青森に広がるパートナーシップ・ネットワーク (vol.33)

 始まりは、ネパリ・バザーロ代表土屋春代さんと、橋本司さんとの出会いでした。八戸で行われたセミナーに参加した司さんは、そこで講演をした春代さんに深い関心を持ち、終了後の交流会で春代さんの隣に席を得て話しこみました。すっかり意気投合した二人は、その後も連絡を取り合い、時には司さんが横浜まで来て、春代さんの家に泊まりこみ、夜遅くまで話をすることもありました。春代さんやネパリ・バザーロを応援したい、自分も関わりを持ちたいと思いましたが、故郷の八戸を離れることはできず、八戸にいながら自分なりの方法でネパリを応援しようと決意し、自宅でネパリの商品を販売し、ネパリの活動を周りの人たちに紹介することから始めました。そんな司さんを2010年9月に訪ね、司さんとつながり、同じ想いでネパリを応援してくださる方々にもお会いしてきました。
文:魚谷早苗(ネパリ・バザーロ ボランティアスタッフ)

★お店で
たくさんの人においしい笑顔届けたい
 三叉路の魔よけとして庚申様が祭られた交差点にある、黄色い看板の「宇宙の贈り物」。2005年に三浦眞理子さんが始めたレストランです。一番の特長は赤ちゃん連れで安心して過ごせること。ゆったりした室内、おむつ替えも余裕でできる広いトイレ、そして月齢に合わせたバリエーションが揃っている安全な離乳食がメニューになっています。離乳食は、かかる手間は大きいのに食べる量はほんの少し。大変ですが、お母さんたちがくつろいで集える場所を提供したい、と始めました。大人のためのメニューも、添加物、農薬を除去し、厳選した調味料を使用したランチやデザートが楽しめます。三浦さんは2008年に日本雑穀協会の雑穀アドバイザーの資格を取りました。現在全国に約60名の取得者がいます。雑穀は元気の元、ブームになる少し前から注目し、研究を重ねてきました。
 ネパリとの出会いは、開店して1、2年経った頃。司さんの自宅ショップを訪ね、自然食の一環としてネパリの商品に共感し、店の一角を司さんに提供し、食品や雑貨を紹介しています。さらにスペースを広げようと計画中だとか。三浦さんの人生の目標は、支えあうこととみんなの笑顔。「笑顔を見るのに一番いいのは、食べること。店を通しての出会いが何よりうれしい」と今日も腕をふるっています。

★お店で
厳選食材を気軽に楽しめる憩いの場を目指して
 住宅街の、手入れの行き届いたアプローチを抜けて中に入ると、明るい厨房とゆったりと過ごせるカフェスペースの店内。「天使のえくぼ」は、健康を重視し、食材を吟味した、こだわりのパン屋さんです。店主の中西美智子さんは、夫の修二さんが病気をした時に仕事を辞め、看病の合間に以前からの趣味だったパンを焼いて知り合いに配っていました。アトピーの人も多かったので有機など食材は厳選しました。夫の病気から、自身の生き方などいろいろと考える中で、人々が集える場を作りたいと思い、2005年に「天使のえくぼ」が生まれました。
 始めは町中に場所を借りましたが、半年後に自宅を大改築して店舗と喫茶スペースを作りました。朝3時に起きて、無添加の野生酵母「白神こだま酵母」も使用して仕込みをしています。「こだわって作っているので、本当にニーズのある人に合わせたパンを作りたい。大勢にではなく、難しい要望を抱えた一人ひとりのオンリー・ワンでありたい」と一緒に働く修二さんが力強く語ります。山あり谷あり、紆余曲折でやってきました。ネパリの商品を置くことになったのは、近くに住んでいた司さんから聞いて、「仕事を育てる」という発想に共感したためです。「寄付には限界があります。努力してこそ未来があります。司さんと会わなければ知ることのなかった世界に出会えました」と、小柄な体と穏やかな笑顔で忙しく立ち働く美智子さんです。

★学校で
学校全体で考える貧困問題への取り組み
 司さんの夫、卓さんが4年前に八戸市立鮫中学校に赴任した際、司さんに勧められ、同僚への挨拶の品としてネパリのコーヒーを持っていきました。皆、好意的にネパリの説明を聞いてくれ、今では先生たちでお金を出し合ってネパリのコーヒーを常備しています。
 卓さんは横浜まで出向き、ネパリ主催のハンガーバンケットと貿易ゲームに参加しました。ぜひ自分の学校でもと思い、毎年生徒たちと貿易ゲームを行っています。ゲーム終了後には、どうやって解決しようとしたか、何が大切だったかなどの振り返りを行います。毎年行うので、一人の生徒が計3回行うことになり、翌年には違うことに気づいたりして、成長が見られます。研究授業でも取り上げられました。
 そうした取り組みの中、貧困問題に関心を持つ教員も増えました。何かあるごとにネパリを話に出したり、商品を持ち込んだりしたサブリミナル効果だと卓さんは笑います。
 今は、ペットボトルを集めて換金し、ベトナムの学校の成績優秀者に自転車を送るという国際支援をしています。卓さん自身もベトナムの子どもたちに会いに行き、本の少ない学校に日本の絵本を翻訳して贈っています。
 「中学生は、『正』と『悪』に悩む多感な時期にあります。『正義』に敏感で、ある意味とてもロマンチスト。国際支援やフェアトレードの考え方がスウッと入っていく子もいて、この年代にこうした機会を持つことができるのは、とても有意義なことだと感じます」と語る卓さんです。

★学校で
ファッションを通じて世界とつながる
 県立弘前実業高等学校の山内最子先生は、司さんの友人です。司さんからネパリのことを聞いて興味を持ち、なにか自分もと思いましたが、それが何なのか考えて、たどり着いたのがネパリの布地を使ってファッションショーの衣装を作ることでした。
 毎年行われている服飾デザイン科のファッションショーは今回2010年9月5日が17回目。3年生の生徒たちが、型紙から衣装製作まで行い、デパートの中のホールで自らがモデルとなってオリジナルの服を披露しました。今回のテーマは『Pray(願い)』。生徒たちは『布を通して世界平和を訴え、自分の未来に繋げられるように』という思いを込めて服作りに取り組みました。
 半年前の2月から準備が始まりました。青森県の伝統工芸である津軽塗のボタンをあしらった衣装や、修学旅行で訪れた韓国をイメージした衣装など10のテーマに分かれた一つに、ネパールの布を通し国際貢献を模索するというテーマが加わりました。生徒たちは服のデザインを考え、サンプルから布地を選びました。生成りのレース織りをグラデーションに染めた服、いろいろな柄の手織布をパッチワークした服、紙布を使った服など、天然素材の質感を活かしながら、オリジナリティあふれる服が16着完成しました。実際の布が届いてみると小さな見本の布で考えていたのとイメージが異なっていたり、手織りは解けやすくて縫うのに苦労したり、いくつも作ったリボンが同じ形にならなかったり…でも、できあがって身にまとうと、肌触りや着心地が良く、苦労も吹き飛ぶ喜びだったようです。
 ショー当日は、司さんはもちろん、「宇宙の贈り物」の三浦さんも八戸から応援に駆け付け、生徒たちの熱気に大感激でした。山内先生は、ネパールとの関わりをこれからも継続していけるよう、来年以降もネパールの布地を使ったファッションショーを計画しています。

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本物が持つ力
ネパリとの出会い

青森県立八戸第二養護学校 教諭 橋本 司

 「特別支援教育と国際協力ってなんか似ているな」と漠然と感じていた頃、春代さんが青森開発教育講座のゲストとして我が郷土八戸へ。そこでフェアトレードの仕組みを教えていただき、国内での作業の一部は福祉作業所に委託しお互いに手を取り合う仕組みを作っているという話を聞きました。さらに会場では、実際にネパリ商品を販売する機会を得、春代さんの話を聞いた人たちは次々にネパリの商品を手にし、購入する様子を目の当たりにしました。地方都市八戸で決して安くはないフェアトレード商品が次々に売れる様子を見て、「商品に語る力があればどこにでも通用する」と気づかされ、「これだ!フェアトレード商品を教育に生かそう。みんなが誇りに思う活動に取り組もう」とそのとき決心しました。
 それから十数年間、教員仲間には必ずネパリ商品を紹介したり自宅では展示会をしたりして、自分ができる範囲で活動をコツコツと続けていました。(相方には、学校で職員が飲むコーヒーをネパールコーヒーに替えてもらったり…)すると、今年の夏の終わりにうれしいニュースが。教員仲間の一人、山内最子さんが、生徒達が作り上げるファッションショーにネパリの布を教材として使い、弘前のデパートで発表してくれたのです。ネパリの布を身につけて、生徒達が向こうから歩いて来たときは感動で胸が熱くなりました。
 そして、今年の秋ようやく勤務している特別支援学校の作業学習にフェアトレード商品の値段付けを取り入れることができました。これはフェアトレード商品を置いてくださっている天使のえくぼさん、宇宙の贈り物さんのご協力があるからこそできたことです。作業学習での取り組みはまだ始まったばかりで、生徒も先生も今は、新しい活動を軌道に乗せることで精一杯ですが、彼らがいつの日か、自分の取り組みが世界につながっていることに、世界の中でもしかしたらはじめての活動をしていることに気がついて誇りに思う日を楽しみにしています。

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