特集 熱き想いの女性たち -女性とフェアトレード-

編集部


 10年近く活動を続けてくると、様々なネットワークができてきます。その感想をひとことでいうとすれば、男性同士の関係は、良い悪いにかかわらず、ある程度駆け引きがあります。そこから、信頼関係へと変化して行きます。女性同士の関係では、特に共感がまず最初にあるようです。情熱と情熱がぶつかり共感を生み、信頼し合うケースが結構ありました。
 このような女性達のお陰で、日本からは遠い国で活動する場合にも、いろいろなアドバイスや情報を頂いたり、家族同然に親しい友人として精神的にも助けて頂いたこともありました。
 男性と男性の関係に彼女達が介在してくれることによって、その信頼関係が深まることもありました。そのお陰で安心して活動に専念できたことがいままでにも沢山ありました。

 21世紀は女性の時代とも言われますが、本当にそうなることを願っています。しかし実際には、ネパールでも日本でも、そして、村でも、町でも、あるいは都会であっても、私たちが知る多くの女性達たちの生活は不平等との闘いといってさしつかえないように思います。それは残念なことですが、国境を越えて、同じ悩みを持つ女性達は共感し、連帯することができます。
 弱者の意見が無視されず、小さな生産者、コミュニティーが大切にされ、男性と女性が真に理解しあう世界を築くには、ジェンダーの視点と意識を持ち合わせていなければならないでしょう。その点でも、今、フェアトレードが注目されています。

  女性と社会、女性と開発、...、様々な切り口でその問題点と改善のための分析や報告がなされていますが、この特集では、フェアトレードで活躍する女性達の情熱と素顔をたとえ一部でもご紹介し、フェアトレードへの理解を高め、女性の地位向上に寄与する姿を感じ取って頂けたらと思います。

◆ネパールのフェアトレードの現状

 ネパールの生産者団体は、他の生産国のそれに比較すると規模は小さいようです。約75年前に、インドのマハトマ・ガンジーの影響を受け、底辺の女性達の支援から始まったマハグティ、比較的貧しい人々が住む地域で、最下層カーストと言われる人々の生活向上を目指した活動から始まったクンベシュワールテクニカルスクール、小さな規模の生産者は、自ら生産技術向上や市場を見つけることが困難で、いつまでもその環境や状況が改善されないため、彼等のために国内での販売や海外市場への販路開拓を担うサナ・ハスタカ
ラ、女性の自立への活動を広く行っているマヌシ、手工芸品の生産者の雇用拡大を目指すACP、女性一人一人の幸せを願い、その自立と連帯を目指して、特に紙製品を通じて遠隔の村への貢献も視野に入れているNWCなど、その形態は様々です。
 雇用の機会が少ない社会では、女性の場合、どんなに優秀な人でも余程のコネがなければ就職はかなり難しい状況です。結婚以外に経済的自立の選択の余地はありません。
 そのような状況を改善していくためには、女性の社会進出として新しい仕事を創出することも大切で、女性起業家協会WEANは、女性が起業するための幅広い活動を実施しています。そこから起業した人々の共同組合であるWEANコープが生まれています。

 それぞれの団体で、設立目的や立場の違いはありますが、人々の仕事作りを通して生活の向上に努め、「援助より貿易を」を実践して来ました。1996年3月、ハンディクラフトを中心に扱っている7団体がFTGNというグループを作り、フェアトレードの国際組織IFATに参加しました。そして、1998年11月2日から5日まで、IFATのアジア地域会議もネパールの首都、カトマンズで開かれました。
 他にも、IFATへ単独で参加している紙作りを行う団体BCP、女性の技術訓練と自立支援を行うWSDCもあります。

 IFATには所属していなくても、ネパールで唯一オーガニックの紅茶生産を行い、海外(オーストラリア)の証明を受けているKTE(カンチャンジャンガー紅茶農園)もあります。
 小さな生産者、農家が多いネパールでは、フェアトレードの出番は多いし、期待も大きいのです。

 情熱をもって取り組む女性達

◆女性のネットワークを目指す
 NWCのシャンティ・チャダさん

 1950年ネパール生まれ。夫は8年前に亡くなり独身。2人の娘さんがいます。彼女とは、WSDC(女性技術開発センター)の理事長であった1991年以来の付合で、もう、かれこれ10年にもなります。「私たちは乞食ではない。恵んでくれなくていい。援助より貿易をして欲しい」と当時言われた言葉は、今でも鮮明に思い出します。その言葉が私達のフェアトレードを始めた原点です。女性の社会的地位向上を願う彼女は、パワフルな情熱のかたまり。地道にいっしょうけんめい頑張る人を応援しています。不器用で要領が悪い、そんな人の良い点もしっかり見抜き、応援しています。
 イギリス、アメリカ、インド、フィリピンなど各国でマーケティングを学び、自国ネパールで「自らの足で立たなければ明日はない」と精力的にフェアトレードを推進しています。
 ラナ家に生れ高い教育を受け、その恵まれた生い立ちを生かしながらも、しわ寄せを受けやすい女性達のためを常に思い、1997年には、女性一人一人の幸せを願い、その思いを込めて、ネパール・ウーマン・クラフトを設立しました。彼女のデザイナーとしての能力を活かしてネパールの伝統的な紙の販路を広げ、貧困に苦しむ極西部の生産者に継続的な仕事を提供してきました。
 また、各種協会の役員、代表を勤め、女性起業家協会の代表、およびネパール商工会議所の女性起業家開発委員会の局長にも就任。更に、ネパール政府の家内工業省に協力して、村の女性達の研修の積極的な受け入れもしてきました。
 シャンティさんは情をとても大切にする人で、私たちが現地で崖っぷちに立たされたとき、その暖かい心で何度も救ってもらいました。そして、様々な形で人生を教えてくれた大切な人でもあります。その大きな愛情をもって、今、女性のネットワークがネパールの各地へ、そして世界各地へと伸びて連帯していこうとしています。

◆フェアトレードの先人、
 ACP代表ミラ・バッタライさん

 有能なビジネス・ウーマンのミラさんも独身です。フェアトレードグループFTGNに所属する団体の代表を務める女性達は、なぜか独身です。
 英語が堪能で国際感覚あふれる彼女。多くの働いている人々の面倒を見る立場で責任も重く、いっしょうけんめいです。
 2年前に、IFATの国際会議がイタリアのミラノで開かれました。カトリック協会の国際会議場を使い、朝から晩まで門の中でした。たまには、外の空気も吸いたいものです。3日目にチャンスがまわって来ました。久々に夜会議がなく、夜6時頃から外に出られます。といっても、まわりは畑ばかりで、その中をスペインから来た人とネパールから出席した人達と探険旅行にでかけました。そう、ミラさんもいっしょです。結局、寄り道しながらやっと何か食べられるスナックに30分後に到着。歩きながらミラさんと多くのお話ができ、なぜ「フェアトレードをしたいのか」、女性とハンディクラフトの結びつきなど、彼女の想いが聞けたのは最大の収穫でした。でも、ネパールのACPでの彼女。やっぱり、力が入っています!

◆女性起業家、豊富なアイディアを活かして
 コットン・クラフト サラダさん

 女性がいくら優秀でも就職する機会は大変少なく、一般庶民にとっては大きな問題です。サラダさんは、自らも自分の足でたつこと、そして女性の雇用機会をつくることを考えて、WEANの研修を受けた1人です。
 彼女は、夫が勤務するJICA(日本国際協力事業団)のカウンターパートの土木関係の仕事で、ネパールの奥地に10年程生活した経験がもとになり、少しでも女性の家庭の中での地位向上ができたらと願い現在の仕事を始めました。
 縫い物ができる2人を集めて始めた仕事で一番苦労したのが販売市場をみつけること。なかなかマーケットを見つけられないでいるときに、ハンディクラフトの展示会がカトマンズで開かれました。サラダさんの所属するWEANコープも出展していました。
 ネパリ・バザーロ代表の土屋春代も、サナのマネージャーのチャンドラさんに誘われ、その展示会を訪れていました。その時、WEANのコーナーで記念にと買ったのがサラダさんのペンケースでした。
 それを見ていたサラダさんが、後日、チャンドラさんに自分の製品を見て欲しいと引き合わせを頼み、私たちとサラダさんとのご縁ができたのです。
 家族思いのサラダさん、お付き合いしてみると、周りの方も大切に、健康にも気を遣い、大変優しいその想いが伝わってきます。ネパール各地のこと、テレビで放映される番組のこと、彼女からは、様々のことを学びました。1999年に研修で来日し、自らの目で日本のマーケットを学んだ彼女は、製品開発、品質管理に磨きがかかりこれからも力強い協力者になってくれるでしょう。
 不安を抱えながらも起した事業も今では、オーストラリアのフェアトレード団体からの引き合いもでて来ました。今、世界に向かって羽ばたこうとしています。

◆絞り染めと草木染めにこだわり、女性の自立を考えて
 マヌシ代表パドマサナさん

 FTGNの中で、特に、女性の自立に取り組むのが、マヌシです。その創立者で代表を勤めるパドマサナさんは、1996年にFTGNの副代表を勤めたことがあり、1984年からネパール報道機関の会計、1991年から今日に至るまでトリブバン大学で経済学を教える先生でもあります。
 彼女は独身。ともかく元気で、仕事熱心。そして、フレンドリーな女性です。そして今までに、ジェンダーにかかわる多くの調査や活動をしてきました。その経歴は多く書ききれないほどです。その一部を紹介します。
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1994年、女性に対する差別除去のための国連会議のワークショップ
1995年、北京世界女性会議、“女性と開発”のワークショップ開催
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 そのマヌシは、草木染めでも、いち早くその技術を取り込んだ団体です。草木染めのネパールでの歴史は古く、それは、マンダラ等の絵の素材として利用されていました。時を経るに従って化学染料におされ、草木染めが見直されるようになってきたのはここ数年のことです。マヌシもこの草木染めの復活に貢献しました。
 草木染めの手順など、絞り染めを含めて、カタログで詳しくご紹介します。
<カタログ2001年春夏号、通信22号参照>

注)
ACP(Association of Craft Producers)
BCP(Baktapur craft Printers)
FLO(Fair Tarde Label Organization)
FTGN(Fair Trade Group in Nepal)
IFAT
(International Federlation of Alternative Trade)
KTE(Kanchanjanga Tae Estate)
KTS(Kumbeshiwar Technical School)
NWC(Nepal Woman Craft)
WEAN(Women Entrepreneurs Association of Nepal)
WEAN Co-operative
WSDC(Women's Skill Development Center)
WSDPP
(Women's Skill Development Project in Pokhala)

まだまだ、ご紹介したい女性がたくさん。サナのロミラさんとロヒニさん、アロークラブのジャヤさん、リラさん、ジャナカプールのマンジュラさん、WSDPPのラムカリさん、WEANコープのカラワティさん、シタラさん・・・、ともかくもネパリ・バザーロの仕事は、女性のネットワークに支えられています。


フェアトレードの歴史
 ネパールのフェアトレードの歴史は、女性の自立への戦いの歴史でもあります。
 女性、人々の自立には経済的な要因も見逃せないと早くから考えて活動をしてきたのは、マハトマ・ガンジーの影響を受けたマハグティで、76年の長い歴史を持っています(通信23号参照)。フェアトレードの専門部門を開き、本格的に取組始めたのは1984年です。 1980年代に入ると、女性の仕事作りのためのハンディクラフトを中心とした組織ができ始めます。WSDC(1975年)、BCP(1981年)、ACP(1983年)、KTS(1984年:通信24号参照)、女性起業家協会WEANは1987年、サナハスタカラ(1989年)、JWDC(1989年)、WSDPP(1989年)、MANUSHI(1991年)、WEANコープ(Co-oerative:1991年)等がその頃に設立されています。
フェアトレードのネットワーク組織FTGNを作ったのは1996年、フェアトレードの国際組織IFATへの加盟は1997年です。その頃、WSDC、BCPもIFATへ加盟しました。NWCのように、加盟を誘われながらまだ未加盟でいる生産者団体もあります。
 紅茶の共同組合組織による生産は、1984年から始められていて、フェアトレードのラベル表示運動の国際組織FLOへの加盟は昨年です。
 興味深いことは、自立のための経済活動であったということで、フェアトレードを意識されたのは1996年ごろの国際組織加盟のころからで、その頃から盛んにフェアトレードという言葉が使われるようになりました。


女性ための活動組織
ネパールには、多くの女性のための組織があります。
最近設立した組織の名前を極一部紹介します。
1、Women’s Awareness Center Nepal(WACN) 1991
2、Nepal Women’s Forum(NWF) 1990
3、Women’s Rehabilitation Center 1990
4、Women In Development Nepal(WID) 1990
5、Service for Unprivileged Section of Society(SUSS) 1989
6、Nepal Centre for Women Child Affairs(NCWCA)1989
7、 Creative Development Center(CDC) 1988
8、WEAN 1988

ネパール政府の女性政策
 ネパール王国政府の第8次計画では、女性開発のための分野別政策を採用しています。そのプログラムには、工業、農業、森林、健康、教育などの経済社会分野での女性進出の改善が盛り込まれています。
 その計画書は、特に、融資、技術ノウハウ、起業家の訓練、市場における様々なサービスが強調され、従来の伝統的な分野とそれ以外の分野でも女性が活躍できる場が拡大していくように図られています。

*FNCCIは、1997年に女性起業家ダイレクトリーを出版しています。


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