WFTOカトマンズ国際会議から

〜カトマンズに集合したFTOたち〜

 <ネパリ・バザーロ副代表 丑久保完二> 世界フェアトレード機関(WFTO)の国際会議は、2年に1度開かれています。
今年は、ネパールのカトマンズで開かれました。 約55の国から250に及ぶ組織が、5日間の会議に参加しました。 その最大のテーマは、現在の経済危機下での経済と環境に対するWFTOのスタンスを 明快にすることです。 そして、製品マークを決める重要な会議でもありました。 参加者をみて感じた今年の特徴は、アフリカからの参加が少ないこと、 韓国から初めて参加があったことです。 日本からの参加は私たちの他にフェアトレードカンパニー、シャプラニール、 東京経済大学と賑やかでしたが、現地の治安や電力事情などが良くなかったため、 とても高級なホテルが会場となり、参加者にはこれまでにないほどの費用負担がかかり大変でした。 各国の生産者たちはいくつかの団体が共同してやっと代表を参加させるなど、厳しい状況となりました。 地元からの参加も少なく、誰のための会議か危惧される場面も多々あったように思います。 共通語である英語による会議の進め方も、ネイティブ中心に組まれていて、 英語を母国語としない人々への配慮が不足していたように思います。 参加者が増えるなか、会議の性質も、求められるものも確実に変化しています。 世界中の関係者が等しくテーブルにつけるよう、改善がなされることを期待します。
韓国から会議に参加したフェアトレードコリア代表、イ・ミヨンさんと ネパリ・バザーロのボランティア、沖縄キリスト教学院大学准教授、新垣誠さんから レポートを頂きましたのでご紹介します。 初めて総会に参加して
<フェアトレードコリア代表 イ・ミヨン> 〈会議にて。ミヨンさんと、丑久保完二。〉
The Voice of Fair Trade」というテーマで開かれた今回の総会は ポール・マイヤー会長の次のような歓迎の辞で幕を開けました。 「今、私たちは厳しい状況におかれています。 世界的な経済の沈滞と気候変動という問題に直面しているのです。 このような危機の中で私たちが注目すべきことは貿易においての人間の価値です」。 続いて、ネパールフェアトレードグループ会長のパドマサナ・サキヤ氏(マヌシ代表)は 「WFTOは労働力を搾取せず、お互いを破滅に導くような競争をせず、 環境を阻害しないと信じます」と言い、 倫理に立脚し、伝統を守ってきたネパールの16団体と7千人の職人と技術者、生産者たちは 今回の総会を通じてネパールのフェアトレードを世界に知らしめると同時に、 参加したバイアーたちとパートナーシップを構築する絶好のチャンスであると言いました。 スペシャルゲストとして招待されたバングラデシュ BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)の創始者で 会長のファザル・アベド氏は基調講演で、WFTOが倫理的でフェアな貿易システムを発展させる 重要な役割を担っているが、これまでに世界貿易システムに決定的な変化を 与えられずにいることを指摘しました。 また、生産においては自然に沿った方法を増やし、 自然と人間を保護する現代的生産方式を開発しなければならないと強調しました。  今年で10回目を迎えた総会ではWFTOという新しいブランドを戦略的に構築すべき必要性と展望、 疎外されて貧しい生産者たちに、より良い貿易条件と権利保障のために開発されている管理システム、 SFTMS(Sustainable Fair Trade Management System)についての問題提起と熱い討論がありました。 特に生産者団体の商品にフェアトレードラベルを付与するやり方であるSFTMSについては 絶え間ない論争が続きました。生産国中心のアフリカ、南アジア、南米。消費国中心のヨーロッパ。 同じ消費国でも状況、立場の違うアメリカ、日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは それぞれWFTOとSFTMSについての見解が違い、合意に至るには困難がありました。  また、フェアトレードが長期的な信頼を得るためには気候変動についての具体的な対策を 練らなければいけないという主張が“克服!気候変動”というセクションでありました。 生産現地で起こっている気候変動の実態と被害状況を説明し、 それに対する消費国の責任について言及しました。 その他、最近の経済危機とその影響についても問題提起がなされ、 大陸別に提起された案件を討議し、賛成・反対を決定する会議が続きました。  最終日、参加者たちはネパールのハンディクラフト職人、そして生産者たちと共に、 持続可能なフェアトレードの未来を祈願し、世界文化遺産に登録されている ボダナート寺院に向かって行進しました。 そこでは、WFTOの文字の形にキャンドルを並べ、 世界の貿易を真の変化に導くことを願い会議の幕を下ろしました。 ※フェアトレードコリア 「女性連帯(Korean Women's Environment Network)」がフェアトレードを実施するため、元事務局長イ・ミヨンさんが、  その協力を得て自ら起業した会社。フェアトレード商品の企画、輸入、販売を行う。

華やかな国際会議の片隅で

〈沖縄キリスト教学院大学 准教授 新垣誠〉
〈ネパールの村にて 中央が新垣誠〉

「ネパールには、おいしいコーヒーがないんですよ」。
ウエイターの発言に、完二さんと顔を合わせて思わず苦笑いした。
グルミ、アルガカンチで長年オーガニックコーヒーの生産と貧困解決に取り組んできた
ネパリ・バザーロ副代表としては、納得いかないのも当然だろう。
西ネパールからフェアトレードコーヒーが、日本や韓国へ輸出されていることを知っているかと
完二さんが質問したら、そのウエイターは「知らなかった」と答えた。
「ワールドフェアトレードオーガニゼーション・グローバル会議」の会場である
ハイアットホテルのカフェでの出来事だ。
フェアトレードの国際会議の会場とあって、メニューの「オーガニックコーヒー」にも
ネパール産のフェアトレードコーヒーを期待していた私たちは、そのギャップになんだか拍子抜け
してしまった。振り返ってみれば、それは違和感に満ちた一週間の、象徴的な幕開けだった。
 窓越しに見える大きなプール、そして高級ホテルを囲むように並ぶ立派な建物が、
さっきから目にチラついて落ち着かない。「ここってほんとにネパール?」
そんな疑問を何度、完二さんと繰り返したことだろう。
二年前、ニュージーランドの地域会議に出席したときは、こんな違和感はなかった。
しかし、ここはネパール。視界の向こうにある貧困の現状が、意識から離れることはない。
 貧困解決と持続可能な地球社会の実現を目指すフェアトレード。
その国際会議でも、環境問題に金融危機と、タイムリーで重要な案件が準備されていた。
しかし連日、スケジュールを横目に眺めては結局、会議場を抜け出し、生産者との打ち合わせに向かう。
シリンゲ村のコーヒーに全力投球中の完二さんは、クーラーの効いたホテルの会議室にいても
落ち着かない。頭のなかは、村人のことでいっぱいなのだろう。
 ネパリ・バザーロの紙布を作っているヤングワオのウシャさんを訪ねた。
国際会議に参加しないのかと聞くと、「あんな高い参加費を払うなら、
ワーカーさんたちにボーナスあげるわ」と、大笑いして答えた。
しかしすぐ顔を曇らせて、ダーナマヤさんが病で亡くなったことを話し始めた。
亭主に先立たれ、育児放棄された孫たちを一人で育て上げたダーナマヤさん。
以前は日雇い労働で命をつなぎ、亡くなる直前まで働き続け、工房ではいつも笑顔を振りまいていた
姿が目に浮かぶ。七十九歳の最年長者でありながら、紙布の糸を紡がせれば
ヤングワオで一番の速さと技術の持ち主だった。
ネパリ・バザーロの服を作ることに、今までなかった誇りと生き甲斐を感じ、
今が人生で一番楽しいとよく言っていた。
  組織名を変え、更なる拡大を目指すワールドフェアトレードオーガニゼーション。
グローバルレベルでの貧困解決へ向けて、新たな市場の開拓を図り、
途上国の生産者と先進国のバイヤーが集った国際会議。しかし大半の生産者団体は、
その参加費用さえも工面できない。市場のみに気持ちを奪われることで、
計算機がはじきだす数字には映らないフェアトレードの側面を、
巨大化した組織は置き去りにしないだろうか。終始、会議で感じた違和感の原因は、
その脳裏にひっかかる疑問にあったことに気づいた。
 溢れんばかりのモノと引き換えに、心の豊かさを失った先進国の私たちは、
しばしその貧困な精神で途上国を「救おう」とする。
マイヤー会長が開会式で述べたグローバル資本主義の暴力から「人間の価値」を奪還するという試みは、
まず私たちが、ほんとうの豊かさと、人間の真価を理解することから始まる。
ダーナマヤさんの生き様は、モノでは満たすことのできない、真に豊かな生き方を教えてくれた。
彼女は自立した女性として自らの仕事に誇りを持ち、まわりの人から尊敬され、みんなを元気づけた。
ネパリ・バザーロの紙布は、そんなダーナマヤさんの人生と
真正面から向き合うことで紡ぎだされてきた。
「彼女は、私を本当の娘のように思ってくれたわ。一生忘れないわ」。
ヤングワオ代表のウシャさんは、涙目にダーナマヤさんのことを語った。
雨季が近いことを予感させるようなネパールでの最終日、私を元気づけたものは、
会議室に響く議決の声ではなく、ウシャさんのその一言と、
カラカラと回り続けるチャルカ(糸紡ぎ機)の音だった。


戻る