シリーズ特集: 天然素材の日常着

天然素材の日常着 : by Young Wow Craft

ずっとWEANコープ(*)のメンバーたちと仕事をしていたので、ウシャ・ゴンガルさんとは彼女が途中2001年頃事務局長に就任した時からのおつき合いです。こちらの意
見もよく聴き、立場にも考慮してくれる、仕事を共に進められる良い仲間でした。手漉き紙を活かした全く新しい素材開発をしたいという想いを打ち明けた時も直ぐさま理解し、ネパールのためになるアイディアだから是非とも実現してほしいと激励してくれました。ところがメンバーと協議を始めても話が進みません。商品化できても投資が簡単には回収できないなどの様々なリスクをおそれ、ネパリ・バザーロ(以下ネパリ)が勝手にやることだから自分たちは言われたことだけして、最初からコストを充分カバーできる価格で対応しようという姿勢に打ちのめされました。 
 これまでにない商品開発、それも素材開発から手がけようというのですから、たくさんの困難があり、投資のほとんどはネパリが受け持つと覚悟はしていても、生産者に一緒に取り組む意欲をもって欲しい、互いの立場を尊重しつつ、率直な意見交換をして協力し合わなければ実現しないと思っていたからです。様子を見ていて、ウシャさんは自分がやるしかないと思ったそうです。事務局長に留任を求められたウシャさんはそれを断り、ネパリの紙布プロジェクトに協力するため、2005年9月、ヤングワオを設立しました。
 それから7年近くが経ち、仕事を広げるため紙布だけでなく、他の布でも服をつくるようになりました。裁断と縫製を担当するビンジュさんは2度の日本研修を終えて技術を磨き、新人のパビットゥリさんに教えながら仕事を進めています。規模は未だに小さく、たくさんの商品は作れませんが、紙を切る人、糸に紡ぐ人、織る人、布を裁断する人、縫製する人、12名の女性たちが毎日元気に働いています。 

文:土屋春代
*WEANコープ:ネパール女性起業家協会(WEAN)のトレーニングを受け起業した約150名のメンバーの販路拡大のために1991年設立された生産者協同組合。

生産者のご紹介

ヤングワオクラフト, Young Wow Craft
ネパールの誇る手漉き紙から布を織り、服を作り、大勢の人の仕事につなげたいというネパリ・バザーロの提案に共鳴し、自らリスクをとって立ち上げたウシャさんの工房です。日本での技術研修に2度招いた縫製部門のビンジュさんは、毎日集中して取り組み、その成果は一つひとつの製品の質の向上に表れています。

ビンジュ・カドゥギさん(28 歳)
縫製部門の責任者です。10 年前に父親が、2年近く前に兄も亡くなり、74 歳の母親、32 歳と30 歳の姉たちとの女性だけの家庭にあって、安定した収入を得られ
る仕事を持つビンジュさんは大黒柱です。 最初に日本に技術研修に招いた時はまだ入って半年の新人でしたが、5年経った今は後輩に指導をしながら、しっかりとした仕事をする頼もしい存在となっています。そんなビンジュさんですが、普段ひとりで悩みながら仕事をしているのでしょう。工房を訪ねると服のパターンや縫製についていろいろな相談を受けます。布やパターンを挟んで話し合っていると、ビンジュさんは安らいだうれしそうな表情を見せてくれます。お互いに日本での研修が蘇り、懐かしさがこみ上げます。共にものづくりをする喜びを感じるひとときです。

パビットリ・リンブーさん(33歳)
3年前からヤングワオで働いている、一番新しいスタッフです。縫製を担当しています。夫(39 歳)、息子(13 歳)と3人暮らし。東ネパールのダンクタという町から10 年前に仕事を求めて出てきました。村には仕事がないので、将来村に帰って店か何かを始めるために夫婦で協力して働いています。都会の暮らしは合わず、お金を貯めたらできるだけ早く村に戻りたいそうです。

シタ・カナルさん(30 歳)
紙糸を紡ぐ女性の中にシタさんがいます。シタさんは障がいのある次男の世話のため、自宅を離れることができず、在宅ワーカーとして糸を紡いでいます。以前お宅を訪問した頃の幼顔から大人びた顔つきになり背も伸びたスダサン君(12 歳)に再会しました。元気に見えた彼が実は前夜から高熱が出て夜中に何回も嘔吐したと話すシタさん。ところが、スダサン君は母親の心配をよそに来客に喜び、はしゃぎます。彼が疲れては大変と、お茶をいただいて直ぐに退出しましたが、部屋を出て階段を降りる私たちの背中にスダサン君の愉しげな笑い声がいつまでも響きました。

サビナ・シュレスタさん(36 歳)
細く切ったロクタ紙を紡ぐ、糸作りをしています。ヤングワオ創立の時からのスタッフなので、ウシャさんの信頼も厚く、大事なことを決める時、ウシャさんはサビナさんとビンジュさんに相談します。夫(30 歳)、息子(3歳)と3人暮らし。5年前にカーストの違う夫とネパールではまだ珍しい恋愛結婚をしました。ヤングワオからは少し遠いのですが、働き続けるために実家の近くに住んでいます。56 歳の母親はとても元気で子守をしてくれるので、ありがたいととても感謝しています。夫の郷里はタライ平野(インド国境の亜熱帯地域)で農業を営んでいます。いつか村に住むの?と聞くと、「嫁の立場は大変。今の仕事は好きだし、子どもの教育も考えるとずっとカトマンズ近くに住み続けたい」と、サビナさん。だまって夫に従う旧来のスタイルと違う、女性主導の新しい家庭を築いているようです。

ナニ・マハラジャンさん(48 歳)
紙布を織るナニさんは、実家にあった織機で若い頃から布を織っていました。夫がナニさんと3人の娘たちを捨てて家を出た後、持参した嫁入り道具の手織り機は彼女と娘さんたちの生活を支えてくれました。パシュミナショールが流行った頃で、家で請け負って収入を得ていました。しかし、10 年前にそのブームが去ると仕事を失い、働くところが見つからないまま家に居ました。2年ほどして、知人にヤングワオを紹介され、働けるようになりようやく暮らしが安定しました。その頃、狭い家に引っ越していたので、置き場がなく困っていた織機もヤングワオに買い取ってもらえました。それから8年が経ちました。長女、次女は卒業後しばらく働いてから結婚し、今は末っ子のメヌカさん(19 歳)と二人で暮らしています。12 年生のメヌカさんが卒業し仕事を得るまで、まだまだ気がぬけません。家を出て他の女性と暮らしている夫からは何の支援もありません。娘たちの結婚の支度も全てナニさんが頑張って調えてきました。息子のいないナニさんは老後のことも不安だと言います。住まいの裏の狭い空き地を借りて野菜をつくっています。早朝、採れた野菜を市場で売ってから出勤するそうです。この朝、私たちの訪問のため、売りに行けなかったことを知り、ウシャさんが全部買い取ろうとしました。ナニさんはいつも世話になっているお礼にお金は要らないと言い、しばらく二人の押し問答は続きました。

紙で作った布の服。: シルクの糸と一緒に織りました。
 ネパールのロクタ(*)から作る純度の高い手漉き紙、ロクタ紙の販路を広げ、人々に仕事の機会を創るため、その紙から紙布を織り、服に仕立てようと始めた、ネパリ・バザーロの「紙布プロジェクト」。昔日本でも、極貧に苦しんだ農民たちが、貰い受けた反故紙から布を織り、野良着に仕立て、寒さから身を守っていたそうです。
 細く切った紙に、強い撚りをかけて紡ぐのは、気の遠くなるような作業です。しかし、ヤングワオ代表のウシャさんを始め、働く女性たち自身が工夫と努力を重ね、2006年春、ついに紙布の服が誕生しました。
 様々な方向を向きながら絡まり合った、ロクタの繊維からなる紙布は、細い糸の中に空気をたくさん含み、私たちの身体を暑さや寒さから守ってくれます。その上ふわりと軽く、肩もこりません。優れた特性を持ち、たくさんの人の想いが織り合わされた紙布の服。ぜひ一度羽織ってみてください。

*ロクタ:沈丁花の一種の潅木。ネパールの標高1200m~3000mの丘陵地帯から高地にかけて育つ。1000年以上も昔から最も重要な紙の原料として利用されてきた

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