とっても愉快なトレッキング入門

           大野達雄

『トレッキングって何なの?』
『エッ!ソノー…山を見に行くことかな』
『……どこの山』  『だからヒマラヤ…』
『エーッ!ヒマラヤ行くの!』
『イャ、だからソノ…ヒマラヤを眺めに…』『ヘーッ、じゃ山の観察?』
『イャソノ、エベレストとか見える所まで歩いて行ってネ…』
『エーッ!そんな所まで登るのー、苦しくないの、高山病とかなるんでしょー』
『イャ、登りもあるんだけど歩いてネ…ゆっくりとネ登るわけ少しネ…』
『……だから高いとこ登るわけでしょ』
『イャ、登るんじゃなくて、歩いてネ少しソノ登るわけ…』 『だから登るんでしょ!』『エッ…だからネ歩いて登るわけ…』
『歩いて登るのあったり前じゃない、歩かなくっても上っちゃうのはあんたの頭の血ぐらいでしょ!』 『…!?(アカン!トホホ…)』 これは7年前のわが家の会話。一口でトレッキングを説明できないもどかしさ(自分でもよくわかっとらんかったけどね)。これと同じ会話をあと2度、職場と酒場でくり返すことになろうとは…あーなさけない。世間の認識の低さに泣かされた。
でも今はどうだ!ドウダドウダ!《ヒマラヤトレッキング》輝かしい言葉ではないか!日本百名山あたりにウツツをぬかしている中高年のオトッツアン、頭が高い。
とまぁ、こんな苦労を経まして(どこが)
20日間の休暇をせしめ、ようやく山仲間のTさんと憧れのトレックキングに出かけることになりました。
目標は、ネパールヒマラヤのエベレストが属するクーンブ山群のゴーキョピーク5360m。
ここからは8000メートル峰が間近に4座も見えるという、じつにトレッキング界のすぐれものピークなのだ。
さて、コースは13号でご紹介のナムチェバザールを経て、ゴジュンパ氷河から流れ出るドゥードコシ川沿いに登り、氷河の末端を右にかわして、氷河のモレーンと氷河湖の間をぬけ、アブレーションバレーを詰めていくといった按配です。
が、字面では実感が伝わりにくい(私の文章表現力が下手という人もいる)ため、以下Tさんとの会話を再現し、私的トレッキング入門をご案内しましょう。
『あー荷物もって先に行っちゃったよ』
『シェルパとポーター6人位かな』
『オッ、大名旅行ジャン』
『んービーチサンダルが妙に似合ってるな』 『オレこんな軽装で体なまっちゃうね』
『じゃナムチェでビール飲もうぜ』 『…?』『good morningサーブだってさ気分イイね』『サーブ tea pleaseだとよ グフグフ』
『タームセルクだ!6000メーターだ!』
『あの奥がアマダブラムよ』        『オレ脈が早くなってきたよ、高山病かな』
『単にコーフンしてるだけじゃないの』
『ついに4000メーター越えたね』
『んー 何てことないね、酒飲んじゃおか』
『ウー 頭イテー酒はダメダー』
『グフグフこれがヒマラヤよ』
『昨夜ヤクがうるさくて眠れなかったよ』
『ヤク立たずめ』 『……?』
『メシまずいね、肉食わせろっていってみるか』 『ヤクしめるか』  『……?』
『これが氷河湖か、冷たくてうまいよ』   『水筒に詰めて日本で売るか』
『ぼろは着てても心は錦といきたいね』
『ホントお前何か臭うよ』  
『苦ヒーヨー、もうだめかと思ったよヒェー』 『頂上だー、エベレストだー、カメラだー』
『ハヒェー、ヒェー河だ』 『氷河だろー』
『ヒョー』 『……』
残念紙面がつきた。機会がありましたらまたお会いしましょう。
フェリ・ベトゥンラ!

目次に戻り