとても悲しく思われ、よい傘を丁寧に使い、
気軽に修理に出してほしいと、修理代はとても安くしています。



布に木製の傘用の定規を当て裁断します。カッターではなく、鋏にこだわります。
布の性質はそれぞれ違い、手で感じ、鋏に伝え、長年の経験と勘で布と相談しながら巧みに裁断するからです。




わたなべ洋傘店さんとは、3年前に亡くなった母の形見の着物を傘にしたいと探して出会いました。
思い出の着物が清々しい日傘になり甦った時、とても感動し、強い陽射しも待ち遠しくなりました。


わたなべ洋傘店
〒963-8005
福島県郡山市清水台2丁目1-16
Tel/Fax:024-922-8311
http://watanabe-kasaya.com

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