【コラム】ケサブさんの頑張り

シリンゲの期待の星、ケサブさん( 21歳)はすごく負けず嫌いの頑張り屋です。彼には農業の専門家になりたいという夢がありましたが、親に財産や安定した収入がなく、叶わぬ夢と諦めていたそうです。
 ネパリがバドリさんたちに協力してシリンゲ協同組合を設立し、有機証明取得
に向けて動き出した時、将来を考え誰かに専門知識を学んで欲しいと思い、中心
になって活躍していたケサブさんに打診しました。ケサブさんは夢が叶うかもし
れないと分かった時、天にも昇るほどうれしかったそうです。その時、きらきら
と強い光を放ち、輝いた彼の瞳が忘れられません。
 ところが、実際に学校に入ってみると、授業に追いつくのがものすごく大変だっ
たそうです。ケサブさんは、どこかの会社の経理に雇ってもらえるようにと、S
LC(*1)合格後、商業コースを選択したので、全国に3ヵ所しかない難関の
国立農業大学に合格しても、科学コースから進級した他の学生に比べて大きく遅れをとっていたのです。2年間の内容をわずか1年で学び、早く追いつこうと必
死で勉強しています。でも、子どもの時に心臓の大手術をし、それ以後も薬を飲
み続けている彼にとって、暑いチトワン(*2)での勉学は重く大きい負担です。倒れて病院に運ばれたこともあると聞いては心配で溜まりません。しかも、組合のことで、有能な彼がどうしても必要となり、長距離バスに乗って時々シリンゲに戻ってきています。
 「辛くない?続けるの、大変だよね」と心配すると、「ずっと夢見ていたことが実現したのだから、必ずやり遂げます。それに、組合も僕にとっては命と同じくらい大事だから、する仕事があれば、どんなに無理をしても戻ってきます。この出会いだって組合のおかげです。組合がなかったら僕の今はないのですから」と、言いました。その強い意思を包む身体がもっと丈夫だったら、この人はどれほどの仕事をやり遂げられるのだろうと思いました。しかし同時に、小さい頃から身体が弱く、両親の不仲など家庭環境も大変だったことが、今のケサブさんの優しさ、強さを養ったのだとも思います。
 ケサブさん、あなたの夢はあなただけの夢ではありません。身体に気をつけて、少しだけ、ビスターレ(ネパール語で“ゆっくり”の意)、ビスターレ。

*1…10
年間の基礎教育を修了したことを証明する国家試験。
*2:ネパール南部、インドとの国境に位置する亜熱帯のタライ平原にある町。1984年には世界遺産にも登録された、野性動物の宝庫として知られるチトワン国立公園がある。

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