職場で取り組むフェアトレードな人たち
 フェアトレードが浸透するにつれ、個人や友人グループで買い物をするだけでなく、 企業や自治体、事業体がフェアトレードを意識するようになってきました。 横須賀市国際交流課が式典での飲み物にフェアトレードコーヒーを指定して広めていることは、 カタログ25号(2008冬)でもご紹介しました。 社会の一員として、積極的にフェアトレードに取り組み、推進している団体をご紹介します。 又木京子さん ヒューマンサポートネットワーク厚木  「ヒューマンサポートネットワーク厚木」は、神奈川県厚木市の街づくりを目指すネットワークです。 高齢者施設、ヘルパー事業所、保育園などの福祉事業に加え、神奈川県内53店舗にまで 拡大した海外支援のリサイクルショップ「WEショップ」の第1号店も含む、 全20事業所で構成されています。WEショップは地域から寄付された衣類や雑貨を販売し、 その収益の中から、国内外のプロジェクトの支援をしています。厚木1号店は、 ネパリが行っている紅茶農園の奨学金支援のため2008年に50万円の寄付をくださいました。 また、厚木店はフェアトレードを支持し、ネパリの食品や雑貨を扱っています。  ネットワーク代表の又木京子さんは、政府主導ではなく、市民が動いて地域を変えていきたい、 社会に役立つところに市民が「プライベートタックス」として投資し、 適切な場所にお金が流れる社会を作りたいと考えていました。 暮らしている地元で活動し、足下の地域を変えていかないと世の中は変わらないと考え、 地域の人と食の流れを考える集まりを始めました。 しかし、「学ぶだけでは世の中は動かない」と、厚木市会議員も務めました。 そこで感じたのは、政治も概念の世界に過ぎず、実体としての事業を起こすしかない、 ということでした。又木さんは、市民の資金を投じて福祉の事業を立ち上げることにしました。 まずホームヘルプ事業から始め、社会福祉法人を立ち上げ、そこで働くスタッフも 毎月の給料の15%を提供し、それを原資として高齢者等の入居施設や 保育園などの事業を増やしてきました。出資金の割合は変わりましたが、 このシステムは今も変わりません。働くスタッフ一人ひとりが次の事業の出資者になって ネットワークを支えています。 フェアトレードがつなぐネットワーク  又木さんたちは、街づくりをしていくだけでなく、視野を広げて環境問題やフェアトレードに 取り組む場にもしていきたいと考え、WEショップ厚木でフェアトレード商品を扱うことにしました。  そして次に、ネットワークの他の事業所もフェアトレードを取り入れるよう働きかけました。 元々地域活動や福祉に共感して集まったメンバーですから 「フェア」という考え方には理解がありました。各事業所でなにができるか考える中で、 まず始めたのが共同購入でした。各事業所にフェアトレード団体のカタログを置き、 それぞれで注文をまとめてWEショップに注文します。職場での飲み物として買うこともあれば、 個人で買うこともあります。ネパリの商品は、コーヒー、紅茶、マサラが人気です。 例えば高齢者支援施設「ケアセンターあさひ」では、スタッフルームにカタログを 置いていつでも見られるようにし、毎月の職員定例会議で商品購入の注文票を回しています。 WE21ジャパン厚木事務局の山風R喜子さんは、各事業所のスタッフがフェアトレードに 興味をもってくれるよう、会議などに出向いて商品の背景や魅力について説明をしています。 共同購入のシステムは、もう1年以上続き、すっかり定着しました。 保育園ViViの取り組み  ネットワークのひとつ「保育園ViVi」では共同購入の次に思いついたのが、 フェアトレードのカレーを給食のメニューに取り入れることでした。 早速、職員会議で骨付きチキンカレーを作ってみると、そのおいしさにびっくり。 給食を作っている事業所「W.Coキシュ」に、ネパリのマサラを使ったカレーを依頼しました。 他の保育園でカレーを出してみた時には、普段食べるカレーとの違いに馴染めない子が多かったので、 ViViでは、前日子どもたちにネパールの説明をしました。 カンボジアの子が通ってきていたこともあり、地球儀を見ながら、日本やカンボジア、 そしてネパールの位置を確認。ネパール国旗を紹介し、使用するマサラの香りもかいでみました。 おかげで子どもたちは翌日の昼食をとても楽しみにしていました。 チリは入れず、トマト多めのチキンカレーを、子どもたちはとても喜んで食べてくれて大成功でした。  私たちが訪問した日は、2回目のネパールカレー給食の日でした。 今回も前日に説明をしていたので、子どもたちはとても楽しみにしていて、 「やった〜、カレーだ!」と調理室に張り付くようにして大はしゃぎ。 鶏肉と夏野菜のマイルドなカレーは今回も大好評で、肉やナスが嫌いな子も、いつになく よく食べてくれました。小麦アレルギーで、普段のカレーは一人だけ別調理だった子も、 小麦粉を使わないネパールカレーならみんなと同じ物が食べられることも、 保育士さんには嬉しい発見だったようでした。  ヒューマンサポートネットワーク厚木では、フェアトレード食品のおいしさを知ってもらうために、 総会や学童保育のオープニングイベントでもキシュにネパリのカレーの提供を依頼し、 試食する機会を作っています。保育園児の家族にもフェアトレードの取り組みを理解してもらおうと、 通信で紹介するだけでなく、8月の親子合同の夕涼み会でネパリのカレーを食べてもらいました。 W.Coキシュの高橋香織さんは、「食と環境」をテーマに食材の輸入による環境破壊について 考察を深めていて、環境に優しく、人々の自立を促進するネパリのマサラを高く評価しています。  この春からViViで働き始めた保育士の大塚麻由美さんは、高校時代のボランティアサークルで 海外支援などをするなかで、フェアトレードも知っていました。 大学時代には遠ざかっていましたが、就職した保育園で再びフェアトレードに出会い、 フェアトレード担当になり、共同購入のとりまとめなどを行っています。 高校生の時はお小遣いが少なかったので、あまり買うことができませんでしたが、 今は自分で働いた給料で買えるのが嬉しいそうです。 休憩時間には、イベントを紹介したり、カタログを皆で眺めながら、 お茶菓子用のクッキーを選んだりしています。 WE21の研修で環境や貧困が自分たち自身の問題だと再認識した大塚さんは、 もっとフェアトレードを取り入れていきたいと想いを深めていました。  内川由喜子園長も、保育園の職員や児童に、フェアトレードをどう取り入れていくか、 さらに想いを膨らませています。 「ヒューマンサポートネットワークは街づくりを目指しています。 異業種でネットワークを組んでいるおかげで、いろいろなことが学べ、いつも驚きに満ちています。 若い人にたくさんのことを伝えていくのが役割と思っています」と温かな笑顔で語ってくれました。
さらなるつながりを目指して フェアトレードをネットワーク全体の事業に取り入れたことで、 新たな広がりが見えてきました。今後は、厚木に拠点を置く企業、大学、自治体などにも働きかけて、 これまでとは違う世代、違う業種の人たちにも伝えていき、 市民自ら動いて厚木の地域を変えていきたい、自分たちの生き方を見直すきっかけにしていきたい、 と又木さんたちは意欲を燃やしています。
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