特集 紙の布に希望を託して

紙布 〜紙の布に希望を託して〜                                  文:土屋春代(ネパリ・バザーロ代表)
 紙布をネパールで織ろうと考え,当時WEANコープ(*)事務局長だったウシャさんに相談した時, 彼女はまだ自身でビジネスをしたことはなかった。ネパリ・バザーロとコープメンバーの手漉き紙の生産者, 織りをする生産者との連携をサポートするつもりが,ネパリ・バザーロだけに全てのリスクを負わせようとする人々を見て, 自ら紙布の生産者となる道を選んだ。  ネパールの将来,ネパリ・バザーロとつながる多くの生産者のことを考え"とても他の人に任せてはいられない"と 「ヤングワオ」を起ち上げた。自宅の納屋,ガレージから始めて5年。 厳しい道のりを経て,2008年2月,やっと自前の工房を手に入れ引越した。  しかし,自分たちの努力だけではどうすることもできないネパールの状況悪化と益々大きくなる責任に,喜びもつかの間, ウシャさんの闘いはこれからがまさに正念場。崖っぷちで最も険しい道を選択した彼女を支えることができるか否か, 私たちもまた,その覚悟を問われている。            *ネパール女性起業家協会(WEAN)が1991年に設立した女性起業家のための協同組合。 WEANでトレーニングを受けた,約150名の女性たちが共同の店舗を運営するなど販路拡大の役割を果たしている。


 ネパールのロクタ(*)から作る純度の高い手漉き紙,ロクタ紙の販路を広げ,人々に仕事の機会を創るため, その紙から紙布を織り,服に仕立てようと始めた,ネパリ・バザーロの「紙布プロジェクト」。 昔日本でも,極貧に苦しんだ農民たちが,貰い受けた反故紙から布を織り,野良着に仕立て,寒さから身を守っていたそうです。  細く切った紙に,強い撚りをかけて紡ぐのは,気の遠くなるような作業です。 しかし,ヤングワオ代表のウシャさんを始め,働く女性たち自身が工夫と努力を重ね,2006年春,ついに紙布の服が誕生しました。 ((*)沈丁花の一種の潅木。ネパールの標高1200m〜3000mの丘陵地帯から高地にかけて育つ。 1000年以上も昔から最も重要な紙の原料として利用されてきた。)           
Young Wowで働く生産者のみなさん (左から2人目奥)ウシャさん(右から2人目)土屋



 ウシャさんは自分の財産も投じ,独立した工房を手に入れ,女性たちがずっと仕事を続けていける環境を作りました。

 肩に圧し掛かる,とてつもなく重く大きな責任を彼女は黙って引き受けています。笑い上戸で笑わせ上手な彼女がふと見せる, 翳りのある暗い表情が,心底からの笑顔に変わる日を目指して,これからもずっと,ともに歩んで行こうと思います。  はるかな道のりですが,支えてくれる多くの仲間といっしょに。




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