働く女性たち ネパール・日本 講演会 シンポジウム


通信18号から通信20号までは、"女性と仕事"の特集です。今回は9月27日に、地球市民かながわプラザでネパリ・バザーロが主催した講演会とシンポジウムの内容を簡単にお知らせします。横浜市海外交流協会の研修プログラムにネパールから参加されているロヒニ・シュレスタさんを中心に開かれました。

演題: 働く女性たち ネパール・日本
     −家庭・仕事・自立ー
第1部 講演 「フェアトレードの現場から」
    講師:ロヒニ・シュレスタ
第2部 シンポジウム 「女性の自立とは」

パネリスト:ロヒニ・シュレスタ、青木和美(ナマステの会代表)、マンディラ・シュレスタ(ベルダ店スタッフ)、土屋春代(ネパリ・バザーロ代表)
司会:廣田直敬(NHKアナウンサー)、
通訳:鈴村香子、山下亜紀子

第1部 講演要約
「フェアトレードの現場から」
講師:ロヒニ・シュレスタ

 第三世界といわれる国に属するネパールは、第一世界の人々と比較してまだまだ厳しい生活と戦わざるを得ません。特に、人が人として生きる当然の権利が保障されているとは言えない状況がそこにはあります。その背景には、多様な原因がありますが、経済的に貧困であるということがその大きな原因のひとつです。経済的に貧困ということは、村では自給自足ができず、といって都市部でも失業者が多いということです。男性でも就職が厳しい社会では、女性は更に厳しい。そのような状況下にあって、結婚後もあえて仕事を持ち続けたのは何故だろうか。その答えをストレートに答えるには事情があまりにも日本と違い複雑です。そこで、フェアトレードで働き続ける生産者の具体的な事例を紹介し、私自身の苦労話などを通して、そこから日本で暮らす方々との違い、共通点を幾らかでも感じて頂けたらと思います。

◆ 社会における女性の立場
 教育を受けた女性達は、16、17%です。はるか昔から男性を尊ぶ精神を背負った私たちの社会は、女性を同等にみなしていません。多少の教育のある家庭以外では、今でも女性は一人のメイドにすぎません。女性達にも(男性と)同じように、愛情や地位を与えなければならないという考えが、まだ一般的ではありません。息子に大変な価値を置いています。こうして、女性たちは生まれたときから虐げられているのです。一人の女性は、小さな子どもであっても、若いときでも、同じように家の世話に自分の身を置かなければなりません。息子達がよい教育、遊び、食事を受けていたとしても、娘達はそれらから遠ざけられるのです。

◆女性の仕事と課題
 以上みた女性の社会的立場では、仕事を持ち、自分なりの生き方をするというのは更に難しいのです。そもそも、教育を受けた女性達は大変少ないです。ほんのわずかな女性達だけが、職につくことができています。ネパールの女性達は、さまざまな種類の手工芸品を作る技術を持っています。しかし、もっとも大きな問題は、販売する市場をみつけることです。

◆ 仕事の市場拡大を目指すサナ・ハスタカラ (フェアトレードNGO)の取組
 その問題を解決するために、ユニセフの経済支援、専門知識の支援を得て、1989年に、サナ・ハスタカラは設立されました。サナ・ハスタカラは非政府組織です。この組織の主な目的は、手工芸品の卸売り販売と、手工芸技術の向上、そして生産者に対する経済的支援です。現在サナには、組織や地域グループ、個人合わせて100以上の生産者がいます。サナは、二つのショールームを通じて、国内販売と日本をはじめとする各国への輸出をしています。サナ・ハスタカラの総売上の30パーセントは日本への販売です。このようにして製品を販売して得た利益を、地域の発展に使ったり、生産者に原材料や機械を購入するために使います。また生産者の必要性を見て、トレーニングを施します。

<この後、フェアトレードへの協力や、生産者のご紹介、活躍する女性のお話が続きました。「生産者を訪ねて」でご紹介して行きます。>

 仕事をはじめて3年後に、私は約30人の大家族を持つ夫と結婚しました。そして6ヶ月後に、職場で私の昇進の話がありました。それから2年後に、子どもができました。それで仕事を続けるのが大変困難になりました。大家族の中で家事をし、仕事をするのは大変です。しかし、その仕事なしで生活していくのは困難でした。また、ネパールでは仕事を得るのも大変難しいのです。夫の家族の中では、ほかの嫁は誰も職を持っていません。家を出るか、仕事を止めるかしなくてはならない状況になって、私は家を出る決心をしました。夫を説得し、理解してもらい、職場の近くに引っ越しました。
 これからも、生産者の方々と共に支え合いながら、多くの女性の方々に仕事の機会が増えるように努力して行くつもりです。日本にくる機会を得て、大変感謝しています。

第2部 シンポジウム要約
「女性の自立〜ネパール・日本〜」
 
社会の中でしわ寄せを受けやすい立場にいる女性や子どもが自立して生活して行けるようになるにはどうしたら良いか。それは様々なケースがあり、その回答を引き出すのは容易ではありません。それでも、これからの新しい社会を創造して行くためには、そのことも考えて行く必要があります。そこで、ネパールの社会と日本の社会、そして女性の状況をそれぞれのパネリストの立場、経験から語って頂き、お互いの社会の対比の中から、自立というものを考えてみることにしました。以下、スペースに限りがありますので、パネリストの方々の自己紹介とその方の背景抜粋、そしてフェアトレードとの関連性を以下ご紹介致します。

◆青木和美(ナマステの会代表)
私は真鶴で「まなづる生活学校」の一員として、消費者問題に取り組んできました。ゴミや資源の問題を追求していくうちに南北問題に突き当たりました。1986年、神奈川県の企画する青年指導者派遣研修に参加し、インド・ネパールを訪問するチャンスに恵まれ、その旅がきっかけでもう10年以上ネパールと関わっています。ネパールの暮らしは物質的には貧しいですが、人々は本当に心豊かに暮らしています。日本は経済的発展と共に何か大切な物を失ってきたのではないだろうかと思いました。帰国後、一緒に行った仲間と「ナマステの会」を作り、まず私たちにできることから始めることにしました。
私はまた、青年海外協力隊に参加し、スリランカのコロンボのスラムで2年間活動した経験があります。スラムで住民をまとめるのに実際に力を持っていたのは、女性たちでした。彼女たちの支えがあったから、私のボランティアとしての仕事が成り立った、と言えます。
「自立」とは決して経済的自立だけを意味しません。むしろ精神的な自立が大切だと思います。自分で考え、判断し、自分の意見をはっきり言えること、自分に責任を持つことそれが「自立」ではないでしょうか。
日本の中では時間の流れはとても早いし、画一的な尺度で物事が測られるし、生きにくいことはいろいろありますが、せめて日本で暮らしても他のアジアの国々の持つ豊かさを内面化して生きていけたら、と思います。日本の中でいかにアジア的に生きるか、それが私の課題です。そして、これからもアジアの人々との出会いを大切に生きていきます。

◆マンディラ・シュレスタ (ベルダ店スタッフ)
 私はネパールのカトマンズの出身で、ロヒニさんと同じネワール族です。日本に来まして9年になります。私は知り合いから、ネパールの女性問題、女性の自立のために支援をされているネパリ・バザーロのお話を聞き、私ができることであれば協力しようという考えで、今のお仕事を今年の1月から始めました。
 ネパールはアジアの中でも非常に貧困でいろいろな面で貧しい国です。ネパールの女性は一般に家の中にいる時間が多く、ほとんど家の仕事で一生終わるといっても過言ではありません。そんな中で、伝統的な手工芸品作りを通して女性たちに仕事の面白さを知ってもらい、現金収入で生活の向上を図り、子どもたちを学校へ行かせるという事が必要だと思います。そのためネパリ・バザーロが行なっているフェアトレードというのは、ネパールの女性たちにとって良い機会であり、より良い生活を求めるには絶対に必要であると思います。ネパールの女性は自分から進んで外に出て、いろんな体験をして勉強をしていってもらいたいと思います。私も日本に来ていつも主人の後を歩いていました。しかしそれでは自分自身が進歩がなく、うちにばかりいては面白くありませんので、いろいろな人たちとお友達になりたくて、外に出てお話をしたり日本の生活習慣を学んだり、自分から何でも進んでするようになりました。それにはいろいろな人々の支援、援助も必要で、今では非常にありがたく思っています。
 最後にネパリ・バザーロを通してネパールの女性たちの橋渡しとして、力を合わせて支援協力をしていきたいと心から思っております。

<ネパリ・バザーロ代表の土屋春代は、紙面の都合で省略させて頂きました。>

◆フェアトレード
以上の様々な問題を突き詰めると、人間らしく生きるとは何かを考えさせられます。地球環境保護の重要な課題のひとつである人口問題にしても、女性の意識だけでなく、社会の習慣からの離脱や、男性の協力なしには解決できません。結局は、国、人それぞれの立場は違いますが、男女の関係にまで行き着くことになりそうです。
  一方で、現実には貧困という社会的命題が存在しています。この解決なくして自立とは言い難いでしょう。その解決を目指して、水、電力、交通、健康、教育という分野で多様な支援や投資がなされています。女性への職業訓練などもあります。それらを継続的に支えるには経済活動(ビジネス)がある程度必要となります。 利益を上げないとビジネスは機能できませんが、本来、利益だけがその目的でもないはずです。その活動を通して地球の現状と未来、教育や文化など、大きな問題の改革に向かわなくてはなりません。
フェアトレードは女性の自立を考慮した活動をしていますが、女性の自立は、フェアトレードともこのように繋がって来ることを感じさせるシンポジウムとなりました。
(予告:通信19号は、今注目を浴びている自然素材のアローとは何か、その生産を行っている村の様子、女性たちの様子をお知らせします。)

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