モーニング・スター・チルドレンズ・ホーム
巣立っていく子ども達

魚谷早苗


 モーニング・スター・チルドレンズ・ホームは、カトマンズの郊外にある子ども達のための小さな家です。ビシュヌさんとムナさんというネパール人ご夫妻が、身寄りのない子、貧しさで家族とは生活できない子ども達を引き取り、家族同様に育てています。教会関連からの支援金以外収入のないホームでは、子ども達の教科書をそろえることも難しく、子ども達の安定した生活と、教育の充実を願って、私たちのグループから支援をすることになりました。知り合ってから、今年でちょうど10 年になります。初めは18 人だった子どもの数が、今は40人を越えました。

◆ 就職の難しさ
 支援を始めた頃は、幼い子ども達の衣食住が満たされ、元気に学校に通い、子ども達同士で助け合う様子を見るだけで、私たちも安心していました。けれど、やがて心配になってきたのが、卒業後の子ども達の進路です。失業率の高いネパールで、身寄りのない子ども達には身内のツテやコネで就職することはできません。将来に夢を抱く子ども達にとって就職は自立への重要な一歩です。子ども達が仕事を見つけるには教育が重要と考え、私たちも特に教育を充実させるお手伝いを意識してきました。


◆ 成人した子ども達
 ホームができた時から暮らしてきた最年長の子ども達3人の様子を見てみましょう。リタちゃん、アルジュン君、プレム君の3人は、今年でもう23歳になります。
 リタちゃんは、18歳の時に結婚してホームを出ました。10年生を修了しないうちに結婚したいと言い出したリタちゃんに私たちは驚きました。ビシュヌさんもせめて卒業するまでは、と引きとめたのですが、意志の揺らがないリタちゃんについには折れて、教会を通じて知り合った青年との結婚式を精一杯盛大に祝ってあげていました。身寄りのなかったリタちゃんは、結
婚することで「自分の家庭」を持ち、女の子も生まれ、時々実家であるホームに顔を出したりしながら、幸せそうに暮らしています。

◆ 大きくなったアルジュン君
 アルジュン君はホームの子どもたちの中で一番初めに10 年生を修了し、SLC(全国共通の高校卒業検定試験のようなもの)を一度で合格し、私たちを大いに喜ばしてくれた(いまや)青年です。カレッジでさらに経済を学ぶことにした彼のために、学費の支援もしてきました。ホームで覚えて取得した運転免許と、カレッジで身に付けたコンピューターの知識も功を奏し
てか、出版関係のNGOに就職することができました。いい職場に恵まれ、コンピューター技術にさらに磨きをかけるため、学校に通わせてもくれました。
 仕事を得たアルジュン君はホームを出て、アパート住まいを始めたのです。台所もない小さな部屋に同居人となったのは、ホームで一緒に育ち、その年にちょうど10年生を修了したプレム君でした(ホームに来てから学校に行き始める子が多いので、学年と年齢はまちまちです)。すでに20歳になっていたプレム君は、近くに住むお兄さんの援助でカレッジに通い始めましたが、アルバイトがなかなか見つからず経済的には苦労していました。
 しばらくして、二人は台所もある少し広い部屋に移りましたが、同じ頃にアルジュン君の妹のレベッカちゃんが10年生を修了し、ホームを出て一緒に暮らし始めました。3人で住むには狭すぎる部屋でしたが、プレム君とレベッカちゃんの生活を支えるアルジュン君の給料ではその部屋が精一杯でした。レベッカちゃんは、昨年受けたSLCが残念ながら不合格で、今年の再試験に向けて勉強をし直しています。アルジュン君が学費を工面して、将来のためにパソコンを勉強させたりもしました。近くの学校で、ボランティアとして子ども達に教えたりもしています。
 昨年は、プレム君も無事にNGO関連の仕事を見つけることができました。ようやく自分で収入を得ることができるようになったことで、張り切って暮らしているようです。最近は、もう少し広い部屋に引っ越すこともできました。
 就職して以来、アルジュン君はEメールを使って日本にいる私たちと頻繁に連絡をとっています。おかげで、アルジュン君たちの状況や想いを以前よりも知ることができるようになりました。現在、彼らへの継続的な経済支援などは何もしていない私たちですが、自分達の力で頑張っている若い彼らが、10 年間応援してきた私たちのことを精神的にとても頼りにしてくれて
いるのが感じられて、嬉しい限りです。

◆ その他の子ども達
 ビシュヌさんは、10 年生を修了した子はホームを出るように促しています。いなかの家族や親戚の元に戻る子もいますが、ホームで教育を受けることができたおかげか、ホテルのフロントの仕事、映画館の仕事など、それぞれに仕事を見つけて暮らしているようです。ネパールの失業率の高さを思うと驚くほどですが、それは、ホームの暮らしが安定していて、子ども達が安心して勉強に向い、しっかりと育ったということだと思います。

◆ これから成人する子ども達
 ホームには現在40名を越える子ども達が暮らしています。子ども達の人数が増えたこと、年長の子の割合が増えて一人あたりの出費が増えたことで、生活費も多くかかるようになり、私たちの支援金もささやかですが増額することにしました。特にこの半年間に新しい子が増えました。売春させられていた女性の子ども、目の前で両親を殺されてしまった子など、非常に
厳しい状況からホームに引き取られてきた子もいます。数ヵ月後にそうした子に再会すると、来たばかりの頃に比べて格段に表情が穏やかになっていることで、ホームの環境のよさが伺えます。
 日本で多くの人に支えられて続けてきた応援が、子ども達の健やかな成長となって現れていることを嬉しく思います。今後成長する子ども達がどの子も成績優秀というわけではありませんし、皆がすぐに仕事を見つけられはしないでしょうが、ホームで安定した生活を送り、しっかりと教育を受けられるよう、これからも見守っていきたいと思います。

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