特集 スパイスの効用と働く女性たち

フェアトレードで創る安全な社会、人の手で創る未来
農村から都会へ、安心食材を通して繋がる女性たち。
ネパールのおふくろの味、スパイスで心とからだに栄養を!

古い慣習を破って新しい村創りに動き始めた農家の女性たち。素材を吟味した安心できる食材で外国のマーケットを切り開き、次世代を担う若い女性たちの仕事場を創ろうとする女性起業家。そこで働き自信をつけ自らの運命を切り拓こうと意欲に燃える女性たち。現状を変え、積極的に未来を創ろうとする彼女らのエネルギーに満ちたスパイスは、私たちの生活にもきっと新たな味付けをしてくれるだろう。

マドゥマラティさん(三十八歳) 
七人家族、舅、姑、夫、娘二人(二十歳、十六歳)、息子一人(十歳)。
コカナ村で昨年から新しい動きが始まった。
マドゥマラティさんたち十五人の女性たちがグループを作り、収入向上のために生姜栽培を始めたのだ。女性が生姜を作ると夫が早死にするという古い言い伝えがあり、これまで手がけることができなかった。しかし、ほとんどの農作業を実際は女性がするのに、あれはだめ、これはだめでは収入が限られてしまう。限られたマーケットでは品種が少なければ収入はそれだけ減ってしまう。そこで古い言い伝えを破って新たな挑戦をしようと立ち上がった女性たちがいる。まだまだ十五人だが、成功すれば更に加わる女性たちも増えるだろう。
 この村からオーガニックの唐辛子を買っていたシターラさんはその生姜も、更に栽培を計画しているターメリックも買取り、そのグループの支援をしようとしている。シターラさんから農家の女性たちの意欲的な動きを聞いたWEAN協同組合は生姜の乾燥、加工についてのトレーニングプログラムを計画し、応援しようとしている。

WEANとは…
事業を成功させたネパール人女性起業家9名が、他の女性たちの事業設立や成長を助けるために、1987年に始めたNGOです。規模に関わらず、ネパール各地の女性起業家を対象に、トレーニング、マーケット支援、貸し付け、ネットワークなど様々なサービスを提供しています。1991年には、姉妹組織WEAN Co-operative(協同組合)が設立され、WEANのトレーニングを受けた約150名のメンバーが共同の店舗を運営するなど販路拡大の役割を果たしています。

WEANの目指しているもの…
女性が事業を運営するのは、技術的にも精神的にも厳しい状況です。とりわけ、読み書きのできない村の貧しい女性は、WEANの実践的なトレーニングを受けることで技術と自信を得、小額の資金を借りて家畜・野菜栽培・工芸などに利用し、手にした収入から返済をすると共に、グループで貯蓄をして今後に生かし、地域社会での活動を増やしていっています。成功した女性起業家はこれから事業を起こそうとする女性にとって、重要なモデルとなりますし、他の女性たちの雇用機会を生み出すことになります。WEANの活動の目的は、貧しい女性起業家の事業を発展させることにありますが、それが、ひいては彼女の家族や地域社会の生活の質の向上にもつながるのです。


シターラさんのホームスパイス(SHS)
    
 ネパールでよくご馳走になるカレーのおいしさ、新鮮なスパイスでマイルドな味のカレーは日本人に合う味です。そのおいしさを日本でも手軽に作れたらと、マサラ(ネパール語でスパイスのこと)の輸入を考えました。ところがありそうでないのがピッタリのスパイスセットとそれを供給してくれる信頼できる生産者。品質に厳しい日本に安心して出せるスパイスセットを作ってくれる人として、ネパールの女性起業家協同組合WEANコープの起業家のひとり、シターラさんを紹介され、スパイスセットの生産を依頼しました。2000年3月発売以来、期待した通り大好評でヒット商品となりました。
 WEANの代表であるシャンティさんはこれまで数多くの女性起業家を育てました。その中でもシターラさんは成功してほしいと心から願う女性でした。シターラさんはWEAN協同組合の理事として他の理事が嫌がる面倒な仕事、目立たない地味な仕事をニコニコと喜んで引き受け、いつも縁の下の力持ち。人を押しのけることなどできないお人好しでおっとりした性格の彼女の事業は赤字続き。何をやってもうまく行きません。彼女をじっと見ていたシャンティさんはいつかチャンスを掴んで成功して欲しいと願っていました。ネパリからスパイスセットを作る生産者を探していると聞き、直ぐにシターラさんのことが頭に浮かびました。依頼されたシターラさんは自宅の庭に作業所を建て、仕事を必要としている生活が厳しい家庭の女性を募集し、指導してホームスパイスという事業を立ち上げました。今では衛生管理の行き届いた作業場で10人の若い女性が頭巾を被り、エプロンとマスクをしてテキパキと仕事をしています。
 SHSで扱うスパイスは新鮮で安全です。東ネパールのパンチタールやカトマンズ近郊の農村コカナ村などから届くオーガニックスパイスが中心です。きれいに洗って乾燥させ、粉末にして包装するまでの一貫作業を、厳しい衛生管理の下で行っています。畑から、加工して出荷まで、必要量をその都度準備するので香りのフレッシュさ、味のキレはきっとご満足頂けるはずです。


私はもう何をしても生きていける自身がもてた
私を見て、頑張れば道が開けると勇気をもってくれたらうれしい
SHSで働く女性たち−働くことの意味と喜びを知った女性たち−

マンマヤさんとアニタさん

パタン市の旧王宮広場の近くに住むマンマヤさんは5人家族の長女です。父親に仕事がなく、一家の働き手は長女のマンマヤさんひとり。勉強が好きで学校に行きたかったのですが、家庭の経済事情では難しく、12歳から編み物などをして働いて、8年生まで学びました。もっと上級クラスまで行きたかったのですがあきらめました。今は働いた収入の中から弟たちを職業訓練校に行かせています。読書が好きでよく本を読むマンマヤさんが特に好きなのは「女性が新しい道を切り開く」内容の本です。とても勇気づけられて元気になるそうです。強い光が印象的な彼女の聡明そうな眼は自分の運命を自身で切り拓くことのできる人の眼です。「自分が一生懸命頑張って、どんな人でも頑張れば道が開けるという例になれたらうれしい」と話すマンマヤさんです。

 5歳の時に父親が病死し、アニタさんは母親とふたりで生きてきました。教育の大切さを知っていた母親は他家の洗濯をしながら得るわずかな報酬の中からも娘を何とか学校に行かせました。今、アニタさんは自分で働きながら学んでいます。毎朝4時半に家を出て1時間半かけてカレッジに行きます。6時から9時まで学校で学んだ後、シターラさんの工場に行って働きます。「この仕事を得てとてもうれしいです。どんなに忙しくても仕事があることがうれしいです。シターラさんの仕事がうまくいけば、私たちの生活も良くなります。だから頑張ります。」と、皆の仕事を纏めて職場の運営を助けています。アニタさんは、まだ最初の小さい工場が建つ前、シターラさんの居間で家族総掛かりでマサラ詰をした初めての注文の時から、ともに働いています。その頃、人と目を合わせて話せず、俯いてか細い声で話していたというアニタさんが、働きつつ学んだことで何をしても生きていける自信をつけ、これからはもっともっと教育を必要とする、次の世代の女の子たちの学費支援をしたいと頑張っています。

 シターラさんのところで働く女性たちは皆アニタさんや、マンマヤさんのように頑張り屋です。やはり働きながら学んでいるソバさんもいます。男性でもなかなか仕事が見つからないネパール社会で、仕事を得られる女性は本当に限られています。しかもシターラさんの工場のように女性が安心して働ける職場、セクハラのない環境は稀です。ここでは皆、活き活きと仕事をしています。将来、もっとマーケットが広がり、仕事が増えて複雑化しても、きちんとマネージメントのできる人材が育つでしょう。どんな困難があっても、しなやかで強い彼女たちなら、挫けず笑顔で乗り越えていくでしょう。仕事を持つということが単に収入を意味するのではなく、もっと大きなことに、自信をつけて、その人の可能性を広げるということにつながるのだとつくづく思います。もっとたくさんの女性が、教育と仕事、そのふたつを得られれば、その社会は豊かに大きく変わるでしょう。

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