ネパールこぼれ話

 ネパリ・バザーロの活動を、内部のスタッフやボランティアがより深く知る機会として、夏冬のネパール研修ツアーと、国内の研修ツアーをしています。
 国内の研修ツアーは、普段協力を頂いている所を訪問したり、ネパールでの生産者、活動に関係した場所へ出かけています。
 そのツアーの途中で宮沢賢治記念館を偶然に訪問。エスペラント語(人工的に作られた世界共通語)を学び、常に平和を希求し、世界をみる目をもった彼に感動。そして、ショウケースの片隅には、なんと、ネパール語の賢治の本が!
 翻訳出版した「ヒマラヤ文庫」は、日本とネパールの、文学を通した友好を目指し、詩人の佐々木幹郎さんとネパール人のアディカリさん、そして友人、宮司、彫刻家、画廊のオーナー、学者、医者、詩人7人により設立されました。
 その気持ち、願いは、私たち絵本プロジェクトの目指すものと同じ。
 ここにも、素晴らしい出会いがありました。


ヒマラヤ文庫とネパリ 新田文子 岩手日報社提供2001.8.4夕刊


 「あのね、ヒマラヤ文庫のことなんだけど」と、横浜のネパリ・バザーロの代表の土屋さんから電話があった。
 さかのぼる六月二十四日のこと、一泊二日で横浜から十人のお客さんがやって来た。いわく「ネパリ・バザーロみちのくツアー御一行様。」
 ネパリ・バザーロ(以下ネパリ)はネパールの差別と貧困に苦しむ人々の自立を支援する活動をしている。彼らに就業の機会をと、その生産品を継続的に買い取り販売するというフェアトレード(草の根貿易)の団体である。今回はスタッフ、ボランティア、みんな休日をとって自費での参加である。私もフェアトレードの仕事を続ける中での苦労をみんなで話し合いたいと、宿泊先の大沢温泉自炊部で岩手の旬の食材を料理して精いっぱい彼らを歓迎した。
 翌日、はじめの予定にはなかった賢治記念館に行きたいということになった。そこで土屋さんは館内のほんの片隅に展示されていた、一冊の本に目をとめた。それは「銀河鉄道の夜」のネパール語の翻訳本だった。土屋さんはとっさにこの本をサパナさんにプレゼントしたいと思った。サパナさんは、ネパールで教育の専門家として、子どもたちに絵本を読み聞かせ、図書館をつくる活動をしている女性。この秋ネパリが日本に招き、岩手でも講演を予定している人だ。
 さて、入手したいと思っても出版元のヒマラヤ文庫の連絡先が分からない。記念館もイーハトーブ館に聞いても分からない。インターネットで調べて分かった。
「で、ヒマラヤ文庫ってね、佐々木幹郎さんや谷川俊太郎さんたち詩人の方たちが無収益でやっている文庫で、日本の文学をネパール語に翻訳して紹介する活動をしているんですって」と土屋さんの冒頭の言葉になった。
 私は電話の向こうの報告を聞いて、思わず鳥肌がたってきた。こんな偶然の出会いもあるのかと!賢治が、ネパールの人々のために、尽力しているネパリとヒマラヤ文庫とサパナさんを、巡り合わせたのだろうか?
 「日本の童話や昔話をネパールの子どもたちに読ませたいと願っているサパナさんにとって、この出会いはとても偶然ではあるのよね」
 ヒマラヤ文庫との出会いで、また面白い展開になっていくのかしら。わくわくするね。こんなことがあるから、続けてきてよかったね!と、興奮して電話を切った。みんなを歓迎してホッと一息の後、まさかこんなおまけがつくなんて!
(花巻市上小船渡、自営業)

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