シターラさんのホームスパイス
ネパールのおふくろの味
--スパイシー・ホーム・スパイシーズ--土屋春代

◆シターラさんとの出会い

 シターラさんとの出会いはWEAN(女性起業家協会)代表を務め、私たちの長年の友人であるネパールウーマンクラフト代表のシャンティ・チャダさんの計らいでした。
 ネパールのそれぞれのご家庭でご馳走になるカレーのおいしさ、新鮮なスパイスでマイルドな味のカレーは日本人に合う味です。
 このおいしさを日本でも手軽に作れたらと、マサラ(ネパール語でスパイスのこと)の輸入を考えました。
 ところが、ありそうでないのがピッタリのスパイスセットとそれを供給してくれる信頼できる生産者です。
 シャンティさんに「良いスパイスセットを作ってくれる生産者はいない?品質に厳しい日本に安心して出せるスパイスセットを作ってくれる人。」と聞くと、WEANで育てた女性達の事業のマーケットとネパリ・バザーロのことを常に心配しているシャンティさんは、「任せて!」と胸を叩きました。頼もしいシャンティさん、いつも期待を裏切りません。
 帰国までの数日間でサンプルを作ってくれました。その時は誰が作ったのか、どういう人か詳しいことは聞けませんでした。
 何故なのかは後で事情が分りましたが。
 早速試作してみました。おいしいけれど、今1つピンときません。ネパールの野菜と日本の野菜は少し柔らかさや水気が違うからでしょうか?でもどうしたら「うまい!」と思わず叫びたくなるような味になるのでしょう。
 とにかく生産者にこれを真っ直ぐぶつけるよりほかありません。
 タイミング良くアローという自然素材を生産するエベレストの麓の村へ行く完二さんに、この役目を託しました。彼が、その紹介された生産者「シターラさん」のご家庭を訪ね、私たちの感想を伝え、味に深みをだしてほしいと要望しました。シターラさんはマサラの調合をいろいろ変えて調理してくれました。試食した彼が「これなら」というサンプルができ、持帰りました。本当においしいカレーでした。
 これです、これなら皆さんに喜んでいただけると自信を持って販売できると確信しました。
 張切ってレシピを作ったり、パッケージデザインをしたりして準備をし、2000年3月発売しました。お陰で大好評。ネパリのヒット商品となりました。

◆ 新規事業を勝ち取ったシターラさん

 ところで何故最初にサンプルを渡した時、シャンティさんが生産者についての詳しい説明をしなかったのかということです。その後、シターラさんからもシャンティさんからもその時の事情はよく聞きました。
 ふたりにとって、特に温厚なシターラさんにとっては頑張って仕事を掴み取った武勇伝があったようです。
WEANの代表であるシャンティさんはこれまで数多くの女性起業家を育てました。
 その中でもシターラさんは成功してほしいと心から願う女性でした。シターラさんはメンバーが所属するWEAN協同組合の理事として他の理事が嫌がる面倒な仕事、目立たない地味な仕事をニコニコと喜んで引き受け、いつも縁の下の力持ち。人を押しのけることなどできないお人好しでおっとりした性格で彼女の事業は赤字続き。何をやってもうまく行きません。彼女をじっと見ていたシャンティさんはいつかチャンスを掴んで成功して欲しいと願っていました。ネパリからスパイスセットを作る生産者を探していると聞き、直ぐにシターラさんのことが頭に浮かびました。
 でも代表のシャンティさんの立場では彼女だけに声を掛けることは許されません。
 WEANのルールでは2者以上に平等にチャンスを割り当てねばなりません。
 私が帰国する前日の午後1時をタイムリミットとして両者にサンプル製作を指示しました。
 期日に間に合わせてきちんとサンプルを作ったのはシターラさんでした。しかしその後の理事会では揉めました。たとえサンプルは間に合わなかったとしてもできるだけチャンスは広げ、両者で仕事を請け負うべきだという意見もありました。
 珍しくシターラさんは毅然として意見を述べました。「外国に輸出するのは大変な仕事です。きちんと約束を守れない人にそういう重要な仕事はできません」居並ぶ人はさぞ驚いたでしょう。普段控えめでニコニコしている柔和な人がはっきりと物事を言ったのですから。良い仕事を一人占めしたというやっかみへの反発もあったようですが、「この仕事は私が一番適している。だれよりも信頼を得られる良い仕事をする自信がある」と強く思ったそうです。
 自宅の庭に作業所を建て、仕事を必要としている貧しい家庭の娘を募集し、指導してホームスパイスという事業を立ち上げました。
5人の若い女性が頭巾を被り、エプロンとマスクをしてテキパキと作業をしています。
 ネパリ・バザーロに輸出するだけでなく、ネパールの国内市場に向けても販売しています。
 カトマンズなどの都市部では女性が出産する子どもの数も少なくなり、家族数も昔より減っています。
ネパリ・バザーロの仕様からヒントを得て10人前後の世帯用にマサラセットを作って発売したところ好評で、新しいアイデアで市場に参入する女性起業家として雑誌にも紹介されました。

 初めての納品の日のことです。帰国後日本ですぐに開かれる展示会のために、注文の一部を手で持ち帰らなければならないと言うと、「私が届ける」、と宿泊先まで届けにきてくれました。朝食を食べていたレストランに意気揚々と頬を紅潮させて入ってきたシターラさん。
 「初めてよ、輸出なんてするの!もううれしくて」
と興奮していました。

 無邪気だけどしっかりしている「明るいおふくろ」のシターラさんと、健康的でおいしいカレーを作り、いつまでもネパールと日本との味のかけはしづくりをして行きたいと強く強く思います。

◆シャンティさんから聞いたエピソード

 最初の注文を受け製品づくりをしていたシターラさんに、シャンティさんはある日、夜中に電話で叩き起されました。
 何事かと思ったシャンティさんの耳にシターラさんの元気な声。

 「私今何していると思う?ネパリ・バザーロからの注文のマサラセット作っているの。まだ最初で慣れないから家族皆に手伝ってもらっているの。今みんなで作っているのよ。楽しいわ!」
 シャンテイさんは心からホットしたそうです。