特集 ―女性とフェアトレード― 熱き想いの女性たち マヌシの活動と草木絞り染め

 21世紀は女性の時代と言われています。本当にそうなることを願っています。
 そのためには、弱者の意見が無視されず、小規模生産者、コミュニティーが大切にされ、男性と女性が真に理解し合うジェンダーの視点を持ち合わせていなければならないでしょう。弱い立場の人々の仕事を応援するフェアトレードが今、注目されています。

 実際には、ネパールでも日本でも、そして村でも、町でも、あるいは都会であっても、私たちが知る多くの女性たちの生活は不平等との闘いといってさしつかえないように思います。それは厳しく大変なことですが、同時に、国境を越えて、同じ悩みを持つ女性たちは共感し、連帯できる強みでもあります。

 これまでも女性と社会、女性と開発....様々な切り口でその問題点と改善のための分析や報告がなされていますが、この特集では、フェアトレードで活躍するマヌシの情熱と素顔をご紹介し、彼女たちが女性の地位向上に寄与する姿を感じ取って頂けたらと思います。

 ネパールの生産者団体は、約75年前にインドのマハトマ・ガンディーの影響を受け、最底辺の女性たちの支援から始まったマハグティ、比較的貧しい人々が住む地域で、最下層と言われる人々の生活向上を目指した活動から始まったクンベシュワールテクニカルスクール、小規模な生産者のために国内販売と海外への輸出を行うサナ・ハスタカラ、手工芸品の生産者の雇用拡大を目指すACP、女性一人一人の幸せを願い、その自立と連帯を目指し、特に紙製品を通じて都市のみならず、遠隔の村への貢献も視野に入れているNWC、女性の自立を目指すマヌシなど、その形態は様々です。
 雇用の機会が少ない社会では、女性はコネがなければ就職はかなり難しい状況にあります。彼女たちが生きていくためには、結婚以外に選択の余地はあまりないということでしょうか。そのような状況を改善して行くため、女性の社会進出、つまり女性起業家の育成も重要です。WEAN(女性起業家協会)は、育成のための幅広い活動をしています。 その中から起業した女性たちの共同組合、WEANコープもあります。
 それぞれに共通していることは、人々の仕事作りを通して生活の向上に努め、フェアトレードの概念「援助より貿易を」を実践し、自らの足で立とうとしていることです。1996年には、ハンディクラフトを中心に扱っている7団体がFTGNというグループを作り、フェアトレードの国際組織I FATに参加し、活動の幅も広がっています。

草木絞り染め開発背景  
 ネパールの草木染めには、長い歴史があります。布や毛糸を染めて織物を作る時、タンカなどの仏教画や僧院の彩色などに天然染料が用いられ、それは今でも鮮やかな色を残しています。天然染料として数多くの植物が伝統的に使われてきました。
 
 18世紀には、ネパールに自生する植物がネパールの豊かな染色に生かされていることがわかり、中でも、染料としてよく知られている茜は、古い資料にも記録され、リンブー族が茜と塩を物々交換していたこともわかっています。 
 このような植物染料(特に茜を用いたもの)は、少なくとも1940年代まで用いられていましたが、1953年頃からは山間部にも化学染料が急速に広まり、価格が安く使用方法も容易なので、村の人々にとって、様々な色を染めるために多種類の植物を集める時間の短縮にもなるため、広域で使用されるようになり、草木染めは姿を消していきました。
 最近は、人々の嗜好がより自然で環境にやさしいものを好むようになっています。その土地に根ざした原料を利用して伝統的技術を活かしたものを要求しています。それに応えるかたちでネパールでも草木染めが見直されています。
 
 女性の自立支援を目指すマヌシでは、FTGNとして参加しているIFAT(フェアトレード国際組織)の草木染めワークショップでトレーニングを受け、FTGNの草木染め勉強会を通じて更に技術を磨きました。
 もともと持っている絞り染めの技術を活かしながら草木染めの製品を作ろうとネパリ・バザーロがデザインし、共同で試行錯誤を繰り返しながら今年の春夏の商品ができあがりました。
 着分の布が染め上がる度、ドキドキしながら広げ、美しい色が出た時の喜びは、それまでの大変な労力を充実感に変えてくれます。
 

マヌシの紹介

代表:パドマサナ・サキヤ 1943年4月生れ 経済学専攻

 マヌシ(MANUSHI Art&Crafts)はFTGNのメンバーで、1991年に女性の地位向上を支援するために設立されました。
 以前、女性問題を調査するNGOのメンバーとして様々な調査をしていたパドマサナさんは、女性たちが抱える問題の背景には必ず経済問題があることに気付き、女性たちが収入を得られるよう、技術訓練の機会を提供し、マーケットに繋げる支援をしています。またローンの貸し付けもして、彼女たちが自ら仕事を作る支援もしています。
 マヌシは、女性が経済力をつけることがネパールの継続的な発展にかかせないと考えています。

パドさんの熱き想い
 マヌシは、カトマンズの王宮から飛行場の方角へ歩いて30分程の所にあります。
 道路からちょっと奥まったところにあるその工房を訪ねると、まずパドマサナさんの第一声がこだまします。
「ナマステ! こんにちは。元気かい。さあさあ、お入り!」と、大きな太めの元気な声をかけてくれます。
 パドさんはフェアトレード・グループのためにワークショップを開いたり、新しい商品研究をしたり、村から来た人々と話合いをしたり、遠い村にも頻繁に出かけて行くなど、いつも休む暇なく情熱的に動きまわっています。
 特に現金収入が殆どなく売春のために売られる少女が多い村で収入に繋がる手段を提供し、売春を減らそうと精力的に取り組んでいます。
 6年前、マヌシと付き合い始めた頃は、パドさんの熱い想いには共感できても、製品の質には泣かされましたが、パドさんは着実に技術向上に取り組みながら改善してきました。
 早朝、大学で経済の講義もするパドさんは、教え子たちが将来ネパールを支える人材になることを願っています。サナ・ハスタカラを仕切るチャンドラさんもパドさんのかつての教え子です。


●絞り染め
 マヌシは、ほぼ消えかけたネパール古来の絞り染めを復活させました。染料の浸透を避けるために縫い目をかたく絞り、染料につけます。それは大変な労力を要する仕事ですが、仕上がりの美しい効果はなんともいえません。

●草木染め
 マヌシは、特に草木染めに力を入れています。ネパールの起伏に富んだ地形が与えたバラエティー豊かな植物という自然の恵みを活かし、環境にもやさしくなればとの思いからです。

●色素研究と発色実験
 草木染めの研究は、まだまだ少数の人々に支えられているのが現状です。それでも最近は需要も増え、少しずつ広がりを見せつつあります。
 染色の関連資料にもみられるように、マヌシは貴重な資料を作り、今後の発展のために貢献しています。

染色の関連資料

1) ネパールの植物染料
The Natural Dyes of NEPAL by Laxmi Malla 1993
RECAST,Tribuvan University
(主な染料を使用してウールの染色方法を紹介したもの)
182種類の天然素材とその色の目安をまとめ、且つ、32種類の天然素材と各種媒染剤との組み合わせによる色抽出のデータとその色見本161種類をまとめている。

2) ネパールで採取される植物染料
(ネパールの染料に使用できる植物を紹介したもの)
DYE-YIELDING PLANTS OF NEPAL by Bina Shrestha 1994
RECAST,Tribuvan University

3) ネパールの薬草
(ネパールで採取される薬草をまとめたもの。植物染料を知るのに便利)
Medicinal Plants of NEPAL
(Bulletion of Department of Medicinal Plants No.3)
His Majestry's Goverment Ministry of Forests and
soil conservation Department of Plant Resources

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