生産者と消費者の橋渡し フェアトレードショップ座談会


 数年前までは馴染みの少なかったフェアトレードでしたが、最近では全国各地にフェアトレードの商品を扱うお店が増えてきました。より一層発展途上国の人々の自立を応援したいという共通の思いで、それぞれのお店がネパリ・バザーロなどのフェアトレード団体から商品を仕入れて、お客様に生産国や生産者の様子を直接伝えています。今回は、フェアトレード商品を扱う小売店3店の方たちに、店を通じて見えるフェアトレードの現状、商品や生産者への思い、今後の展望について語っていただきました。(本文敬称略)

<参加者>
小島 美佐さん(ぐらするーつ代表)
和田 美恵子さん (ちえのわハウス運営スタッフ)
土屋 春代(ベルダ店長兼ネパリ・バザーロ代表)
司会:福田 博(ネパリ・バザーロスタッフ)

和田 美恵子さん ちえのわハウス 運営スタッフ
小田原市国府津3-14-3
TEL 0465-49-6045

小島 美佐さん ぐらするーつ 代表
渋谷区宇田川町4-10
ゴールデンビル1F
TEL 03-5458-1746

土屋 春代
フェアトレードのお店「ベルダ」店長
兼 ネパリ・バザーロ代表
横浜市栄区小菅ヶ谷町1-2-1
地球市民かながわプラザ2F
TEL 045-890-1447


司会:フェアトレードショップとしてお客様の状況や反応はいかがですか?

小島:「ぐらするーつ」を作った目的は、不特定多数の人が行き来する場所に国際協力の店を置くこと。買って下さるのは1日に30〜40人で、その10倍以上の方が覗いてくれています。国際協力を意識せずにいらした方も、お渡しした資料などを読んでくださって、2度目の来店につながっているようです。

和田:うちは、国府津の商店街でも端の方で、遠くからわざわざ人が来る場所でもありません。5年前の開店当初は、出資に協力して下さった80名の方々の応援で支えられていました。けれど、近所の方も牛乳や豆腐など日々の食品から関わりが始まったのをきっかけに、フェアトレードにも関心が向いてきています。フェアトレードの店が普通に通用するようになってきました。

土屋:「ベルダ」は、本郷台駅前とはいえ横浜のはずれで、来客数が不安でしたが、1日40人ほどが買い物をしてくださいます。たいていは、買い物のためではなく、他の催しのために来館した方ですね。フェアトレードに関心のない方にも、看板を工夫したら少し伝わりやすくなりました。

司会:フェアトレードを知っている人は少ないですか?

小島:目的を知って買い物をしてくれる人は1、2割でしょう。それでも、池袋店ではアンケートで4割の人がどんな店だかは知っていました。強い意志で参加するのでなくても、認知度は根付きつつあります。

司会:実際に買う客は、フェアトレードだから買うのでしょうか?

小島:フェアトレードよりも「商品」ですね。

和田:どうせお金を使うならこの店で、と応援してくれる人もいるけれど、それでも、商品に納得いかなければその後に続きません。品物の魅力は本質的なことですから、フェアトレードだからミシンが曲がっていてもいいというわけにはいきません。

土屋:趣旨をわかっている人ほど、生産者に良かれと思って厳しい指摘をしてくれます。お金を出して買う以上当然のことですよね。

司会:売れる商品の特徴や条件は何なのでしょう?

小島:一般的な傾向は、日常的に使える物ですね。飲むもの、食べるもの、使えるものから売れますし、リピーターもつきやすい。でも、売れると思ったものが売れなかったり、どうしてこれが、というものが当たることもあります。デザインや素材の存在感なのでしょうね。

和田:ぐらするーつのような都会の店は、面白いもの、かわいいものが売れるのかと思っていました。

小島:いえいえ、財布の紐は堅いです。

和田:うちと同じで驚きました。

小島:ネパリ・バザーロの「幸せを呼ぶふくろう」のヒットの原因は?

土屋:ふくろうは、集めている人も多いので、ふくろう自体の魅力でしょうか。

司会:実用性だけでなく、伝統文化に根ざした物語があるというのも価値があるのでは?

小島:フェアトレードの概念だけでなく、生産国の伝統・文化・暮らしぶりも伝えたいですね。実用性だけでは味気ない。ネパールのコーヒーが売れるのも、ヒマラヤの風景を彷彿とさせたり、珍しいものを飲みたいという、お客様の心理もあります。

土屋:質の良いことは絶対で、その上に精神的な部分ですね。

和田:でも、質の良さだけでは継続的には売れません。彼らが本来作ってきたものだけでなく、製品を広げていく必要もあるのでは?

土屋:まさに、それが私たちが協力できる部分ですし、生産者の求めていることです。一つの商品も売れて数年。売れている間に次のものを開発しないといけません。日本のマーケットを知っている私たちが、現地の材料や技術に合ったアイデアを提案していかないといけないのです。

小島:商品開発には2通りあると思います。ひとつは、日本の流行に追いつくためのもの。もう一つは、素材などもともと持っている価値を生かすもの。質の違いが、量産品に疲れた日本人に受け入れられることもあります。

土屋:ただ、そのまま日本に受け入れられるものでも、向こうには当たり前のことだったりするので、価値のあるものだと伝えないとわからない。彼ら自身気づいていない宝の持ち腐れになっているものもあります。

小島:日本のマーケットを知るものとして、伝えていく義務がありますね。

土屋:商品開発も、外国で考えたデザインをそのまま作らせる大きなフェアトレード団体もありますが、現地で相談して決めていきたいですね。

小島:バランスの問題で、そういう面も必要でしょうが、ノウハウを蓄積した大きなフェアトレード団体と違い、小規模の私たちは、むしろ規格品でない新しい形の商品開発、つまり共同開発が必要ですね。

和田:それでも、客によっては、エスニック色の強いものは生活に合わない人もいます。伝統を失うのも怖いけれど、輸出先のニーズに合わせて変えていく必然性も、経済的発展のためにはありますよね。

小島:バランスですね。売れるものを作るのも大切ですけれど、完全にデザインを決めて注文すると、フィリピンのものもバングラディシュのものも、同じ匂いがしてきます。きれいであか抜けているけれど、よく見るとどの国のものも同じという不自然さが出てくる。

和田:デザインだけでなく、縫製などの技術面も問題になりますよね。

小島:気を使う部分が日本人と違ったりするので、ポイントをきちんと伝えないとダメですね。言えばわかっても、要求がないから気を使う必要を感じなかったりします。

土屋:国によっても要求の内容は変わってきます。丁寧に作ると「質は良くなくていいから、値段を下げろ」と言われた生産者もいたようです。

小島:客の要求を集められるのは、客と直接関わっている小売店。いかに還元して卸元であるフェアトレード団体に伝えられるかで、生産者のモチベーションも変わりますよね。

土屋:今回ネパールで気づいたんですけど、竹で編んだカゴの足の長さが合わずにカタカタすることを、作っている村に伝えないとと思ったんですが、作っている村はポカラから歩いて3、4日かかる、電気もない村で、そこに平らなところがあるのだろうか・・・。斜面に建てられた昔ながらの土間の家では問題ないのでしょう。日本の暮らしに合わせるように、どう指導すればいいのか・・・現実はそういう世界。

司会:お店でもお客様にそういう話を伝えると、愛着を持ってもらえるのでは?

小島:そうなんです。こぼれ話のようなそういう話がいいんです。

和田:セーターにワラが入っていることがあるんですよね。でも、わかりました。向こうは土間で、電気もなくて暗いし、ワラや髪の毛を編み込んでもわからないのですよね。そういうことを知っていると、私自身は気分悪くなく、かえって編み手への愛しさが出てくるけれど、お客様はどう感じるのでしょうね。

小島:お客様にもそうした思いを持ってもらえるよう、「話す」ことに力を入れています。スタッフの一人は「話す」ことに専念するようにして、フェアトレードのこと、生産者のことを伝えるコミュニケーションを大事にしています。先ほどのような商品企画のこぼれ話をもっともらって、お客様に伝え、顔の見える関係にしていきたいですね。

司会:最後に、今後の目標をお聞かせください。

和田:自分はまだまだ勉強不足。もっと学んで、力をつけて大きくなっていきたいですね。フェアなトレードが当たり前になるように。

小島:これまでの3年間は立ち上げとしてがむしゃらにやってきましたが、これからは長いスパンでやれることを考えていきます。自分たちの組織だけでやれることは限られるので、全体として発展するには何ができるのか考えていきたいです。

土屋:地域に根付き、多くの方にフェアトレードを理解して欲しい。行政の建物に店を置かせてもらえたが、儲かる商売ではないので、こうした形でフェアトレードの店がもっと増えて欲しい。そのためには、自分たちが成功例にならないと。

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