横須賀市でのフェアトレードの取り組み
〜日本での先駆的な導入例〜
フェアトレードがいろいろな場面で取り上げられて認知度が上がり,理解が深まってきました。
しかし,ヨーロッパのように社会全体の利益になるという意味で自治体が主体的に取り組んでいく動きは,まだまだ日本では少ないのが現状です。
そんな中,神奈川県横須賀市で積極的な取り組みが始まりました。
ソーシャルビジネスを考える方にも希望や刺激を与えるであろう活動の状況を伺うために,
松本義弘さん(横須賀市企画調整部国際交流課長)と伊藤賢吾さん(NPO法人 横須賀国際交流協会事務局長)を訪ねました。
横須賀市がフェアトレードに取り組み始めた最初の動きは,横須賀国際交流協会の自主事業でした。
国際交流協会には「世の中に貢献する」という使命があります。2004年,伊藤さんは前理事長から
「ネパリ・バザーロ(以下,ネパリ)からコーヒーを仕入れて販売してはどうか」と声を掛けられたことがきっかけでネパリを知り,
コーヒー好きだったこともあり,さっそく物販の自主事業として取り組み始めました。
豆の販売のほかに,イベントでは1杯100円でカップ売りもして市民の皆さんの評判は上々です。
継続して買ってくださる協会会員も増え,毎月必ず5袋購入する方もいらっしゃるとか。伊藤さん自身もネパリのコーヒーを気に入ってくださり,
「混じりけがなく,すがすがしい味で,他のコーヒーが飲めなくなります。
安心して飲めて,おいしいコーヒーを扱っていることをうれしく思います。量は多くありませんが,長く続けていきます。
まだ,フェアトレードという言葉を知らない人が多いので,市民に分かりやすく伝える広報も工夫しています」と力強く話されました。
横須賀市国際交流課長,松本義弘さんがフェアトレードを知ったきっかけは,国際交流協会のコーヒー販売でしたが,
始めはその応援というわけではありませんでした。横須賀市は国際交流協会に委託金を支払っていますので,収支状況を確認する必要があります。
フェアトレードコーヒーの販売を収益事業として始めたという報告を最初に受けた時は,むしろ,赤字にならないか,自主事業として成り立つのか,
なぜあえてコーヒーの販売なのかと疑問に思い詳細を尋ねました。趣旨は理解したものの,成り立つかどうかは実際やってみないと分からないため,
実験的スタートであることを確認し,随時状況を教えてもらうことにしました。
一方で松本さん自身もフェアトレードの目的,考え方を調べ始めました。
そんな中,2008年1月に行われた「かながわ自治体の国際政策研究会」主催の研修会で松本さんはネパリ副代表,丑久保完二の講演を聞きました。
たくさんの気づきと共感の中で「共感したならばそれは行動に移さないといけない。
国際交流協会だけでなく,自治体としてできることがあるはずだ」と思いました。

左から,松本さん(横須賀市国際交流課),安田さん(横須賀市国際交流課),伊藤さん(国際交流協会),丑久保(ネパリ・バザーロ)
行政にできることとして一番意義があるのはPR,そして,どんなに小さな活動でも継続していけるよう支援することだと考えました。
その時,講演中に取ったメモにはしっかりと「式典のコーヒーはフェアトレードで」と書き記しています。
まず,直近の4月上旬の式典でケータリング事業者に指示をして,コーヒーにフェアトレードの豆を使ってもらい,
サーバーに「横須賀市の仕様によりフェアトレードによるネパール産コーヒーを使用しています」と掲示しました。
掲示があると質問があり,説明することで広がっていきます。国際関係の式典なので,国際貢献として大きな意味があります。
県が研修課題に選んだフェアトレードをさっそく行動に移したことを,研修担当者にもすぐに報告しました。
参加していたほかの自治体にも参考にしてほしいと思っています。
式典の飲食は無料提供をしていますが,さっそくフェアトレードへの行動に参加する機会にしてもらうため,
フェアトレードのコーヒーはあえて有料にすることも考えています。
現在フェアトレードコーヒーを扱っている横須賀市の国際式典は年に4回ですが,市が主催する式典は他にもたくさんあります。
賀詞交歓会,成人式など,他の部署にも根気強く持ちかけていこうとしています。
「横須賀市は小さな自治体ですが,県や国へフェアトレードを広めるきっかけになりうると思います」と,ひとつの自治体だけの動きにとどまらず,
この取り組みが全国に広がっていくことを願い,情報提供にも力を入れています。
今後の活動を続ける中で,伊藤さんは国際交流協会独自のフェアトレードの店を持ちたいと考えているそうです。
市民から募ったリサイクル品の販売もできれば,環境にも貢献できます。「早く力をつけて実現したい」と語ります。
松本さんも,「行政も経費削減で,事業の選択と集中を迫られる試練にありますが,逆に,選択・集中を進めていく際に伊藤さんのような
健全な希望を持った人に機会を提供できるチャンスもあります。ビジョンを持ち続けるのが大事です」と意欲を語ります。
フェアトレードは,単なる「遠い国への支援活動」ではなく,誰が,どこで,どのように作ったものかを知り,
納得できる商品を持続が可能となる適正価格で購入することで,生産者と消費者双方に利益をもたらし,社会のバランスを公平に保ちます。
今,大きな問題となっている食の安全も,国内外を問わず信頼できる生産者から購入し,
彼らを守り育てていくことで保つことができます。そして,それが拡がっていけば,地球環境を守り,人々の格差を縮め,世の中を平和に導くことにもなります。
そのためには,伝える場,教育の場が必要で,横須賀市国際交流課や横須賀国際交流協会は,まさにその役割を果たしています。
国際化は地域からと言いますが,それに自治体が大きく貢献しているのが,この横須賀市の取り組みといえるでしょう。
横須賀市は毎年夏に「市民平和のつどい」を開催し,市民とともに平和について考える機会を提供しています。
2008年は,8月16日(土)に横須賀市文化会館で開催し,「参加しやすい平和学 フェアトレードで途上国の貧困をなくし,紛争のない世界へ」と題して,
丑久保完二を講演に招きました。ネパールでボランティア活動を行った佐野由美さんのドキュメンタリー映画「with...若き女性美術作家の生涯」
の上映の後,丑久保完二がネパールの現状とネパリ・バザーロの取り組みを説明しました。会場には交流協会会員や学生を中心に市民が70人ほど集まり,
休憩時間には横須賀市国際交流協会が深煎りの豆を利用したアイスコーヒーの販売も行い,賑わいました。
開国の港,横須賀でのフェアトレードへの取り組み,あなたの街でも参考にされてはいかがでしょうか。

↑”平和の集い”での様子(写真は「フェアトレードが社会にもたらす役割」などを,ネパリ・バザーロ副代表丑久保が説明)
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