フェアトレードは生産者に何をもたらすか  〜日本を訪ねて〜

          シャンティ・チャダ

 このたび、シャンティさんを日本にお招きしたのには2つの大きな理由がありました。 その一つは「現在日本各地でフェアトレードのお店として頑張っている方々やこれから考えようとしている方にネパールの生産者の実情を説得力のある生の声で聞いていただくこと」で、もう一つは「現地の生産者のリーダーに日本の実情(流通・品質管理・嗜好傾向など)を知ってもらい、それをネパールでの生産活動に活かしてもらいたい」からでした。そして、帰国したシャンティさんから日本滞在時の講座のまとめと感想が送られてきましたので、ご紹介します。

◆公開講座(2月19、20日)
横浜で行なわれた公開講座の目的は、フェアトレード活動について沢山話し合いをする事でした。両日とも日本各地から約35名ほどの参加者があり、それはおもにネパリ・バザーロの卸先の経営者だったり、フェアトレードを通しての貿易・ビジネスを始めたいと思っている人だったり、フェアトレード活動に個人的に関心を持つ人達でした。

講座では、私はネパール女性の社会的状況やフェアトレードの利点を詳細に紹介しました。ネパールの女性は、学歴のある女性を除き90%は農業に従事しています。結婚し、子どもを産み、畑を耕しながら、子どもを育てます。給料のない召使のような生活です。
学歴のない女性達も、自分の子どもは学校に行かせたい、よい食事を与えたい、よい衣服を与えたい、生活を改善したい、と願っています。その女性たちは、技術向上のトレーニングを受けて様々な手工芸品を作り始めましたが、売り先がなく収入につながらないという問題に行き当たりました。
私は高等教育を受けていますが、それでも夫の死後、経済的に非常に厳しい状況に立たされました。教育のない女性がどれほど厳しい立場にいるか、身にしみて感じた私は、そうした女性たちのためにネパール・ウーマン・クラフトの事業を始めたのです。
フェアトレードは、弱い立場にいる女性にとって、太陽の光です。フェアトレードは、ビジネスをするということだけでなく、生産者が自分たちの文化の価値を認識し、思いを込めた製品を作ることにつながります。
先進国の女性が生産者の女性を理解すること、女性が異なる文化の女性の苦境を理解することはとても大切で、国境を越えて女性たちが共感しあい、手を差し伸べ合えるようになりたいと願っているのです。
今回、参加者一人一人の自己紹介をして頂き、フェアトレードが店の経営者達に新たな視点をもたらし、考え方を変えたことが分かりました。そして、そうした話が私自身の認識を新たにしました。
 参加者とともに、私達はフェアトレード活動について具体的に話し合いをしました。
たくさんのNGOや国際NGOが村にまで入って、技術向上のトレーニングをしてきましたが、作った製品が売れなければ女性たちの経済状況はなにも改善されません。
原材料となる資源があり、製品化する技術があっても、売り先を見つけられない生産者のために、マーケティングを支援するフェアトレードグループの働きで、製品が海外に売られ、はじめて生産者の収入となるのです。
ネパリ・バザーロは、日本の品質に合わせるために、スタッフが自らネパールに来て、地方の村にまでも行って、生産者と直接デザインやアイデアについて話し、試行錯誤しながら商品を作ってきました。
日本の質に合わせ、かつネパールでできるものを考えてきました。公開講座の参加者の方々も、フェアトレード商品を売ることで支援をしてくれています。
必要なデザインなどのアイデアを教えてくれることで、日本での市場が大きくなります。日本の皆様が買ってくれることで、私達は市場を得、生産者の子どもは学校へ行き、生活が向上したのです。
 私はまた、商品開発、販売についての意見も提示しました。質が一定で、適切な時期に適切な価格で引き渡される事は買い手にとって非常に重要ですが、同様に草の根の生産者達にとっても利益になります。 買い手と売り手双方が、互いを社会的、文化的、感情的に理解するというフェアトレードの目的を理解する事が重要です。

◆その他の訪問先
 公開講座の後、様々な場所を訪問しました。
 卸先では色々な国の製品を、そのオリジナリティを損なわずにディスプレイしていることに大変興味を持ちました。商品チェックや顧客への対応も参考になりました。
 埼玉県で手すきの紙を作っている工房にも行きました。
 私が強く注目したことは、日本とネパールの手工芸品生産者の姿勢の違いです。日本の生産者は、他に煩わされず製品作りに打ち込むことができます(差別化の為に質の向上を目指す必要性と、伝統工芸の技術伝承の面があることも感じましたが)。けれどもネパールでは賃金が安いためなのか、生産者はいつも収入の確保に気をとられ、自分たちの創造力を探求することを忘れがちです。悲しいことですが事実です(できれば、質の良いものを作れば、より多く売れ、収入も増えることを理解して欲しいのですが)。

◆まとめ
 現地の生産者には、自分の製品が、輸出国でどのように販売されているかほとんど理解できていません。私が日本で感じたことは、企画、開発や輸送コストだけでなく、ネパリ・バザーロが客に提供するサービスは、私が予想していなかった手間や労力をかけているということです。それによって、卸先の人や消費者に各商品や生産者の情報が行き渡り、よりよい顧客サービスにもなっているということです。生産者達は買い手の役割について知ることが重要ですし、買い手も、ネパールの手工芸品が教育や職業訓練の機会の少ない厳しい環境に暮らす生産者によって作られているという事実を理解することがまずは重要だということなのです。

◆帰国後
 ネパール政府の家内工業部門のはからいで、ネパール各地の村の女性達が海外のマーケット情報を得るためにNWCを訪れました。村に帰った彼女達は、他の人達にも私の伝えた情報を広めてくれています。私が日本へ伺って皆さんにお会いし、交流したことから得た情報は、このようにしてネパール各地へと広がって行きます。
一人一人のこのような輪が、一人一人の人々の幸せを 築いて行くことを願って。

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