カンチャンジャンガ紅茶農園とその社会への貢献

矢島万知子


 2月24日(日)地球市民かながわプラザ調理室で、カンチャンジャンガ紅茶農園カトマンズ事務所長、ディリー・バスコタさんをお迎えして、公開セミナーを開きました。
 ネパリ・バザーロは、毎年2月か3月に、ネパールからフェアトレードの生産者をお招きし、フェアトレードのお店の方々、一般の方々と共にお話を伺い、意見交換をする公開セミナーを開いています。今年もネパールからは、世界でエヴェレストの次に高い山、カンチャンジャンガの麓にある紅茶農園のディリー・バスコタさんをお招きしました。セミナーでは、54名の参加者が熱心にお話を聞き、また、紅茶を作る、売る、買うというそれぞれの立場から意見を述べ合いました。セミナー会場を調理室にしたのは、ディリーさんの紅茶農園のマサラティーをその場で淹れて、参加された方々に味わっていただくためでしたが、会場は紅茶の香りと共に和やかな雰囲気に包まれました。

 「紅茶農園で働く農民200人を代表して、ナマスカール(こんにちは)」という言葉で始まったディリーさんのお話は、紅茶農園のこれまでの歩み、今、そしてこれからの希望について、わかりやすく、情熱を込めて語られたものでした。
 カンチャンジャンガ紅茶農園は、1984年、カンチャンジャンガの麓、パンチタールで、農業の将来には環境を守る有機肥料を使うべきとの信念のもと、1人ひとりがオーナーであり、働き手であるという理想を掲げ、100人の小規模農民によって作られました。生産物が現金に換えられるようになるまで4年かかりましたが、道路、工場を整備し、オーガニック紅茶の認定を受け、その結果フェアトレード組織を通じてヨーロッパへ多く輸出され始め、人々の生活はだんだん良くなりました。今では子どもたちに教育支援、牧畜のための資金貸し付けまでできるようになったということです。
 ネパールでは、全人口の86パーセントが地方に住む農民であり、その半分は国際貧困ライン(1人1日1ドルの所得)に達しない貧しい状況にあるそうです。「日本など外国からの援助は、本当に貧しい人々には行き渡っていません。日本の方々に私達の作るおいしい、新鮮な紅茶を味わっていただくことで、日本の方々は、新鮮な紅茶を、ネパールの人々は、より良い暮らしを手に入れられます。フェアトレードこそ、最も貧しい人々のところに届き、生活のサポートになりうるものです」とお話は続きました。
 ディリーさんは、フェアトレードの意味を、農園の人々に伝え、社会的文化的な向上を目指しています。天候に左右される作物でも、フェアトレードでは、一定の価格が保障されている点で人々の生活に貢献しています。農園では女性も男性と同じ賃金が支払われており、これは設立時の理想が実現されているということでしょうか。また、ディリーさんはお話の最後で、これからネパリ・バザーロとともに進めていきたいこととして、女の子への教育費の支援を挙げられましたが、その理由としておっしゃったことが印象的でした。それは、その支援による成果は男の子の場合は彼ひとりで終わってしまうけれども、女の子の場合、彼女の家族全員が、そして彼女の次の世代が良くなっていくのだからということでした。
 参加者からは、ネパールの農業全般について、紅茶農園での製法についての質問が出ました。そして、有機農法は大変な仕事かもしれないけれど、ネパールの将来にとって意義があるので是非頑張って続けて欲しいという励ましの声も聞かれました。

その日はフェアトレードのお店の方々が全国各地から参加され、夕方からは調理室が懇親会場となり、ボランティアの手による、新発売のシーフードカレー、アチャ―ル、ゴジ、紅茶ムースのお皿を手に、賑やかにお話が続きました。最後のしめくくりには、
 「生産者のお話を直接聞けてよかった。商品に愛着がわくようだ。フェアトレードを支えたい」「生産者のお話を聞いて、生き方を理解することができたようだ」「不景気であるが、頑張って続けていきたい」という、フェアトレードに関わる姿勢を語ってくださり、長い、熱い1日は終わりました。

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