ネパリの服作りを支える生産者

長い歴史に支えられた「マハグティ」 文:入澤崇


マハグティは、ネパールでもっとも古いNGO団体で、若き日をマハトマ・ガンディーと共に過ごしたネパール人、トゥルシ・メハール氏が1927年、貧しい女性の経済状態を引き上げようと設立しました。さらに1972年、夫に捨てられ生活手段をなくした女性や寡婦など、最底辺の女性とその子どもたちの避難所として、トゥルシ・メハール・アシュラムを開きました。
 そこでは、技術を身につけ仕事を持つことが他者の支配から逃れ、自立する道であるというガンディーの思想のもと、機織りや糸紡ぎ、縫製などの技術指導が行われています。その販路開拓とアシュラムの資金作りを目指して、1984年マーケティングのNGOマハグティを誕生させました。厳しい生活を強いられていた遠隔地の生産者の調査も進め、地方の伝統技術を応用したダカ織り、アローなどの製品をいち早く開発、商品化した功績は多大なものがあります。そのマハグティで9年間縫製などの仕事を続けている、シータ・パクリンさん(32歳)は、「仕事は楽しい、夢は自分のお店を持つこと」と、はにかみながら語ってくれました。
        
  アシュラムで働く女性たち
 現在、アシュラムでは合わせて50余名の女性とその子どもたちが暮らしています。何らかの事情で自分で生活していくことが出来ない女性たちです。職業訓練や識字教育を受けながら、共同生活をしています。また衣類など海外向けのフェアトレード商品を作っています。ネパリ・バザーロのアイピローもそのひとつです。カトマンズの喧騒とは離れた郊外の約2.8平方キロメートルの敷地内に作業場、寮、食堂、幼稚園などの建物と畑があります。中庭ではパンジャビを着た女性が静かに糸を紡いでいて、その隣では子どもたちが遊んでいます。
 西ネパールの特にタライ平野にカマイヤ(債務奴隷)と呼ばれる人々がいます。カマイヤの人々は地主の土地で小作人として働き、受け取る報酬が少ないので、蓄えも出来ずに、家族の結婚や病気などのときにその地主から借金をするしかありません。さらに高利子なので負債は一生返せない仕組みになっていて、子どもにまで続くこともあります。現在は政府によって禁止されましたが、今だに残っているといいます。
 2年前、西ネパールのカイラリという地域のカマイヤの女性たち10人が、アシュラムに入りました。
           
  ビバ・ソオウラティさん(17歳)
 家族は父、母、兄妹は全部で6人、ビバさんは上から2番目です。地主の畑で、朝8時から5時まで両親とともに畑仕事をしていたので、学校は途中で辞めざるを得ませんでした。今は家族と離れアシュラムで職業訓練を受けながら、将来のために技術を身に付けています。ちょうど2年たち、トレーニングは修了、最近は輸出用のエプロンやズボンを作っています。朝は5時に起きて、皆ひとつの部屋に集まり、お祈りをしてガンディーの好きだったという歌を合唱します。朝日の差し込む部屋で、50人の女性たちが静かに目を閉じて祈ります。まるで穏やかな朝に感謝しているようです。掃除をして7時から授業です。ネパール語や英語や保健などを学びます。特に好きなのは保健です。体のことを学ぶことは大切だと思うからです。アシュラムで20年ネパール語を教えているジャナキ・シュレスタさんは「ここで学んだことが自立への第一歩になります。ここを出た後、事務職についた女性もいます。それは私にとって大きな喜びです」と言います。
 9時に朝ごはんをとってから、仕事に入り、5時に終わります。エプロンなら6、7枚縫えます。6時に夜ごはん、料理も少し手伝います。皆でおしゃべりをして自分の部屋で勉強の復習をして10時に寝ます。休みの日にはホールのテレビで映画を観ることが楽しみです。ここで働いて技術を身につけ、できるだけここで生活したいと思っています。
       
  ニルマ・ラウニさん(22歳)
 夫をマオイストに殺され、5歳と1歳になる小さな男の子と取り残されました。カトマンズに住む兄の紹介で3ヶ月前に子どもと一緒にアシュラムに入りました。他の親戚はどこにいるのかもわからず、誰も彼女を訪ねてくる人はいません。
 アシュラムの中には、幼稚園兼託児所があり、働いている間安心して子どもを預けることができます。ニルマさんはこのことがとても嬉しいと言います。彼女自身も朝の授業に出ています。村に戻っても仕事は無いのでここで働き、子どもをしっかりと育てていくことがニルマさんの希望です。アシュラムでは2年のトレーニングの間、一定の貯金ができます。たとえ期間が終わっても希望があれば残って仕事をすることもでき、アシュラムを出て他へ就職する女性もいます。
 アシュラムの女性たちは、自分たちではどうすることもできない困難な状況から救いの手を差し伸べてもらい、そこから抜け出して未来に向かって歩き出そうとしています。アシュラムの女性たちの話を聞くと、仕事をし、生活していくことが当たり前ではないことに気付かされます。子どもを育てること、今日どうやって生きていくか、それが一番の課題でそれ以上を望む余裕は無いのです。でもアシュラムはそんな女性たちが経済的にも精神的にも余裕を持てるよう、未来に自立できるようサポートをし続けています。今日も機織りの音と、朝の祈りの声、教室で先生の言ったことを復唱する声、そして食堂から笑い声が聞こえてきます。


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